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本編
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今年も春が来た。
この世界の人間は全員、15歳の春になると教会で魔法を授かることができる。
だけどオレには魔法がない。
何度も神父様が丸メガネを曇らせながら一生懸命に祈りを捧げてくれたけど、神様はオレに魔法を与えてはくださらなかった。
25歳になった今も諦めきれず、毎年春になると教会で祈りを捧げるけど、一向に授かる気配がないのだ。
ちなみに、オレが大切に豆を育てている畑の隣で自分ちの畑を耕しているおっちゃんは水魔法が使える。地面を泥濘ませて魔物や獣を転ばせたり動けなくさせたり、飲み水に困らなかったりと便利そうで羨ましい。オレなら絶対冒険者になるのに。そしたらウェストとパーティを組めるのに。
おっちゃん…こと、フィールズさんは『戦うのは苦手だ』と、剣ではなく畑で鍬を握るこの仕事を選んだそうだ。
あ、補足すると…。“魔物”っていうのは真っ黒な靄を纏った獣のことを指す。目が真っ赤なのが特徴で、その目が3つあったり、角が生えてたりする。毛皮や角などは使えるが、肉は臭くてとても食えたものではないらしい。
「今日も頼むな。イスト」
「了解です!」
ー 元気になーれ。虫に負けるな。病気に負けるな。
目をつぶって、元気な芋畑の姿を頭に思い浮かべる。…なんか目をつぶらないと想像が捗らないのだ。
「おお! 相変わらずきらきらして綺麗だな」
自分では目をつぶっているからよく分からないのだが、瞼越しに眩しさを感じる気がするのでおそらくオレの体や畑が光っているのだと思う。
目を開くと、青々とした瑞々しい葉っぱの健康的な畑が広がっていた。
気のせいか、まだ空っぽの畑の方も土がふかふかになった気がする。
“きらきら”、ねぇ…。
これが若くて綺麗な女性とかなら“女神様♡”とか“聖女様♡”とか呼ばれてしまうのかもしれないが、頬を土で汚した25歳のおっさんがきらきら光ったとて誰が得をするというのだろう…。
『25歳ならまだまだ若いだろ』とフィールズさんは言ってくれるし、新年の祭りでウェストに言われた時は反発したけど、もう子どもがいてもいい年なのでおっさんだと自分でも思うようになった。
この世界で、魔法が使えない男と結婚したい女性はいないだろう。子どもまで魔法を授かれなかったら嫌だろうし…。
実際、村の女性たちが集まってヒソヒソとオレの良くない噂話をしているのを聞いてしまってから、ちょっと女性不信ぎみになってしまった(シスターと食堂のおばちゃんは除く)。
オレはこのまま枯れていくのだろう。
火魔法と氷魔法を授かり、冒険者として活躍しているからウェストは常にモテモテだ。2つも魔法を授かるなら、ひとつオレに分けてくれたらいいのに…と子どもの頃は何度も思った。
今も時々思う。
でもいいんだ。
彼に子どもが生まれたら、たくさん可愛がると決めている。
彼に彼女ができたら、あの家を出て行こう。
…で、隣の空き地に小さな家を建てて、そこにひっそりと暮らすのだ。
「おーい! 畑が終わったら、うちの子たちも頼むー!」
今の声は酪農家のおじさん。
村の端の方で鶏と牛と豚を育てているおじさんは雷を落とす魔法が使える。
かつては冒険者だったが、奥さんの家を継ぐため酪農家に転職したそうだ。
森から狼や熊が出てきた時は、おじさんが雷をピシャドカンと落として追い払ってくれている。
…羨ましい。
奥さんと子どもたちと、今日も笑顔だ。
俺の力は畑を元気にすることができる。
動物や人間に対してもこの力は使えるが、病を治すとかはできない。ツラい病気をちょっとだけ楽に、体を軽くする程度の力だ。
例えば怪我を完治させることはできないが、傷口を塞ぐとか、自然に治るのを手助けして快癒を早めるとか、痛みを抑えるとかはできる。
でもこれは魔法じゃない。
なぜなら15歳より前…物心ついた頃には、この力が使えたからだ。
孤児院にいた頃、まだ3歳か4歳くらいだったと思う。酷い流行り風邪にかかってウェストが生死の境を彷徨ったことがあった。彼の手を握って一心に祈ったら、熱が下がって助かった、ということがあったのだ。
『にいたん、きらきらきれー』って見ていた小さい子が言ってたから、今思えば無意識に力を使っていたのだと思う。
他にも過労で倒れたシスターとか、転んで頭から血を流した子とか、足に釘が刺さった子とか、手を握って祈ったら良くなったことが何度もあって、“元気になった姿”をイメージすれば自分の意思で力を使えることに気付いた。
まぁでも。現在この村では、怪我はともかくとして、そんなに深刻な病にかかる人はめったにいないのだ。オレにできることといえば、畑や動物たちを元気に、急な寒さで萎れかけてしまった野菜をおいしく食べられる程度に復活させるような、…なんとも微妙な力だった。
「ありがとよ。いつも助かってるぞ。代わりにおっちゃんが水を撒いてやろうな」
「ありがとう。こちらこそいつも助かるよ」
そう。フィールズさんはいつもオレの畑に水を撒いてくれる。本当にありがたい。普通に水撒きしたら、桶に井戸から水を汲んできて、柄杓で撒かなくてはならないから1日仕事になってしまう。
オレも水魔法の方が良かった。
ちなみに、村中の畑に配るための元気な苗を作るのはオレの仕事だ。種を蒔き、芽吹かせて、力を使う。
フィールズさんはとても優しい。オレは25歳になったというのに、未だ子ども扱いが抜けないのは、子ども時代から知られているからだろう。彼は孤児院へ毎日のように野菜を届けに来てくれていた。
今はオレも野菜を、ウェストも山で獲れた獣の肉を届けに行くから、子どもたちはお腹いっぱい食べられている筈だ。
最近じゃあ、『ミード村の野菜を食べると元気になる』とか『病が治る』とか他所でも評判になっているらしい。
…流石にそれは言い過ぎだと思うけど。
ウェストはこの力を、「神様みたいだ」と言って褒めてくれる。
でもオレは、ウェストみたいに魔物を燃やしたり、凍らせたりできる魔法が欲しかったんだ。
この世界の人間は全員、15歳の春になると教会で魔法を授かることができる。
だけどオレには魔法がない。
何度も神父様が丸メガネを曇らせながら一生懸命に祈りを捧げてくれたけど、神様はオレに魔法を与えてはくださらなかった。
25歳になった今も諦めきれず、毎年春になると教会で祈りを捧げるけど、一向に授かる気配がないのだ。
ちなみに、オレが大切に豆を育てている畑の隣で自分ちの畑を耕しているおっちゃんは水魔法が使える。地面を泥濘ませて魔物や獣を転ばせたり動けなくさせたり、飲み水に困らなかったりと便利そうで羨ましい。オレなら絶対冒険者になるのに。そしたらウェストとパーティを組めるのに。
おっちゃん…こと、フィールズさんは『戦うのは苦手だ』と、剣ではなく畑で鍬を握るこの仕事を選んだそうだ。
あ、補足すると…。“魔物”っていうのは真っ黒な靄を纏った獣のことを指す。目が真っ赤なのが特徴で、その目が3つあったり、角が生えてたりする。毛皮や角などは使えるが、肉は臭くてとても食えたものではないらしい。
「今日も頼むな。イスト」
「了解です!」
ー 元気になーれ。虫に負けるな。病気に負けるな。
目をつぶって、元気な芋畑の姿を頭に思い浮かべる。…なんか目をつぶらないと想像が捗らないのだ。
「おお! 相変わらずきらきらして綺麗だな」
自分では目をつぶっているからよく分からないのだが、瞼越しに眩しさを感じる気がするのでおそらくオレの体や畑が光っているのだと思う。
目を開くと、青々とした瑞々しい葉っぱの健康的な畑が広がっていた。
気のせいか、まだ空っぽの畑の方も土がふかふかになった気がする。
“きらきら”、ねぇ…。
これが若くて綺麗な女性とかなら“女神様♡”とか“聖女様♡”とか呼ばれてしまうのかもしれないが、頬を土で汚した25歳のおっさんがきらきら光ったとて誰が得をするというのだろう…。
『25歳ならまだまだ若いだろ』とフィールズさんは言ってくれるし、新年の祭りでウェストに言われた時は反発したけど、もう子どもがいてもいい年なのでおっさんだと自分でも思うようになった。
この世界で、魔法が使えない男と結婚したい女性はいないだろう。子どもまで魔法を授かれなかったら嫌だろうし…。
実際、村の女性たちが集まってヒソヒソとオレの良くない噂話をしているのを聞いてしまってから、ちょっと女性不信ぎみになってしまった(シスターと食堂のおばちゃんは除く)。
オレはこのまま枯れていくのだろう。
火魔法と氷魔法を授かり、冒険者として活躍しているからウェストは常にモテモテだ。2つも魔法を授かるなら、ひとつオレに分けてくれたらいいのに…と子どもの頃は何度も思った。
今も時々思う。
でもいいんだ。
彼に子どもが生まれたら、たくさん可愛がると決めている。
彼に彼女ができたら、あの家を出て行こう。
…で、隣の空き地に小さな家を建てて、そこにひっそりと暮らすのだ。
「おーい! 畑が終わったら、うちの子たちも頼むー!」
今の声は酪農家のおじさん。
村の端の方で鶏と牛と豚を育てているおじさんは雷を落とす魔法が使える。
かつては冒険者だったが、奥さんの家を継ぐため酪農家に転職したそうだ。
森から狼や熊が出てきた時は、おじさんが雷をピシャドカンと落として追い払ってくれている。
…羨ましい。
奥さんと子どもたちと、今日も笑顔だ。
俺の力は畑を元気にすることができる。
動物や人間に対してもこの力は使えるが、病を治すとかはできない。ツラい病気をちょっとだけ楽に、体を軽くする程度の力だ。
例えば怪我を完治させることはできないが、傷口を塞ぐとか、自然に治るのを手助けして快癒を早めるとか、痛みを抑えるとかはできる。
でもこれは魔法じゃない。
なぜなら15歳より前…物心ついた頃には、この力が使えたからだ。
孤児院にいた頃、まだ3歳か4歳くらいだったと思う。酷い流行り風邪にかかってウェストが生死の境を彷徨ったことがあった。彼の手を握って一心に祈ったら、熱が下がって助かった、ということがあったのだ。
『にいたん、きらきらきれー』って見ていた小さい子が言ってたから、今思えば無意識に力を使っていたのだと思う。
他にも過労で倒れたシスターとか、転んで頭から血を流した子とか、足に釘が刺さった子とか、手を握って祈ったら良くなったことが何度もあって、“元気になった姿”をイメージすれば自分の意思で力を使えることに気付いた。
まぁでも。現在この村では、怪我はともかくとして、そんなに深刻な病にかかる人はめったにいないのだ。オレにできることといえば、畑や動物たちを元気に、急な寒さで萎れかけてしまった野菜をおいしく食べられる程度に復活させるような、…なんとも微妙な力だった。
「ありがとよ。いつも助かってるぞ。代わりにおっちゃんが水を撒いてやろうな」
「ありがとう。こちらこそいつも助かるよ」
そう。フィールズさんはいつもオレの畑に水を撒いてくれる。本当にありがたい。普通に水撒きしたら、桶に井戸から水を汲んできて、柄杓で撒かなくてはならないから1日仕事になってしまう。
オレも水魔法の方が良かった。
ちなみに、村中の畑に配るための元気な苗を作るのはオレの仕事だ。種を蒔き、芽吹かせて、力を使う。
フィールズさんはとても優しい。オレは25歳になったというのに、未だ子ども扱いが抜けないのは、子ども時代から知られているからだろう。彼は孤児院へ毎日のように野菜を届けに来てくれていた。
今はオレも野菜を、ウェストも山で獲れた獣の肉を届けに行くから、子どもたちはお腹いっぱい食べられている筈だ。
最近じゃあ、『ミード村の野菜を食べると元気になる』とか『病が治る』とか他所でも評判になっているらしい。
…流石にそれは言い過ぎだと思うけど。
ウェストはこの力を、「神様みたいだ」と言って褒めてくれる。
でもオレは、ウェストみたいに魔物を燃やしたり、凍らせたりできる魔法が欲しかったんだ。
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