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第67話決意
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凄まじい音が響き、衝撃によって瓦礫が吹き飛ばされる。
それでも地獄壺が崩壊しなかったのは瞬間衝撃吸収壁があったからだろう。氷によって壁の性能が機能しなくなったのは4層のみ。1層から3層。そして、5層の瞬間衝撃吸収壁の性能は殺されてはいなかった。
そのおかげで地獄壺が崩壊することはなかった。なかったが、内部は滅茶苦茶だ。
頑丈な檻の中で外に衝撃が逃げずに内部で暴れ回る。5層が落ちてくるわで当然と言えば当然だ。
灼熱に包まれていた5層も半壊し、今では内部は瓦礫の山。
その瓦礫の山の一部に北條はいた。
周囲には人影はなくいるのは北條と北條が吹き飛ばされる前にしがみついていたランスイルのみ。
「——グッ。ゴフッ」
ランスイルの口から血が零れる。北條の右腕はランスイルの胸に深く突き刺さっていた。
表情を歪ませ、目を見開き、有り得ないものを見たかのように北條を見詰める。
ランスイルが干乾び、身動き一つしなくなるのを確認して北條は腕を引き抜いた。
「——ふぅ」
腕を引き抜いた北條は一息つき、後ろに下がって尻もちをつく。
その表情には疲労の色が強く出ていた。
体は訛りのように重く、背中には冷や汗がびっしょりと流れている。これまでの戦いでの疲労がどっと襲って来る。
特大の修羅場を潜り抜けたことへの安堵によって緊張の糸が切れ、これまで気にもならなかった小さな切傷や打撲の痛みを感じて北條は顔を歪める。
体を固い床へと投げだし、大の字になる。周囲を警戒するなどということは既にすっぽ抜けていた。
そんな北條の頭の中に声が響き渡る。
『フハハハハ!! 余の計画通り!!』
「(嘘を付け)」
頭に響いてきたのはルスヴンの声だ。高らかに笑うルスヴンに北條は冷ややかな視線——は向けられないので冷ややかな言葉を向ける。
「(絶対計画通りじゃなかっただろ。俺、聞いたからな? 『あっ』て言ったよな。『あっ』て)」
『何のことかサッパリだな!!』
「(白々しいにも程があるですけどルスヴンさぁん!?)」
北條の言葉にルスヴンは変わらず高笑いを返す。
それを見て北條は息を吐いた。北條に分かったのはルスヴンでも想定できないことがあった。ということだけだ。
ランスイル以外に意識を別ける余裕はない。むしろ、していたら殺されていた。せめて、何が起こったのかは知りたいと思い、ルスヴンに説明を求める。
『あぁ、あの衝撃は敵の罠だとか異能だとかそんなものではない。アレが引き起こされた原因は宿主が4層全ての空気を冷やしたからだ』
「(何で冷やしたら爆発したんだよ)」
『冷やしただけでは爆発はせん。チラっと見えたが、5層を落とした時に炎が見えた。アレが冷えた空気を温めて空気を膨張させたのだろうよ』
そこから化学の授業のような短い時間が始まった。
産まれてこのかた授業と言えば読み書きと計算しかしてこなかった北條にとってチンプンカンプンなものが多く、ルスヴンも詳しく説明するつもりもなかったため、取り敢えずそういうものだと覚えろ。と言われて北條も今は納得する。
「(こんなこともう二度とごめんだ)」
衝撃に飛ばされて何が起こったかも分からずにいた北條。ランスイルも何が起こったか分からずに硬直していたのを覚えている。
何故北條が勝てたのか。何故ランスイルよりも先に動けたのか。
そんなもの、決まっている。ルスヴンがいたからだ。ルスヴンが北條の腕を動かし、胸を貫かせたのだ。
あの衝撃波は4層にいたもの全てを別々の方向へと吹き飛ばした。
北條はランスイルに強くしがみついていたため、共に飛ばされたがそれは吹き飛ばされることを予想していたのではなく、そのままルスヴンに取り込んで貰おうと思っていたからだ。
ただの偶然。ただの幸運だ。
ランスイルがもっと真面目に振りほどこうと思えば振りほどけていただろう。殺そうと思えば殺せていたのかもしれない。
けれど、そうはならなかった。そうならなかった理由は、北條も分かっていた。あの状況でも、あの4層全てを破壊し、瓦礫が落ちる中で殺し合う状況でもランスイルは余裕を持っていたのだろう。
つまるところ、油断をしていたのだ。慢心はしていないが油断をしていた。それが北條の命を繋ぎ止めることになると分かっていてもランスイルは簡単に殺せるからと北條の突撃を受けた。
結局の所、その後の衝撃波。ルスヴンによる体の操作が合わさり、敗北することになったがこの戦いの結果に北條の力は介入していない。
北條一馬は中級の吸血鬼相手に手も足も出ずに敗北したのだ。
『敗北だとは思うなよ』
北條の胸の内を見透かしたようにルスヴンが声を掛けてくる。
『結果だけを見るな。過程も見ろ。何故ならそこに勝機を作るための必要なピースがあったのだからな』
結果だけ見れば北條はランスイルに敗北しかけていた。
だが、その結果に辿り着くまでには北條の戦いがなければならなかったとルスヴンは口にする。
ルスヴンの力は未だに全盛期から程遠い。北條の体を操作しても中級と同じレベルでしかない。異能もそうだ。
もし、ルスヴンが最初から北條の体を操作すればランスイルと互角にはなったかもしれない。だが、勝つことは出来ない。完全な互角に持って行けても長期戦になり、長期戦になれば蓄えに限界があるルスヴンが敗北してしまう。
北條がルスヴンに全てを委ねて戦わず、自分の力で戦っていたから敗北しかけ、敗北しかけたからランスイルが油断した。
だから勝てたのだ。とルスヴンは締めくくる。
「(弱いから勝てた、かぁ。)」
『何だ。不服か?』
「(……不服って言うよりも複雑何だよなぁ)」
強いから勝てたは当然として、弱いから勝てたと言われても北條にはピンとこない。人間が弱いことは分かっているし、その中でも北條自身卓越した才能がないことは分かっている。
それでも自分1人で何かを成したいと思わない訳ではない。
『余の力を借りておいて1人で戦いたい、か』
「(傲慢だと思われるかもしれないけどさ……)」
不服そうなルスヴンに北條が言い訳を口にしようとする。だが、その前にルスヴンが口を挟んだ。
『あぁ、傲慢だな。なんせ異能を貸しても手柄は独り占めと言っているようなものだからな』
「(え……あ、いやそういう意味じゃ)」
『ふん、異能は借りる。戦闘の補助はして貰う。だが、それらは功績には含めない。お主、中々の悪じゃないか。いいぞ。下に見られたのは久々だ。下剋上を叩き付けてやろうか?』
「(待って、ねぇ、待って!? ごめん、本当にゴメンって!!)」
ゴゴゴゴゴ!!とでも効果音が付きそうな凄みのある声を出すルスヴンに北條が情けない声を上げる。
ルスヴンの様子を見てようやく北條も自分の間違いに気付く。
自分は1人ではない。戦いも生きる時もルスヴンと一緒だ。何かを成す時は必ず2人で成している。
北條が使っている異能もルスヴンの力だ。敵の接近を知らせてくれているのもルスヴンだ。敵の情報を教え、作戦を考えているのもルスヴンだ。
先程の北條の発言は、異能を借りておいてお前の力は借りていないと理不尽なことを言っている下種野郎の発言と同じである。
ルスヴンが怒るのは当然だ。
「(……御免なさい)」
『分かれば良い』
何度も虚空に向けて頭を下げる北條にルスヴンが許しを与える。
そこで北條もようやく頭を上げる。
自分は1人ではない。そう胸に刻み込む。2度と己惚れるように、間違わないように。そして、独り立ちが出来るように。
これまで、当たり前過ぎて忘れそうにもなっていたことを改めて北條は思い知り、静かに決意を固めた。
それでも地獄壺が崩壊しなかったのは瞬間衝撃吸収壁があったからだろう。氷によって壁の性能が機能しなくなったのは4層のみ。1層から3層。そして、5層の瞬間衝撃吸収壁の性能は殺されてはいなかった。
そのおかげで地獄壺が崩壊することはなかった。なかったが、内部は滅茶苦茶だ。
頑丈な檻の中で外に衝撃が逃げずに内部で暴れ回る。5層が落ちてくるわで当然と言えば当然だ。
灼熱に包まれていた5層も半壊し、今では内部は瓦礫の山。
その瓦礫の山の一部に北條はいた。
周囲には人影はなくいるのは北條と北條が吹き飛ばされる前にしがみついていたランスイルのみ。
「——グッ。ゴフッ」
ランスイルの口から血が零れる。北條の右腕はランスイルの胸に深く突き刺さっていた。
表情を歪ませ、目を見開き、有り得ないものを見たかのように北條を見詰める。
ランスイルが干乾び、身動き一つしなくなるのを確認して北條は腕を引き抜いた。
「——ふぅ」
腕を引き抜いた北條は一息つき、後ろに下がって尻もちをつく。
その表情には疲労の色が強く出ていた。
体は訛りのように重く、背中には冷や汗がびっしょりと流れている。これまでの戦いでの疲労がどっと襲って来る。
特大の修羅場を潜り抜けたことへの安堵によって緊張の糸が切れ、これまで気にもならなかった小さな切傷や打撲の痛みを感じて北條は顔を歪める。
体を固い床へと投げだし、大の字になる。周囲を警戒するなどということは既にすっぽ抜けていた。
そんな北條の頭の中に声が響き渡る。
『フハハハハ!! 余の計画通り!!』
「(嘘を付け)」
頭に響いてきたのはルスヴンの声だ。高らかに笑うルスヴンに北條は冷ややかな視線——は向けられないので冷ややかな言葉を向ける。
「(絶対計画通りじゃなかっただろ。俺、聞いたからな? 『あっ』て言ったよな。『あっ』て)」
『何のことかサッパリだな!!』
「(白々しいにも程があるですけどルスヴンさぁん!?)」
北條の言葉にルスヴンは変わらず高笑いを返す。
それを見て北條は息を吐いた。北條に分かったのはルスヴンでも想定できないことがあった。ということだけだ。
ランスイル以外に意識を別ける余裕はない。むしろ、していたら殺されていた。せめて、何が起こったのかは知りたいと思い、ルスヴンに説明を求める。
『あぁ、あの衝撃は敵の罠だとか異能だとかそんなものではない。アレが引き起こされた原因は宿主が4層全ての空気を冷やしたからだ』
「(何で冷やしたら爆発したんだよ)」
『冷やしただけでは爆発はせん。チラっと見えたが、5層を落とした時に炎が見えた。アレが冷えた空気を温めて空気を膨張させたのだろうよ』
そこから化学の授業のような短い時間が始まった。
産まれてこのかた授業と言えば読み書きと計算しかしてこなかった北條にとってチンプンカンプンなものが多く、ルスヴンも詳しく説明するつもりもなかったため、取り敢えずそういうものだと覚えろ。と言われて北條も今は納得する。
「(こんなこともう二度とごめんだ)」
衝撃に飛ばされて何が起こったかも分からずにいた北條。ランスイルも何が起こったか分からずに硬直していたのを覚えている。
何故北條が勝てたのか。何故ランスイルよりも先に動けたのか。
そんなもの、決まっている。ルスヴンがいたからだ。ルスヴンが北條の腕を動かし、胸を貫かせたのだ。
あの衝撃波は4層にいたもの全てを別々の方向へと吹き飛ばした。
北條はランスイルに強くしがみついていたため、共に飛ばされたがそれは吹き飛ばされることを予想していたのではなく、そのままルスヴンに取り込んで貰おうと思っていたからだ。
ただの偶然。ただの幸運だ。
ランスイルがもっと真面目に振りほどこうと思えば振りほどけていただろう。殺そうと思えば殺せていたのかもしれない。
けれど、そうはならなかった。そうならなかった理由は、北條も分かっていた。あの状況でも、あの4層全てを破壊し、瓦礫が落ちる中で殺し合う状況でもランスイルは余裕を持っていたのだろう。
つまるところ、油断をしていたのだ。慢心はしていないが油断をしていた。それが北條の命を繋ぎ止めることになると分かっていてもランスイルは簡単に殺せるからと北條の突撃を受けた。
結局の所、その後の衝撃波。ルスヴンによる体の操作が合わさり、敗北することになったがこの戦いの結果に北條の力は介入していない。
北條一馬は中級の吸血鬼相手に手も足も出ずに敗北したのだ。
『敗北だとは思うなよ』
北條の胸の内を見透かしたようにルスヴンが声を掛けてくる。
『結果だけを見るな。過程も見ろ。何故ならそこに勝機を作るための必要なピースがあったのだからな』
結果だけ見れば北條はランスイルに敗北しかけていた。
だが、その結果に辿り着くまでには北條の戦いがなければならなかったとルスヴンは口にする。
ルスヴンの力は未だに全盛期から程遠い。北條の体を操作しても中級と同じレベルでしかない。異能もそうだ。
もし、ルスヴンが最初から北條の体を操作すればランスイルと互角にはなったかもしれない。だが、勝つことは出来ない。完全な互角に持って行けても長期戦になり、長期戦になれば蓄えに限界があるルスヴンが敗北してしまう。
北條がルスヴンに全てを委ねて戦わず、自分の力で戦っていたから敗北しかけ、敗北しかけたからランスイルが油断した。
だから勝てたのだ。とルスヴンは締めくくる。
「(弱いから勝てた、かぁ。)」
『何だ。不服か?』
「(……不服って言うよりも複雑何だよなぁ)」
強いから勝てたは当然として、弱いから勝てたと言われても北條にはピンとこない。人間が弱いことは分かっているし、その中でも北條自身卓越した才能がないことは分かっている。
それでも自分1人で何かを成したいと思わない訳ではない。
『余の力を借りておいて1人で戦いたい、か』
「(傲慢だと思われるかもしれないけどさ……)」
不服そうなルスヴンに北條が言い訳を口にしようとする。だが、その前にルスヴンが口を挟んだ。
『あぁ、傲慢だな。なんせ異能を貸しても手柄は独り占めと言っているようなものだからな』
「(え……あ、いやそういう意味じゃ)」
『ふん、異能は借りる。戦闘の補助はして貰う。だが、それらは功績には含めない。お主、中々の悪じゃないか。いいぞ。下に見られたのは久々だ。下剋上を叩き付けてやろうか?』
「(待って、ねぇ、待って!? ごめん、本当にゴメンって!!)」
ゴゴゴゴゴ!!とでも効果音が付きそうな凄みのある声を出すルスヴンに北條が情けない声を上げる。
ルスヴンの様子を見てようやく北條も自分の間違いに気付く。
自分は1人ではない。戦いも生きる時もルスヴンと一緒だ。何かを成す時は必ず2人で成している。
北條が使っている異能もルスヴンの力だ。敵の接近を知らせてくれているのもルスヴンだ。敵の情報を教え、作戦を考えているのもルスヴンだ。
先程の北條の発言は、異能を借りておいてお前の力は借りていないと理不尽なことを言っている下種野郎の発言と同じである。
ルスヴンが怒るのは当然だ。
「(……御免なさい)」
『分かれば良い』
何度も虚空に向けて頭を下げる北條にルスヴンが許しを与える。
そこで北條もようやく頭を上げる。
自分は1人ではない。そう胸に刻み込む。2度と己惚れるように、間違わないように。そして、独り立ちが出来るように。
これまで、当たり前過ぎて忘れそうにもなっていたことを改めて北條は思い知り、静かに決意を固めた。
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