スキル一つの無双劇

しょうわな人

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004 領地追放になる

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 7才から3年経ち、俺は10才になった。屋敷の直ぐ裏手の森ではもはやレベルは上がらなくなってしまったけど、それでも上げれる限界まではレベルアップを果たした俺は、ガロンやヤーガスから聞いた話の中では強者と言えるぐらいの強さを手にしていた。


【名前】ケイン・カーディナル
【称号】化勁拳創始者
【種族】人族
【性別】男
【年齢】10才
位階レベル】18
【HP】 345(+35)
【MP】 275(+0)
技能スキル】化勁Lv.9
【武器】無し
【防具】火焔竜かえんりゅうの手甲
【攻撃力】0(55)
【防御力】158(110)


 2人の話から玄人ハンターにはまだ届いてないが、中級ハンターに匹敵する位の強さは手にしていると考えている。俺はこれなら旅に出てもそれなりに大丈夫なんじゃないかと思っている。

 そして、遂にその日がやって来た。俺を追放すると両親から伝えられたのだ。ちなみに兄たち2人はいつまでたっても死なない両親に俺が8才の頃から首を傾げまくっているのだが。毒を変えたりしたようだが、溜まる筈の毒素が全て汗と一緒に出ていくので、両親は毒で死ぬことは無い。まあ、俺が居なくなった後は知らないが……


「ケインよ、お前をカーディナル伯爵家より追放する。幸いにしてお前のことは王家に届け出ていないからな。追放しても咎められる事は無い! これからは平民として好きに生きるが良い!!」

 父親がそう宣言をし、母親も

「ケイン、あなたは私の息子ではありません! これからは赤の他人です! 私たちの家に1歩も足を踏み入れないように!」

 と宣った。俺は素直に頷く。

「分かりました。今日まで有難う御座いました…… 僕は今すぐ出ていきます」

 俺が抗うと予想していただろう両親はその言葉にキョトンとした顔をしていたが、素直に出ていくと言ったので、

「おっ、おお! 分かれば良いのだ! さあ、とっとと出ていくが良い!」

 と言い放ち部屋を出ていった。俺は素早く行動する。必要な物は全て腕輪に入っているからだ。
 その足でヤーガスの元に行き世話になったと伝え、ガロンにも伝えてくれと言って、ヤーガスに金貨2枚入った巾着を2つ渡した。1つはガロンに渡して貰う為だ。

「坊ちゃん、落ち着いたら連絡を下さいね。俺もガロンも坊ちゃんにお仕えしたいんでね」

 ヤーガスはそう言ってくれるが、俺は人に仕えて貰うような立場にはならないよと笑って言っておいた。だが落ち着いたら連絡するのは約束した。2人にはこの世界で生きていく為の知識をたくさん教えて貰ったからな。

 
 別れを告げて屋敷を出ていく俺の前に2人の兄が立ちふさがる。

「ケインよ、やっと出ていくんだな。お前の顔を見ずに済むのはとても喜ばしいよ」

「ケイン、今から夜道には気をつけることだな……」

 先の言葉が長兄であるガレインで、後の言葉が次兄であるユリディスだ。2人が何故こんなにも俺を敵視するのか理由が分からないが、俺は2人に向かって言った。

「兄上、お世話になりました。いえ、ガレイン様、ユリディス様、これからは僕は平民として生きていきますので、関わる事はないでしょうがこれまでの感謝を最後にお伝えしておきます」

 俺の返事に毒気を抜かれたような顔をした兄2人は揃ってケッと言いながら屋敷に戻っていった。さあ、急がなければ。追手が追いつく前に隣国であるハレルヤ帝国に行きたいからな。

 こうして俺は屋敷の門から出た途端に走り出した。既に追手の手配は終わっていると思っているので足を懸命に動かす俺。乗合馬車は利用しない。他の乗客を巻き込まない為だ。そして勿論の事だがグレイガン辺境伯領にも向かわない。幸せに暮らしているだろう姉たちに迷惑をかけることは出来ない。

 俺はそう考えて足を東ではなく北東方面に向けて走った。遠回りにはなるがこれでハレルヤ帝国の端っこに行ける筈だ。隣国に入ってしまえば追手は来なくなる。何故ならば暗殺対象が違う国に入った場合は死亡扱いとなるからだ。何とも緩い制度があって良かったと俺は思っているが。マリとミリアもそのお陰で助かったのだから俺もしっかりと利用させて貰おう。

 鍛えに鍛えた俺の足は今のペースだと3時間ほどはぶっ通しで走る事が出来る。このペースならば伯爵家領内を2時間で抜けられるし、そうなると追手から逃げられる可能性も上がる。俺はそう考えて休み無く走った。

 俺の考えでは追手は東門で待ち構えていると思っている。だが、俺が出るのは北東の外壁を飛び越える方法だ。今の時間帯は領兵の交代時間だから2分で越える自信がある俺ならば見つからずに越える事が出来るだろう。

 しかし、その考えが甘かった事を直ぐに外壁を越えた途端に思い知らされた。飛び越えた外壁から走り出した途端に3人が俺のあとをついてきていた。

 2人は余裕そうについてきている。俺は暫くは諦めきれずに必死で走ったが、どう頑張っても撒くことが出来ないと悟り少しでも有利な場所を確保する為に走る速度を緩めて木々が開けた場所で立ち止まった。

 3人はそんな俺から5メートル離れた場所で止まる。1人は女性だった。

「追いかけっこはもう終わりかい坊や? 諦めが良い子は嫌いじゃないよ。悪く思わないでおくれ、坊やに恨みはないけれど私たちも依頼されたからには遂行しないとダメなもんだからね……」

 その女性は俺に向かってそう言ってくる。

「恨みが無いならお姉さん、見逃してくれませんか? 僕はこのまま隣国に行きます。そしたら死亡扱いになるでしょう?」

 俺はそう言って懐柔しようと試みたが、無情にも女性の答えは否だった。

「悪いけどね、坊や。依頼主からは確実に殺して証拠を持ってこいって言われてるのさ。その証拠は坊やの心臓でね。だから坊やのお願いは聞いてあげられないんだよ…… ウフフフ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。お姉さんが優しく坊やの心臓を抉りだして上げるからね……」

 うん、この人危ないな。これはもうしょうがないか。俺は説得を諦めて構えた。

「おや? 抵抗するのかい? いいよ、精々頑張って生きようとしてごらん。その顔が絶望に染まるのが楽しみだよ。お前たち、坊やを押さえつけな。腕や足は折ってもいいけど殺すんじゃないよ。それはアタシがヤるからね、ウフフフ」

「ヘイッ、姐さん!!」

 返事と共に男2人が俺に向かってきた。2人とも棍棒を手にして俺に振りかぶる。振り下ろされる棍棒を2本とも俺は化勁を使って逸らした。その振り下ろした勢いが3倍以上になって地面を叩き、男たちは棍棒を取り落とす。そしてその手を押さえて呻きだした。

「何やってんだいっ! 子供1人取り押さえる事も出来ないのかいっ!!」

 危ないお姉さんが喚き散らす。その声に押さえていた手を離して片手で俺に掴みかかってきた男たちをまた化勁で逸らしてやった。すると、男たちは自分から地面に物凄い勢いで突っ込み2人とも気絶した。

「クッ、役に立たない部下どもだね。コレは戻ったらお仕置き案件だよ! でも坊やそこまでだよ。アタシの武器には坊やの技は通用しないよっ!!」

 そう言って危ないお姉さんが腰に巻いていた鞭を取り出した。だが、甘い。俺の化勁は鞭ごときならば軽く逸らすのだ。

 俺に向かって飛んでくる鞭を俺は化勁を使ってお姉さん自身に向かって逸らしてやった。自分の攻撃の何倍もの速さになって向かってくる鞭をまともに顔面に食らったお姉さんは額から顎にかけて裂けてしまい、その衝撃に気絶した。

 俺はそれを確認してから3人をそのままに走り出した。俺を殺そうとした3人は気絶した時間が長いほど魔物や魔獣に襲われる危険が高くなるが、知った事ではない。
 
 こうして俺は追手を撃退して隣国に向かって走り出したのだった。
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