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006 旧知の消息を知る
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で、俺は今関所を素通りして町中に入っていた。身元保証人となってくれたミヤちゃんは間違いなく帝王のご一族だと認識出来た。
だって、馬車は関所の兵士に止められる事なくスルーして町中に入ったんだぜ。そんなのよっぽど上位の貴族か帝王のご一族じゃない限りあり得ないだろう。
で、そのミヤちゃんからは質問攻めにあっている俺。それをニコニコ笑顔で見守る2人の侍女さん。見てないで助けてください…… そんな俺の内心の願いも虚しく、俺はミヤちゃんの質問に答えていた。
「ケインお兄ちゃんはどうしてそんなに強いの? 何才? ハンターなの? ギルドでは中級ハンターなの?」
6才ぐらいのミヤちゃんは好奇心の塊のようで、聞きたい事を次から次へと聞いてくるので返事をする間をはかっていた俺。一瞬、途切れた瞬間に俺も一息に返事をした。
「僕は10才で、ハンターじゃないんだ。まだ登録できないんだよ。強いかどうかは良く分からないけど、毎日、毎日、いっぱい訓練をしたからかな?」
という俺の返事に驚いた顔をするミヤちゃんと侍女さん2人。いや、見た目からして10才にちゃんと見えてますよね? ハンターギルドに登録出来るのは13才からですから未登録なのも当たり前ですよ。
俺はビックリ顔の侍女さん2人を見ながら内心でそう思っていたのだが、どうやら侍女さんたちは別の意味で驚いた顔をしていたみたいだ。2人でコソッと話しているのが聞こえたのだが、
「まあ、4才差なんてちょうど良いと思うわ」
「お顔もステキだし、何よりも実力が伴っているのが更に良いわね」
「帝王陛下も納得されるんじゃないかしら?」
「そうね…… 後は逃げられないようにしっかりと捕まえておかないと……」
非常に俺にとって不穏な空気感の会話なのだが…… 聞こえてますよ~。ってか聞こえるように言ってますよね…… ミヤちゃんには悪いけれどコレは早めに逃げ出した方が良さそうだと思った。
が、馬車は何時までも止まる気配がない。俺はミヤちゃんに聞いてみた。
「ミヤちゃん、どこまで行くのかな? 僕は町に入れたから身分証を作りに役所に行きたいんだけど…… どうかな?」
聞いた俺を不思議そうな顔で見るミヤちゃん。
「ケインお兄ちゃん、役所に行かなくてもミヤのおウチで身分証が作れるから大丈夫よ。ママにも会って貰わないとダメだから、このままミヤのおウチまで来てね」
と何をバカな事を聞くんだという感じで言われてしまった…… いや、待てーいっ! ママって、ミヤちゃんのママの事だよな。王妃様か? 則妃様か? 分からないけど、俺はもう少し自由にこのハレルヤ帝国で過ごしたいと思ってるんだが。13才になるまではこの国の何処かにいるマリとミリアの世話になるつもりだったし……
だが、今すぐ馬車から飛び降りて逃げてしまえばミヤちゃんも悲しむだろう…… 俺は取りあえずなる様になれという精神でミヤちゃんのおウチに伺う事にしたのだった。
で、たどり着いたのはバカでっかいお屋敷だった。ウチよりもデカイじゃないか!? や、やっぱり帝王のご一族なんだろうなぁ……
俺は遠い目をしながらも案内されるがままに屋敷の中へと入っていった。
「ママー、ただいまー。あのね、途中で暴走馬車に轢かれそうになったけどケインお兄ちゃんが助けてくれたのー!」
ミヤちゃんはとある部屋に飛び込むなりそう報告しているけど、中からは、
「まあ! そうなの! 良かったわ~、ミヤが無事で。護衛騎士や侍女たちにも怪我は無いのね?」
「うん、轢かれそうになったのはミヤだけで~、誰も怪我はしてないのよ、ママ」
何というか…… この娘にしてこの親あり…… 逆か、この親にしてこの娘ありな会話だな。おっとりとした会話を聞きながらも侍女さんに促されて部屋に入った俺は、中にいる女性から見つめられた。
そして、
「アラ? アラアラアラ? ひょっとしてケイン坊ちゃんですか?」
俺を見つめながらそう言うのはマリだった…… 何がどうなってるんだ?
「えー? ママ、ケインお兄ちゃんのこと知ってるの?」
「ええ、ええ、よーく知ってますよ。ほら、ミリアと同い年のお兄ちゃんが居るのよって言ってたでしょ?」
「わー、それがケインお兄ちゃんなの!?」
「ええ、そうよ~。ミヤ、ママの前に良くケイン坊ちゃんを連れてきてくれました。有難う」
えっと、マリさんや…… 事情なんかを教えて貰いたいのだが…… 俺からの目線に気がついたマリは侍女の1人にミヤちゃんを部屋に連れていき休ませるように言った。
そして、おもむろに立ち上がり俺を抱きしめた。
「ケイン坊ちゃん、よくぞご無事で…… 良かった、どれだけお会いしに行こうかと思ったか…… でも、でも、こうして今日、お会い出来たのは本当に嬉しいです。神様の思し召しですわ。さあ、さあ、取りあえずお座りになってください、ケイン坊ちゃん。私とミリアの事についてお話しますから」
マリはそう言って俺をソファに座らせる。事情を知りたい俺は素直に腰掛けたのだった。
マリから俺の家を出た後の話を聞いた。このハレルヤ帝国にやって来たマリはちょうど今いる屋敷の侍女募集を受けて侍女として雇われたそうだ。そして、何を隠そうこの屋敷は帝国の第二王子殿下の屋敷だそうで、当時まだ独身だった第二王子殿下は新たな侍女となったマリに一目惚れをし、マリが子連れである事も気にすることなく、気がつけば結婚させられていたとか…… 強引にも程があるとは聞いた時に思ったけど、今の幸せそうなマリを見ていると悪い人じゃないことは分かるので、ツッコむのは止めておいた。
で、そうこうしている内にミヤちゃんを身篭り出産したマリはそれでもミリアと2人でいつも俺の事を心配してくれていたらしい。
マリの夫である第二王子殿下はそんなマリとミリアに私が様子を見てこようかと提案してくれたそうだけど、マリもミリアも国際間の大事になってしまうのはマズイと考え、その提案は断ったそうだ。
断ってくれて良かったよ。俺は認知されてない息子だったからもしも第二王子殿下からの問い合わせや立会いがあったならその時点で亡き者にされていただろうと思う。
「そうだったんだね。でもマリが幸せに暮らしているなら良かったよ。で、ミリアは何処にいるの?」
俺は気になっていた事を聞いた。するとマリは困ったような顔をして俺にこう言ったのだった。
「あの娘ったら、私がケインを助け出すんだとか言って、町中で刀という武器を扱う道場に通ってるんですよ。また、それが性に合ってたのかメキメキと実力を上げていて…… お転婆で困ってるんです。もう直ぐ帰ってきますからケイン坊ちゃんからも一言注意してくださいね」
聞いた俺はマリには悪いけれど爆笑してしまった。ミリアらしい。だけど俺を助ける為にって強くなろうとしてくれたのは感謝しかないな。
会いたいと思ってたマリとミリアにハレルヤ帝国に着いたその日に、早々に会う事が出来て俺は神様に感謝の祈りを捧げる事にしたよ。
「あっ! でももうマリって呼び捨てにしちゃダメだよね。今や帝国の第二王子殿下のお妃様なんだから、これからはちゃんとマリ様って呼ぶようにします」
俺が気がついたようにそう言うとマリは幼かった俺を叱る時の表情になり、
「何を仰ってるんですか、坊ちゃん! マリが第二王子殿下に嫁いだからと言って、ご主人様である坊ちゃんよりも偉くなった訳じゃないんですから! ちゃんとこれまで通りの口調で話してくださいねっ! 主人の事なら心配ありませんし、この国の帝王様ご一族はそんな小さな事に目くじらを立てるような方たちじゃありませんから! わかりましたか、坊ちゃん?」
そう言われてしまった。反射的に俺はウンと頷いてしまったのだが本当に大丈夫なのだろうか? 不敬罪に問われて処刑されたら恨むからな、マリ。
そして、それから程なくしてミリアが戻ってきた。マリの部屋に戻った挨拶をしに来たミリアはますます可愛く、けれども何処か凛々しさも持ち合わせた可憐な撫子になっていた。
「母様、ただいま戻りまし…… た…… ってウソッ! ケイン! ケインだよねっ!?」
「うん、ミリア。久しぶり~。すっかりキレイになってるからちょっと、ドキドキしちゃってるよ~」
俺の照れ隠しの挨拶を聞いたミリアはみるみる目に涙を貯めて、
「もう、バカっ! ずーっと心配してたんだからねっ!」
そう言って俺に抱きついてきたのだった。いや、ホントにドキドキするから抱きつくのはマズイって!!
だって、馬車は関所の兵士に止められる事なくスルーして町中に入ったんだぜ。そんなのよっぽど上位の貴族か帝王のご一族じゃない限りあり得ないだろう。
で、そのミヤちゃんからは質問攻めにあっている俺。それをニコニコ笑顔で見守る2人の侍女さん。見てないで助けてください…… そんな俺の内心の願いも虚しく、俺はミヤちゃんの質問に答えていた。
「ケインお兄ちゃんはどうしてそんなに強いの? 何才? ハンターなの? ギルドでは中級ハンターなの?」
6才ぐらいのミヤちゃんは好奇心の塊のようで、聞きたい事を次から次へと聞いてくるので返事をする間をはかっていた俺。一瞬、途切れた瞬間に俺も一息に返事をした。
「僕は10才で、ハンターじゃないんだ。まだ登録できないんだよ。強いかどうかは良く分からないけど、毎日、毎日、いっぱい訓練をしたからかな?」
という俺の返事に驚いた顔をするミヤちゃんと侍女さん2人。いや、見た目からして10才にちゃんと見えてますよね? ハンターギルドに登録出来るのは13才からですから未登録なのも当たり前ですよ。
俺はビックリ顔の侍女さん2人を見ながら内心でそう思っていたのだが、どうやら侍女さんたちは別の意味で驚いた顔をしていたみたいだ。2人でコソッと話しているのが聞こえたのだが、
「まあ、4才差なんてちょうど良いと思うわ」
「お顔もステキだし、何よりも実力が伴っているのが更に良いわね」
「帝王陛下も納得されるんじゃないかしら?」
「そうね…… 後は逃げられないようにしっかりと捕まえておかないと……」
非常に俺にとって不穏な空気感の会話なのだが…… 聞こえてますよ~。ってか聞こえるように言ってますよね…… ミヤちゃんには悪いけれどコレは早めに逃げ出した方が良さそうだと思った。
が、馬車は何時までも止まる気配がない。俺はミヤちゃんに聞いてみた。
「ミヤちゃん、どこまで行くのかな? 僕は町に入れたから身分証を作りに役所に行きたいんだけど…… どうかな?」
聞いた俺を不思議そうな顔で見るミヤちゃん。
「ケインお兄ちゃん、役所に行かなくてもミヤのおウチで身分証が作れるから大丈夫よ。ママにも会って貰わないとダメだから、このままミヤのおウチまで来てね」
と何をバカな事を聞くんだという感じで言われてしまった…… いや、待てーいっ! ママって、ミヤちゃんのママの事だよな。王妃様か? 則妃様か? 分からないけど、俺はもう少し自由にこのハレルヤ帝国で過ごしたいと思ってるんだが。13才になるまではこの国の何処かにいるマリとミリアの世話になるつもりだったし……
だが、今すぐ馬車から飛び降りて逃げてしまえばミヤちゃんも悲しむだろう…… 俺は取りあえずなる様になれという精神でミヤちゃんのおウチに伺う事にしたのだった。
で、たどり着いたのはバカでっかいお屋敷だった。ウチよりもデカイじゃないか!? や、やっぱり帝王のご一族なんだろうなぁ……
俺は遠い目をしながらも案内されるがままに屋敷の中へと入っていった。
「ママー、ただいまー。あのね、途中で暴走馬車に轢かれそうになったけどケインお兄ちゃんが助けてくれたのー!」
ミヤちゃんはとある部屋に飛び込むなりそう報告しているけど、中からは、
「まあ! そうなの! 良かったわ~、ミヤが無事で。護衛騎士や侍女たちにも怪我は無いのね?」
「うん、轢かれそうになったのはミヤだけで~、誰も怪我はしてないのよ、ママ」
何というか…… この娘にしてこの親あり…… 逆か、この親にしてこの娘ありな会話だな。おっとりとした会話を聞きながらも侍女さんに促されて部屋に入った俺は、中にいる女性から見つめられた。
そして、
「アラ? アラアラアラ? ひょっとしてケイン坊ちゃんですか?」
俺を見つめながらそう言うのはマリだった…… 何がどうなってるんだ?
「えー? ママ、ケインお兄ちゃんのこと知ってるの?」
「ええ、ええ、よーく知ってますよ。ほら、ミリアと同い年のお兄ちゃんが居るのよって言ってたでしょ?」
「わー、それがケインお兄ちゃんなの!?」
「ええ、そうよ~。ミヤ、ママの前に良くケイン坊ちゃんを連れてきてくれました。有難う」
えっと、マリさんや…… 事情なんかを教えて貰いたいのだが…… 俺からの目線に気がついたマリは侍女の1人にミヤちゃんを部屋に連れていき休ませるように言った。
そして、おもむろに立ち上がり俺を抱きしめた。
「ケイン坊ちゃん、よくぞご無事で…… 良かった、どれだけお会いしに行こうかと思ったか…… でも、でも、こうして今日、お会い出来たのは本当に嬉しいです。神様の思し召しですわ。さあ、さあ、取りあえずお座りになってください、ケイン坊ちゃん。私とミリアの事についてお話しますから」
マリはそう言って俺をソファに座らせる。事情を知りたい俺は素直に腰掛けたのだった。
マリから俺の家を出た後の話を聞いた。このハレルヤ帝国にやって来たマリはちょうど今いる屋敷の侍女募集を受けて侍女として雇われたそうだ。そして、何を隠そうこの屋敷は帝国の第二王子殿下の屋敷だそうで、当時まだ独身だった第二王子殿下は新たな侍女となったマリに一目惚れをし、マリが子連れである事も気にすることなく、気がつけば結婚させられていたとか…… 強引にも程があるとは聞いた時に思ったけど、今の幸せそうなマリを見ていると悪い人じゃないことは分かるので、ツッコむのは止めておいた。
で、そうこうしている内にミヤちゃんを身篭り出産したマリはそれでもミリアと2人でいつも俺の事を心配してくれていたらしい。
マリの夫である第二王子殿下はそんなマリとミリアに私が様子を見てこようかと提案してくれたそうだけど、マリもミリアも国際間の大事になってしまうのはマズイと考え、その提案は断ったそうだ。
断ってくれて良かったよ。俺は認知されてない息子だったからもしも第二王子殿下からの問い合わせや立会いがあったならその時点で亡き者にされていただろうと思う。
「そうだったんだね。でもマリが幸せに暮らしているなら良かったよ。で、ミリアは何処にいるの?」
俺は気になっていた事を聞いた。するとマリは困ったような顔をして俺にこう言ったのだった。
「あの娘ったら、私がケインを助け出すんだとか言って、町中で刀という武器を扱う道場に通ってるんですよ。また、それが性に合ってたのかメキメキと実力を上げていて…… お転婆で困ってるんです。もう直ぐ帰ってきますからケイン坊ちゃんからも一言注意してくださいね」
聞いた俺はマリには悪いけれど爆笑してしまった。ミリアらしい。だけど俺を助ける為にって強くなろうとしてくれたのは感謝しかないな。
会いたいと思ってたマリとミリアにハレルヤ帝国に着いたその日に、早々に会う事が出来て俺は神様に感謝の祈りを捧げる事にしたよ。
「あっ! でももうマリって呼び捨てにしちゃダメだよね。今や帝国の第二王子殿下のお妃様なんだから、これからはちゃんとマリ様って呼ぶようにします」
俺が気がついたようにそう言うとマリは幼かった俺を叱る時の表情になり、
「何を仰ってるんですか、坊ちゃん! マリが第二王子殿下に嫁いだからと言って、ご主人様である坊ちゃんよりも偉くなった訳じゃないんですから! ちゃんとこれまで通りの口調で話してくださいねっ! 主人の事なら心配ありませんし、この国の帝王様ご一族はそんな小さな事に目くじらを立てるような方たちじゃありませんから! わかりましたか、坊ちゃん?」
そう言われてしまった。反射的に俺はウンと頷いてしまったのだが本当に大丈夫なのだろうか? 不敬罪に問われて処刑されたら恨むからな、マリ。
そして、それから程なくしてミリアが戻ってきた。マリの部屋に戻った挨拶をしに来たミリアはますます可愛く、けれども何処か凛々しさも持ち合わせた可憐な撫子になっていた。
「母様、ただいま戻りまし…… た…… ってウソッ! ケイン! ケインだよねっ!?」
「うん、ミリア。久しぶり~。すっかりキレイになってるからちょっと、ドキドキしちゃってるよ~」
俺の照れ隠しの挨拶を聞いたミリアはみるみる目に涙を貯めて、
「もう、バカっ! ずーっと心配してたんだからねっ!」
そう言って俺に抱きついてきたのだった。いや、ホントにドキドキするから抱きつくのはマズイって!!
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