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右隣の男 after story

花と烏 1

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『名前のない』祭りがある。

それは、18年に一度行われるもので、
ちょうど今年がその年・・・に当たるらしい。


女性が白い和紙で花を作り、それを束ね合わせて作った『花輪』に、男性が木を彫って作った『黒い棒』を投げる。

その時女性が、
『ノンノ イッカクㇽ ♪  ノンノ カララク ♪』
と歌うのだ。

投げた棒が花輪の内側を一度で通ると、輪を作った女性と、棒を投げた男性は『永遠に結ばれる』とされている。




大学3年の長い夏休み。

民俗学のゼミに入った僕は、来年の卒論に向けた題材探しとして、その祭りが行われる小さな山奥の村に来ていた。


僕の隣には周吾しゅうごさんがいる。

社会人の彼にとって、お盆休みが明けてからの5泊6日はかなり厳しい日程の筈だ。

高3の夏休みから付き合い始めて、もう3年。

『無理だろうな』と思いつつ、初めての旅行に彼を誘ってみたら、…なんと一緒に来てくれることになったのだ。

車を出してくれただけでもありがたいのに、ガソリン代・高速代どころか、途中でご飯代まで出そうとするから、『さすがに甘え過ぎ』だと断ろうとした。

そうしたら、

結人ゆいとのお陰で、うちの会社はかなりもうけさせてもらったからね。有休だけじゃなくて、社長から臨時ボーナスまで出たんだよ」

と笑った。

確かに『クリ嫁』とのコラボは大成功。
売り上げはまだまだ伸び続けているらしい。

その成果もあって、僕は大学を卒業したら、周吾さんと同じ会社に就職することが内定している。

だから、今は素直に甘えることにした。




山の谷間にあるこの小さな村。

ここには、『美しい村の娘に黒い龍が求婚し、結ばれた二人が今も洞窟に眠っている』という伝説が残されているらしい。

その『黒い龍』は『龍神様』として、伴侶となった人物は『花』として神社に祀られているそうで、村の至る所に『龍と花』をモチーフとした飾りや彫刻がされているのを見た。

ちなみに、その『洞窟』は実在するそうだ。

夏の暑い時期、ひんやりしたイメージのある洞窟に興味をそそられるところだが、神社が管理していて通常は立ち入らせてもらえない。

『内部の道が途中で崩落していて危険』というのが理由らしいが、『無闇に騒がせて“2人”の眠りを妨げてはならない』と村人達に代々言い伝えられているのも大きそうだ。




祭りは、4日間にわたり行われる。

最初の3日間は村人の中でも『18歳以上』で『将来を誓い合った恋人同士』または『夫婦』だけが参加できる、『準備の期間』なのだという。

1日目から『花の輪』と『黒い棒』を作り、

2日目は洞窟の前に『舞台』を作る。

3日目は『清めの膳』と呼ばれる山菜と木の実、穀物と酒だけの食事を摂り、神社の湧き水を頭からかぶって身を清める。
夜は『真に愛する者と睦み合う』。
つまり、セックスする。

最終日に、例の歌・・・を歌いながら花輪へ棒を投げる。
その後、舞台で『剣舞』を奉納して『龍神様』を鎮める。

ちなみに、この舞台だけは村の子供達も見ることができるらしい。

村人の中で、同じ世代の男女が纏まって多いのは、この祭りのおかげなのかもしれない。


ちなみにこの変わった祭りだが、観光客やマスコミは受け入れないそうだ。

だから写真撮影はできないし、SNSに上げるなんて完全NG。僕は『うっかり』を防ぐため、スマホを袋に入れて封印した。

僕のイメージするお祭りは、出店が出て、お神輿みこしをみんなで担ぎ、花火大会が行われるものだが、このお祭りはあくまで祭事を執り行うだけの厳粛なものらしい。

小さな村だから、部外者が混ざるとすぐにわかるという。

『18年に一度の奇祭!』『男女が結ばれる』なんて言えば、観光客がたくさん来そうなものなのに、なんとなく勿体無もったいない。


外部の人間が入れないはずの祭りに、なぜ僕達が来られたのかというと、僕が所属するゼミの教授が宮司さんの先輩だったからだ。2人とも同じ神道系の大学を卒業しているらしい。
その縁で教授も前回の祭りに参加したそうだ。

その宮司さんの名前は氷太刀こおりたち 竜臣たつおみさん。


『氷太刀』さんという珍しい姓は、この村にしかいないらしい。しかもこの神社を守る一族だけ。


『氷太刀さん』と呼ぼうとしたら、
「紛らわしいから『宮司』か『竜臣』でいい」と言われた。とりあえず『宮司さん』と呼ぶことにする。


なんと、宮司さんの家にある離れに泊めてもらえることになった。宿泊施設はない村だから、最悪テントに寝泊まりしようと思っていたので助かった。

恋人同士だと告白したら、同じ部屋に布団を並べて敷いてくれた。

『3日目の夜になるまではキスだけよ』

と、奥さんにウインクされて赤面した。


最終日までには宮司さんの弟さんが恋人を連れて帰って来るらしく、僕達がいる離れに泊まるのだという。

布団を2セット敷いた部屋が空けてあったので予感はしていたが、あまり周吾さんとイチャイチャ出来ないかもしれない。




この祭りを卒論の題材にしようと考えたきっかけは、『歌』が妙に気になったからだ。

「ノンノ イッカクㇽ ♪  ノンノ カララク ♪」

ゼミの長内おさない教授が掃除をしながら口ずさんでいた謎の歌。

『不思議な歌詞だな』とネットで調べたら、ある先住民族の言葉で「ノンノ」は花、「イッカクㇽ」は盗人、「カララク」はハシボソガラスを意味するそうだ。

花やカラスはともかく、『盗人』というのは物騒な言葉だ。


教授にその歌のことを尋ねたら、『じゃあ行ってみたら?』と気軽に祭りへの参加を勧められた、という訳だ。




この村に来てさらに気になることがあった。

神社にある『黒い棒』のオリジナルは、なんと『リアル寄りのちんこの形』をしているのだ。

花輪に投げる棒はシンプルな『こけし形』なので少し違うが、黒色なのは同じ。

その色は、村の伝説に登場する『黒い龍』または、歌に登場する『カラス』が関係していると思われた。




ちなみに教授と僕は個人的な話をする仲だ。

それは、彼女・・の趣味が『男根』モチーフの物や、世界の性具を集めることだからだ。
そう、教授は女性である。

周吾さんの仕事を手伝っているせいか、夜毎使われる玩具のせいか。

『そういう形』に過敏に反応するようになってしまった僕は、彼女の膨大なコレクションに溢れた研究室の整理を手伝う際に、つい手を止めてしまったのだ。

彼女は『表面上は民俗学の教授』だ。
世界中の『神話』『伝承』『昔話』の由来を研究している。

所謂いわゆる『腐女子』というものらしく、たまたま僕が男性と付き合っていると知り、しかも『クリ嫁』の玩具開発に関わっていると知った瞬間、目の色を変えた。
40から50代くらいに見えるが、趣味に年齢は関係ないのだろう。

特別に贔屓ひいきされている訳ではないが、周吾さんの為に『性具』のことを知りたい僕と、彼女の趣味が合致した結果、一晩語り明かせる程度の仲になっている。




さて、村に話を戻そう。

着いたその日は祭りの前日。
僕と周吾さんは宮司さんの家族と一緒に、母家おもやで晩ごはんをいただいた。

宿泊費としてお金を渡そうとしたのだが、頑として受け取ってもらえなかった。


『働くもの食うべからず』

姉さんにそうしつけられた僕は、翌朝すぐ、祭りで使う花輪を作る作業を手伝うことにした。

『花輪は女性が作る』と聞いていたのだが、恋人同士の『受け入れる側』であれば、男女は問わないらしい。
『輪』に『棒』を通す、というとどうしても『セックス』を想像してしまったのだが、実際そうなのかもしれない。


花の作り方を、宮司さんの奥さんに教わる。

まずは白い和紙を花びらの形に抜き、八重桜のように張り合わせ、一輪ずつ花を作る。

これは、かつてこの村に、実際咲いていた花がモデルになっているらしい。
大昔にひどい山火事があり、『絶滅してしまったのではないか』という話だ。

茎は紙をって作る。
神社に飾る花輪は直径60cmは超える大きなもので、宮司さんの奥さんは本当に苦労していた。なにせ、他の準備もあるのだ。

僕はこういう作業がわりと好きだから、楽しくて1日で完成させてしまった。

次の祭りまで18年も時間があるのだから、作りだめしておけば良いのではないかと思ったのだが、言い伝えで、祭りの1日目になるまで花を作ることは許されないらしい。


一方周吾さんは、神社用の『棒』の制作を手伝っていた。神社のは完全に『リアル寄りのアレ』なのだが、それこそ周吾さん向きの仕事と言えた。
彼は絵が上手だが、彫刻も上手だったのだ。
オリジナルのものより、もっとリアルですごい仕上がりに見える…。

大きく張り出した亀頭。
ぼこりと浮き出た血管。
色は真っ黒なのに、
磨き上げられた表面は艶やかで…。

見た瞬間赤面してしまった。

『これを挿れられたらどうなってしまうのだろう』と、不謹慎なことを考えてしまったのだ。

今夜はキスだけなのに。



奥さんとの話の流れで、僕も一緒に夕食を作ったら、『2人が来てくれて本当によかった』と、涙ぐんで喜んでくれた。

明日は舞台の設営を手伝う予定だ。





祭り1日目の夜。

奥さんに言われたからではないが、僕と周吾さんは3日目の夜を楽しみに、眠りに落ちるまでキスをした。



周吾さんの腕の中で眠りについた僕は、

その夜、不思議な夢をみた。
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