冒険者の幼馴染と、ずっとその隣にいたい男の話

くろねこや

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「こんなものでいいか?」

「ありがとう! 十分だよ」

目の前にはミッチミチに氷が詰め込まれた棚。ウェストが氷魔法持ちのおかげで、我が家では大きめの保冷庫が使えるのだ。

だから、彼が森で狩ってきてくれた獣の肉や、村で野菜や小麦などと交換してもらった卵や牛乳なんかも、鮮度を保ったまましまっておける。


「お前が作ってくれるスープはやっぱり最高に美味いな。サラダも美味い」

毎朝、毎晩、必ず褒めてくれる。

「お前が育ててくれる野菜が美味いんだろうなぁ。食べると元気が出るよ」

お昼に持たせたサンドイッチにさえ、容器を返してくれながら『美味かったよ。いつもありがとう』と言ってくれるんだ。

結婚したらとても素敵な旦那様になるだろう。将来のお嫁さんが羨ましい。


ウェストにもっと手が込んだ料理を食べさせてあげたいけど、森に香草や香辛料を取りに行けないからなぁ…。

どうしても畑で育てられるものに限られてしまうのだ。

森で採ってきてもらおうにも、ウェストは植物の見分けがつかないんだよね。『葉っぱは葉っぱだろ?』って…。薬草と毒草だって、ことごとく間違えちまう…。何でもできる彼の唯一の欠点。

お金を出せば買えるんだけど、冒険者と違ってただの農民には現金を稼ぐ機会がなかなかないんだよな…。







「古代種様。我らが神よ」

暑くなってきたある日、1人のばあさんがオレの前にひざまずいてそう言った。

ボロボロに擦り切れたローブ。持ち物から察するに、どうやら旅の占い師らしい。


怪しい見た目の老婆を跪かせてるこの状況、すごく困る! 客観的に見たら恥ずかしいし、かなり人でなし・・・・っぽいよね?!

「おばあさん、椅子に座って。お願いだから」

「我らが神は、お優しい方だのう…」

「人違いだと思います!」


神ねぇ…。

オレが神なら、願いのひとつくらい叶わないのかな。

「なぁ、ばあさん。オレは魔法を使えるようにならないのか?」

『銅貨5枚』と書かれた木札をじっと見る。

占ってもらおうと決めて、財布から出した小銭を小さなテーブルにコトリコトリと置く。自給自足に物々交換が基本、現金収入の少ないオレにとっては少なくはない金だ。

「魔法ですかな…。ふむ」

水晶玉のような道具は使わないらしい。

瞼が垂れた細い目でオレの顔をじーっと見て、しばし考え込んだ後、老婆はシワだらけの口をゆっくりと開いた。

「種の繁栄をさせてくださるあなた様へ、願えば植物たちは恩返しをしようとするでしょう」

頭の中にハテナがいっぱい浮かぶ。

「植物が“恩返し”…? 具体的には?」

「…そうですなぁ。例えば、あなた様が魔物に森で追われたとするでしょう。あなた様に力を与えられた蔓草は追手の足を絡めとり、首を絞めて殺すことができます。…こういったところであろうか」

「え…、めちゃくちゃ便利じゃん」

「うむ。…あとは、『欲しい』と願った薬草やキノコなどが自ら近づいてきたり」

「え…、薬草やキノコって歩けるの?」

「あなた様に“力を与えられたい”と彼らが願えば、可能でしょうなぁ…」

まじか…。

冒険者に向いてるのかも…、オレ。

香草や香辛料が森で手に入れば、ウェストにもっと美味しい料理を食べさせてあげられるかも!


「…ふむ。あなた様はご存知なさそうだ。我らが神に、ひとつ大切なことをお伝えいたしましょう」

さっきの情報で十分、銅貨5枚の価値はあったんだけど、もっと何かを教えてくれるのか。

あとで追加料金とか言われたら困るなぁ。


「古代種様の血を引かれた方々は、数千年の時を超えて生きるとされていますぞい」

「は……?」

ぞい?

ちょっとよく分からなかったんだけど?

すうせんねん?

数千年? 

“数千年”って何年? 


頭の中が真っ白になって、気がついたら家に着いていた。







「人違い…じゃ、ないんだよな」


『古代種様の血を引かれた方々は、数千年の時を超えて生きるとされていますぞい』


「数千年も生きるって? …隣村のヤム爺さんがこの前100歳ちょうどで亡くなったらしいから、その爺さんが生まれてから死ぬまでを10回繰り返す感じ?」

“数”千年、ということは、その10回の人生をさらに何度か繰り返す、ということ?

…途方もない。オレ馬鹿だから、なんか余計に分からなくなってきた。


つまり…ウェストが100歳まで生きてくれたとして。1人残された後もオレは若いままで。


「……そっか。オレ、お前と一緒に歳をとれないってことか…」

疲れていたのか夕食後、オレの膝を枕代わりに長椅子へ横になったウェスト。

彼の寝顔を見ていたら、急に老婆の言葉が頭に、心の中に落ちてきた。


目の前が崩れていくみたいな感覚?

喪失感?

オレは何を失ったというのだろう。


…未来か。

この男と一緒に年を重ねていく未来。


「“古代種”ってなんだよ…。オレはそんなの望んでねぇし。オレは普通の人間だ。ちょっとだけ草木を育てるのが上手いだけの…。魔法が使えないだけの…ただの人間…、」

ぽろぽろと熱いものが頬を零れ落ちていく。

ウェストの顔に雫が落ちそうになって、慌てて袖で目をゴシゴシ擦る。

上を向いたら、鼻の奥がツンと痛んだ。


お前の隣で、一緒に歳をとって生きていくんだと思ってた。

例えお前が誰かと結婚しても、子どもが生まれても。

ずっと隣で。


「なあ、ウェスト。オレ…お前と同じ“人間”だよな…?」


年越しの祭り。ウェストの言葉を思い出す。

『お前、髭も全然生えてねぇし。まだお肌ぴっちぴちだな? とてもオレと同い年とは思えねぇわ』

老いていくお前と、今のまま全く変わらないオレ。


「いつかお前に“化け物”って呼ばれちまうのかなぁ…」


その前に、この村にはいられなくなるかもしれない。


いや。たぶんお前なら“老いないオレ”を受け入れてくれるのだろう。

一緒に村を出てくれるかな?




…それでもいつか

お前は先に逝ってしまうのだ。

オレを1人残して…。




「そんなの嫌だ。さみしいよ…」
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