痛みと快楽

くろねこや

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本編 2

3

「やっと本当の美夜に会えた…。…今までどこにいたの? ずっと探してたんだよ?」

ひどくにおう。
汗のすえた臭いと、ほこりやカビの臭い。
かすかにアンモニアの臭いもする。

部屋だけじゃない。目の前の男も臭う。

『あの日』の体育倉庫より酷い。

硬い床に寝かされているからか、首と腰が痛い。

どこかに打ったのか、頭も痛い。

両手は一纏ひとまとめにされ、頭上で何かに縛られているようだ。

暗くてよく見えないが、おそらく古いアパートの一室。

後頭部に触れている床はザラザラしているから、長いこと掃除がされていない。

聞こえるのは男の声と、自分の呼吸音だけ。
気持ち悪いくらいに、他の音は何も聞こえない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『美夜へ

君の大事なものを壊すよ。

僕のお嫁さんになって

一緒に暮らしてくれるなら

彼らには何もしない。

今夜7時に迎えにいくから

待っていて。

志麻より』


白い封筒に1枚の便箋。4枚の写真。

オーナー、福太郎さん、ボス、シン。

遠くから撮ったのだろう。被写体は小さく、ピントはボケていたが、いつ撮影したのか、オレの大事な人達が写っていた。
独特のフレームと厚みがある、インスタントカメラの写真だ。

それが今朝、実家のポストに入っていたらしい。切手がないということは、直接入れに来たのだ。


ひと月前の手紙は、気になる事は多いが、『言葉が比較的穏やか』な内容だったから安心していた。

『美夜へ

謝りたいことがあるんだ。

寂しかったかな?

君を1人にしてごめんね。

僕のファンが教えてくれたよ。

寂しいからあんなことしてるんだろ?

僕に会いに来て。

志麻より』


両親から電話で呼び出され、渡された手紙。

姉の美夜は、ずっと引き篭もったままだと言う。

『あんなことしてる』という言葉から、『お前を美夜と勘違いしてるんだろう。お前が解決しろ!』とヒステリックに怒鳴られた。


オレの顔は姉とあまり似ていないが、何故か昔から『勘違い』されることがあった。

子どもの頃から『女顔』だとよく言われたし、この男の『ファン』を自称する人物がオレのことを『美夜』だと思い込み、男に伝えた可能性も、決して『ない』とは言い切れない。


ストーカー男は姉を襲った7年後、違う女性を襲ったとボスが言っていた。無罪と判決が出てからも、精神科の病院に収容されていると聞いている。

だが、嫌な予感がした。
男の『ファン』とやらがオレを見張っている。

オレは、オーナーや福太郎さんの安全の為に、しばらく彼らに会わない方がいいと判断した。

シンに話せば、オレを邪険にする両親に対し、何かをしかねない。

ストーカー男に関することだから、ボスに相談すべきだと思うが、シンにも伝わってしまうだろう。

オレは誰にも相談しないまま、男からの連絡が途絶えたことに安心していた。



だが、ひと月ぶりに両親から電話があった。

開封さえされていない封筒を渡される。
『大事なものに危害を加える』という手紙と大切な4人の写真。流石にこの手紙がオレに対したものなのだとわかる。

これは誰かの罠なのか、本当にストーカー男からの手紙なのか。
本物だとしたら病院をどうやって抜け出したのか。

わからないが、オレはこの手紙の送り主と会うことにした。

スマホを取り出すと時間は18時32分。
約束の19時まで28分もあった。

手紙の内容を写真に撮り、シンとボスに『気をつけて欲しい』とメッセージを送るはずだった。


だが男は既に家の近くで待っていたのだ。

スマホを手に、完全に油断していたオレは、走ってきた男にスタンガンを当てられ、無様に崩れ落ちた。




もしオレが殺されても、シンとボスなら、きっとこの体を見つけてくれるはずだ。

そうすれば、この男は今度こそ有罪になるだろう。

父さん、母さん、姉さん。
少しはオレを好きになってくれるかな?
……あんなに嫌われていたら無理だろうな。


ひと月前にボスに相談すればよかった。
話を聴こうとしてくれたのに。

できるなら自分の力で解決したかった。

オレはストーカー達を相手に、『別れさせ屋』で上手くやってきた。そう思っていた。

だが実際は、ボスとシン、オーナーが助けてくれたから、依頼人を守ることができたのだ。

自分を過信したバチが当たったのだろう。






ビリッ、

シャツを破かれる音で我に返った。



スタンガンで動けなくなった瞬間、気を失った振りをした。必要以上に暴行を受けたくなかったからだ。移動中は目隠しされていたせいで、いつの間にか本当に眠っていたらしい。

部屋が暗いのをいいことに、目覚めてからも『気を失ったままのフリ』をしていたのだが。


男はオレの意識があろうと、なかろうと関係ないらしい。

ずっと独り言が続いているからだ。



「ボクがあげたプレゼント・・・・・をどこにやったの?」

はだけたシャツをまくられ、脇腹をツーっと撫でられる。

美夜にあるはずの傷痕がないからだろう。


『あれ?おかしいな…』『……った?』
とブツブツ小声で呟いていたと思った瞬間。

「まぁいいや。もう一度付け直してあげる」


ドッ、とも、グサッ、ともいえない音が
オレの左脇腹から聞こえた。

「!!!!」

熱い! 

それが痛みだとわかるのに時差があった。

クソいてぇ…。

姉と同じように、腹を刺されたのだろう。
男には『刺すぞ』という予備動作がなくて覚悟が間に合わなかった。


「ナイフを抜くとすぐに死んじゃうからね。まずはボクのお嫁さんになってもらわないと」


近くに呼気を感じた、その瞬間。
指で唇を開かされ、いきなり深く口付けられた。

「んんっ!!」

ぐちゅ、ぐちゅ、ぬちゅ、

ヌメり暴れ回る舌が気持ち悪い。


ズボンの前を開かれた。
脱がせるために尻を持ち上げられる。

「ぐっ!」

腹をねじるように動かされたせいで、刺された腹が激痛に襲われる。

両手を上に伸ばされているから、腹の皮が引っ張られて余計に痛い。


カチカチカチ、とカッターの刃を伸ばす音。
下着がビリッと切り裂かれた。




「あれ? 美夜は男の子だったんだね」


男の手が止まった。
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