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本編
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お前の隣で、一緒に歳をとって生きていくんだと思ってた。
例えお前が誰かと結婚しても、子どもが生まれても。
ずっと隣で。
◇
「オレ、お前のことなら何でも知ってるし、何でも受け入れられると思ってたけどさ、」
幼馴染のウェストが隣の席からジッ…と、こちらを見ている。
「豚の足を美味そうに食うお前のことだけは未だに受け入れられねぇわ」
「へ…?ふまひよ(うまいよ)?」
食わず嫌いは良くないと思う。
食堂のおばちゃんがじっくり煮込んでくれた豚の足は味がしみしみ、トロットロで最高にうまいのだ。
今夜は年越しの祭りだから、いつもの店の中じゃない。屋台だ。北風が背中に吹きつけて、めっちゃくそに寒い。
だからこそ、あっつあつの煮込み料理をはふはふ言いながら食べるのが最高に幸せだ。
「イスト。お前、綺麗な顔なんだからさ。少しは周りの目に気をつけろよ。ぶっとい骨を美味そうにしゃぶるのヤメロ」
手掴みで骨にしゃぶりつくのは流石に意地汚かったかな…。でもこの食べ方が美味いんだから仕方ない。
それにしても綺麗な顔って…。できるならオレだって、お前みたいな凛々しい顔に生まれたかったよ。
キリッとした意思が強そうな眉、青みがかった黒い髪と瞳。高い鼻梁。少し皮肉っぽく笑う唇。
対してオレなんて、髪も眉も瞳も『春の蜂蜜みたいで美味そう』とウェストに言われるくらい色が淡いらしいし、どんなに鍛えてもひょろひょろだし。
周りの目? 身だしなみをちゃんとしろってこと? 朝からどうやったって直らない寝癖は、お前が買ってくれた上着のふかふかなフードの中だし、夜だから暗いし、臭くないように湯浴みさえしっかりしていれば十分じゃないか。
こんな辺境の小さな村だ。知り合いと、たまに来てくれる行商人や旅人くらいにしか会わないしさ。
あー、スープまで美味しい♡
脂で汚れた唇をペロリと舐めると、ため息を吐いたウェストにハンカチで口をゴシゴシ拭われる。
「いよいよ25かぁー」
「オレたちもう、おっさんだな」
「ウェスト、お前! おっさんとか言うなよ! まだまだオレたちは若いだろ!」
「確かに…お前、髭も全然生えてねぇし。まだお肌ぴっちぴちだな? とてもオレと同い年とは思えねぇわ」
「真顔で“ぴっちぴち”って言うな。なんか恥ず…」
「…だな」
赤面した男2人がシン…となったところで、
カラーン、カラーン、と教会の鐘が鳴る。
凍える空気。吐く息の白さが、篝火に照らされたオレンジ色の世界に際立つ。
「ともあれ、新年おめでとう!」
「おう! おめでとう!」
「今年もよろしくな!」
「こちらこそよろしく!」
なみなみと蜂蜜酒が注がれた木のカップをカツンとぶつけ合う。
響き渡る鐘の音に負けないくらいの大声で叫ぶのが毎年の恒例だ。
同じ孤児院で育った幼馴染のオレたちは、ガキの頃からもうずっとこの村でこんなやりとりを繰り返してきた。
15の年に院を出て以来、2人で力を合わせて建てた家にずっと暮らしている。
神父様や、近所のおっちゃん達も手伝ってくれたんだよな。本当にあたたかい村だ。…素人が集まって作っただけあって、冬は隙間風がピューピュー吹き込んで寒いけど。
それぞれの自室と共有スペースの3部屋しかない小さな家だけど、孤児院にいた頃は“自分の部屋”というものに憧れていたから、オレたちにとっては十分立派な城だった。
トイレと湯浴み場もちゃんとあるしな。
家によっては、“土に掘っただけの穴”を『トイレ』と呼んだり、“濡らした布で拭くだけ”、“冷たい水をざばっと浴びるだけ”で『身体を清める』なんてこともあるのだ。こんな田舎の村では。
ウェストは冒険者、オレは畑仕事と家事。
昼間はそれぞれ別々の場所で働いていても、ウェストが泊まりがけの仕事に出ても、あの小さな家に必ず帰ってきてくれる。
隣に座ってご飯を食べたり、こんな夜みたいに、たまには酒を酌み交わしたりする。
また1年、こうして一緒に歳をとってさ。
それだけで、オレは満足していたんだ。
例えお前が誰かと結婚しても、子どもが生まれても。
ずっと隣で。
◇
「オレ、お前のことなら何でも知ってるし、何でも受け入れられると思ってたけどさ、」
幼馴染のウェストが隣の席からジッ…と、こちらを見ている。
「豚の足を美味そうに食うお前のことだけは未だに受け入れられねぇわ」
「へ…?ふまひよ(うまいよ)?」
食わず嫌いは良くないと思う。
食堂のおばちゃんがじっくり煮込んでくれた豚の足は味がしみしみ、トロットロで最高にうまいのだ。
今夜は年越しの祭りだから、いつもの店の中じゃない。屋台だ。北風が背中に吹きつけて、めっちゃくそに寒い。
だからこそ、あっつあつの煮込み料理をはふはふ言いながら食べるのが最高に幸せだ。
「イスト。お前、綺麗な顔なんだからさ。少しは周りの目に気をつけろよ。ぶっとい骨を美味そうにしゃぶるのヤメロ」
手掴みで骨にしゃぶりつくのは流石に意地汚かったかな…。でもこの食べ方が美味いんだから仕方ない。
それにしても綺麗な顔って…。できるならオレだって、お前みたいな凛々しい顔に生まれたかったよ。
キリッとした意思が強そうな眉、青みがかった黒い髪と瞳。高い鼻梁。少し皮肉っぽく笑う唇。
対してオレなんて、髪も眉も瞳も『春の蜂蜜みたいで美味そう』とウェストに言われるくらい色が淡いらしいし、どんなに鍛えてもひょろひょろだし。
周りの目? 身だしなみをちゃんとしろってこと? 朝からどうやったって直らない寝癖は、お前が買ってくれた上着のふかふかなフードの中だし、夜だから暗いし、臭くないように湯浴みさえしっかりしていれば十分じゃないか。
こんな辺境の小さな村だ。知り合いと、たまに来てくれる行商人や旅人くらいにしか会わないしさ。
あー、スープまで美味しい♡
脂で汚れた唇をペロリと舐めると、ため息を吐いたウェストにハンカチで口をゴシゴシ拭われる。
「いよいよ25かぁー」
「オレたちもう、おっさんだな」
「ウェスト、お前! おっさんとか言うなよ! まだまだオレたちは若いだろ!」
「確かに…お前、髭も全然生えてねぇし。まだお肌ぴっちぴちだな? とてもオレと同い年とは思えねぇわ」
「真顔で“ぴっちぴち”って言うな。なんか恥ず…」
「…だな」
赤面した男2人がシン…となったところで、
カラーン、カラーン、と教会の鐘が鳴る。
凍える空気。吐く息の白さが、篝火に照らされたオレンジ色の世界に際立つ。
「ともあれ、新年おめでとう!」
「おう! おめでとう!」
「今年もよろしくな!」
「こちらこそよろしく!」
なみなみと蜂蜜酒が注がれた木のカップをカツンとぶつけ合う。
響き渡る鐘の音に負けないくらいの大声で叫ぶのが毎年の恒例だ。
同じ孤児院で育った幼馴染のオレたちは、ガキの頃からもうずっとこの村でこんなやりとりを繰り返してきた。
15の年に院を出て以来、2人で力を合わせて建てた家にずっと暮らしている。
神父様や、近所のおっちゃん達も手伝ってくれたんだよな。本当にあたたかい村だ。…素人が集まって作っただけあって、冬は隙間風がピューピュー吹き込んで寒いけど。
それぞれの自室と共有スペースの3部屋しかない小さな家だけど、孤児院にいた頃は“自分の部屋”というものに憧れていたから、オレたちにとっては十分立派な城だった。
トイレと湯浴み場もちゃんとあるしな。
家によっては、“土に掘っただけの穴”を『トイレ』と呼んだり、“濡らした布で拭くだけ”、“冷たい水をざばっと浴びるだけ”で『身体を清める』なんてこともあるのだ。こんな田舎の村では。
ウェストは冒険者、オレは畑仕事と家事。
昼間はそれぞれ別々の場所で働いていても、ウェストが泊まりがけの仕事に出ても、あの小さな家に必ず帰ってきてくれる。
隣に座ってご飯を食べたり、こんな夜みたいに、たまには酒を酌み交わしたりする。
また1年、こうして一緒に歳をとってさ。
それだけで、オレは満足していたんだ。
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