英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

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魔人決戦編

第29話

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「なるほど、では――我も全力を出すとしよう」

 デレディオスがそう口にして手を天に翳す。

「我が元へと来い、!!」

「ッ!?」

 空から朱い雷が凄まじい勢いでデレディオスに迫る。
 それをデレディオスは素手で掴んだ。

「ククッ久しいな、相棒」

「――まさか、『招かねざる者ノングラータ』の魔剣?」

「ほう、知っているようだな」

 魔剣とデレディオスが口にした時から嫌な予感はした。
 外界からやってきたお尋ね者の邪竜。それを星の獣が殺し、その死体から巨人族随一の鍛冶師、名匠マレウスが作り上げたとされる剣。
 ラウルスティアから聞いた時は軽々しく手に入れてみたいとは口にしたが、一目見て分かる。あれは人外の領域にあるものだと。

 大きさはデレディオスに引けを取らない。片方だけに刃が付いており、緋級ひきゅうの翼竜の鱗を、肉を、骨を纏めて両断できそうな質量の大刀だ。
 血でも通っているのか、脈のようなものが大刀にある。遠目から見えれば罅が入っているように見えるかもしれない。

「剣を使う何て初めて知ったぞ」

「今まで使い所がなかっただけだ。これを使ったのは数千年ぶりだぞ」

 デレディオスが魔剣を一振りする。

「誇るが良い。これを使うのは誠の戦士を相手にする時のみだ」

「光栄には思わないよ」

 デレディオスが踏み込んでくる。
 剣先で魔剣をずらし、デレディオスの勢いを利用して急所を細剣レイピアで突く――そのつもりだったのだが、それは失敗だった。
 剣先で魔剣をずらそうと刃に剣先が当たると魔剣は細剣を剣先から真っ二つにしたのだ。

 反射的に身を屈め、一撃をやり過ごす。
 だが、ニゲラピスでできた細剣は完全に使い物にならなくなった。
 もう一つの細剣――ベリス大陸で手に入れた細剣を手にする。

「切れ味良すぎるだろうッ。まさか、ニゲラピスでできた細剣の剣先から斬る何て」

「じゃじゃ馬だからなぁこいつは。真面に打ち合えるのは同じ『招かねざる者』の魔剣しかない」

 だろうな。
 心の中で悪態付く。
 武器として加工するのならば最高とも言われるニゲラピスでできた細剣でも簡単に切り裂かれたのだ。まるでバターでも切るかのように。
 今手にしているのは地竜の骨でできた細剣だが、それでも対抗できるとは思わない。
 絶対に魔剣には触れずにデレディオスを殺さなければならない。

「シッ――」

 打ち合うことができないなら、無暗に連続技を出す訳にはいかない。
 即死の一撃を与えるしか、私には勝利する方法がない。

「考える暇はないぞ? 戦人流『乱舞』」

 触れてはいけない魔剣を紙一重で躱し続ける。
 このままでは不味い、様子を見るためにも距離を取るべき。そう考えてデレディオスから距離を取った瞬間、デレディオスは嗤った。

「戦人流緋級奥義――」

 不味い、罠に嵌ったッ!?
 魔剣に苦戦し、一度距離を取った者を殺すためにデレディオスの策――。

「『修羅の太刀』!!」

 天に大刀を翳し、振り下ろす。
 切れ味の良すぎる魔剣は空気を切り裂き、真空刃を作り出す。
 身を捻るが、僅かに遅かった。
 左手首と左足を切り落とされ、私は地面に転がった。

「ッ~~クソ!」

 左手首と左足を落とされたが、この傷ならば私の再生能力が発動する範囲だ。どうとでもなる。
 問題は斬撃の破壊力の方だ。
 メトゥスも同じようなことはできているが、威力が段違い。剣を振れば離れた家屋を軒並み両断するのも脅威だが、デレディオスが放った斬撃は、大地をも両断している。
 王城や街だけではない。目に映る地平線まで深く切り裂かれている。
 人一人に向ける威力ではない。

「おっと、これはいかん」

「デレディオス!?」

 斬撃の威力にも驚愕したが、それ以上の驚愕が襲って来る。
 何で、斬撃を放った側であるはずのデレディオスが斬りつけられている!?
 鎖骨から腹の辺りまで大きく斜めに斬られ、大量の血を流すデレディオス。

「な、何が……」

 目の前の出来事の原因が分からず、思わずデレディオスに手を伸ばしそうになって思い留まる。

「何だ。攻めて来んのか。千載一遇の好機だと言うのに」

「……不可解な現象に警戒しているだけだ」

「不可解な現象か。我とお主の主ならば原因は分かるだろうが、知らなければそう思っても仕方がないか」

「アルバ様が?」

 思いもよらない名前が出て来て眉を顰める。

「あぁ、英雄伝承あんなものまで造り上げたのだ。あれはこの星のことをよく知っていなければ造り上げられる訳がない」

「あんなものってどういうものだ」

「それはお主自身が聞くが良い。もっとも聞ければの話だがな」

 大刀を掲げ、デレディオスが踏み込んでくる。
 自分の傷など知ったことかとばかりに。
 その気迫を受けて私の思考も戦闘状態に戻って来る。

「しかし、お主も奇怪な体をしているな。切り落とされたはずの肉体が戻っているではないか!! それも祝福の力か。一体誰に受けたのだ?」

「知るかッ。私にだって分かるはずがないだろ」

 斬撃を躱しながら観察する。
 大怪我を追いながらもデレディオスの動きに衰えはない。
 だが、先程のように大地を深く傷つける様な一撃は放ってこない。壊すのは城壁や家屋程度だ。

「さっきの一撃、もう撃たないのか? それとも撃てないのか?」

「怪我で撃てないと思っているのならば、見縊るなと言っておこう。だが、撃てないのは事実だ」

 謎解きのような言葉だ。
 打てるけど打てない。魔剣を扱うリスクのようなものがあるから、打てないのだろうか。逆に言ってしまえば、リスクを無視すれば打てるということにもなる。

「どうした? もうお主の手札は尽きたのか? 我を殺すと言ったのはただのハッタリか!?」

「ッ――」

 大きく魔剣が振るわれる。
 まるで余裕を与える様に。
 その挑発に真正面から乗った。

「『無窮一刺・破城』!!」

 胴体に細剣を叩き込む。
 互いの距離は離れ、睨み合う形になった。

「口だけ達者か。良いだろう、見せてやる。

 私の言葉を受けてデレディオスは魔剣を天に翳す。
 振り下ろしの一撃。真正面から私が来ると確信している様子だ。
 態々目の前から挑みに行く必要などない。裏に回って無防備な背中を一刺しすれば勝負は着く。
 だけど、

「一歩、音を越え――二歩、影を残す」

 もうデレディオスは敵だ。
 容赦をしない理由はない。甘さを消したのだ。
 背中を刺しに行けば良い。
 真正面から行っても殺されるだけだ。
 分かっているのに、やりたくない。
 デレディオスを越えたい――そう思っているからか?
 あんな価値観を持って、理解できないと分かったのに、どうしてそんなことを思う?

「あぁ、そうだった」

 そして、気付く。
 何故、デレディオスに真正面から向かおうとしているのか。
 そうだった。
 デレディオスは、
 私を見て、剣を、歩むべき道を教えてくれた。本当の師匠だった。
 価値観が合わなくても、それは紛れもない事実だ。
 何より、

「妖精剣術『一段・無窮一刺』」

「戦人流『修羅の太刀』」

 一直線に、これまで以上の速度でデレディオスに迫る。
 振り下ろされる魔剣と細剣が接触し、

 アルバ様の悲鳴が聞こえた。
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