痛みと快楽

くろねこや

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本編 2

5

「ナツ。コイツに殺されてくれればよかったのに…」

ツカサさんが呟く。

「…オレ、あなたに…そこまで嫌われる理由が…わからないです」

少なくとも『あの店』では挨拶以外、話をしたことがなかった筈だ。


「この男の2人目の被害者…西原 佳奈さんの兄だな?」

ボスはツカサさんを引き起こし、床に座らせたようだ。

「そうだよ。このストーカーは佳奈を突然『美夜』と呼んで追いかけまわし始めた」

オレを『美夜』と呼んだように、思い込んだのだろうか。


「妹は、コイツに車で拉致されてナイフで刺され、強姦された。ちょうどこの場所で」

暴力に慣れたオレでさえツラかったんだ。
その子はどれだけ怖い思いをしただろう。


「ここに放置されてた妹を、スマホのGPSで警察が見つけてくれた。でも、あの事件のせいで、妹は外に出られなくなった。男性恐怖症になり、テレビも怖がるようになった。マスコミが騒いだせいで、オレは決まってた就職の内定を取り消された」

「それはこの男が悪いのであって、奈津には関係ないはずです。それに、内定の取り消しは企業とマスコミの問題でしょう。訴えれば賠償金の請求だってできたはずだ」

オレの腹を押さえて止血するシンが、代弁してくれる。彼の正論はもっともだ。

……でも、ツカサさんの気持ちもわかる。

「…っ、確かにそうなんだろう。だけどな、オレ達はそれどころじゃなかった。事件の直後は怯えて泣く妹の側から離れることなんて出来なかったんだ!」

「同情はします。しかし、それでも彼を恨む理由にはなりませんね」

「ナツ。お前の姉にオレの妹が巻き込まれたんだぞ! それなのにお前は、金持ちの男達相手に気持ち良さそうに抱かれまくって荒稼ぎしたあげく、人の良さそうな社長を捕まえたっていうじゃないか」

『オレは就職できずにバイトで妹の面倒をみてるっていうのに…』と憎々しげに吐き捨てる。

福太郎さんの件でキレてしまったのか…。

それならオーナーに、清掃スタッフじゃなくてショーへ出たいって相談すればいい。
あの人なら絶対に相談にのってくれたはずだ。


「ひと月ってもナツはシフトを入れない。あぁ、『あの社長と幸せに暮らしてるんだろうな』と思ったら、お前のことが許せなくなった」


「…まさか、お前がコイツを焚きつけたのか?」

ボスは気づいたらしい。

ツカサさんが口に出したタイミングと、ストーカーから1通目の手紙が届いたタイミングは完全に一致するということに。

つまり、ストーカー男の手紙にあった『ファン』というのは、ツカサさんのことだったのだ。

「あぁ。あの病院、『加害者を管理している』という意識が全くない。差し入れを持って行ったら付けといた『メモ』ごとヤツに渡してくれたよ。『お前の大好きな美夜ちゃんは、4人の男を手玉に取り、毎夜遊び歩いて身体を売る淫乱女』だってね」

男は病院から脱走し、ツカサさんからの情報だけを頼りに、たった4日でシン、ボス、オーナー、福太郎さんの写真を撮ったのだ。
異常な執着と執念だ。


「オレ達は2人きりの家族なんだ。お前みたいに、夜遊びしても愛してくれるお優しい両親なんていないのに」

「お前にこいつの何がわかる…」

ボスの口から今までに聞いたことのない低い声が出た。

「こいつはな…、こいつの親はな…、」

暗闇で見えないけれど、声の揺らぎでボス…佐久間さんがオレのために本気で怒ってくれているのが伝わってくる。

でも言わないで欲しい。

「ボス」

……あぁ。

「…いいんだ。オレは……」

オレは不幸じゃない。

こうやって、
オレの代わりに怒ってくれる人がいて、
話を聴いて一緒に泣いてくれる人がいて、
いっぱい『愛』をくれるご主人様がいて、
癒してくれる優しい人がいて、
助けに来てくれる人がいる。

目の奥がぐっと熱くなる。

「ありがとう」


でも、これだけは伝えたい。

「ツカサさん。オレ、この人と、…佐久間さんっていう元 刑事さんなんですけど。この人と探偵をやってるんです」

「お前が…探偵?」

「佐久間さんは…あなたの妹さんの事件をきっかけに…警察を辞めました。この男が…無罪になったから…です」

「ナツ、傷がツラいだろう。オレが話す」

佐久間さんが代わってくれる。

「この男が無罪になってわかった。刑事は犯罪者を捕まえることしかできない。事件が起きてから、被害者を助け出す事しかできない。だからオレ達は探偵を始めた。事件が起きる前に、奈津がストーカーの目を惹きつけて、依頼人を守る。それでも駄目ならオレが依頼人のボディガードをする。事件が起きる前に助けられるんだ」

『…それなのに、ナツ。すまない』と、ボスが頭を優しく撫でてくれた。


「……だったらなんなんだよ。妹は、いま苦しんでる妹はどうなるんだよ! あんなに苦しめておいて、なにが『無罪』だよ! 頭がおかしかったら何してもいいのかよ!?」


ツカサさんは、結局どうしたいんだろう。

「…コイツは代議士が愛人に産ませた子だ。拉致、監禁、傷害に強姦。この程度じゃどうせ、責任能力がないとか理由をつけてまた無罪になるんだ…」

『この程度』って…。オレ、あんたの妹と同じ目に遭ってるんだけどなぁ。

しかし、男が無罪になったのは理由があったらしい。
ドラマとかでよくあるけど、揉み消しとかしたんだろうか…。

確かに殺人を犯せば、さすがに揉み消すことは出来ないだろう。



大事な妹を傷つけ、自分の未来を壊した男が、『きちんと裁かれること』。

それが叶えばツカサさんは前を向けるのかもしれない。



血が足りなくなってきたのか、この部屋の臭いのせいか、腹の中の汚ちんぽの名残のせいか。

死んでもいいから今すぐシャワーしたい。
頭がぐらぐらする。
寒くて気持ち悪い。
吐きそうだ。


「…じゃあこうしましょう」

シンはボスの手を取ると、オレの腹に当て止血を交代した。

と思うと、なんの予備動作もなく、いきなりツカサさんの顎を下から打った。
ドサリと身体が崩れ落ちる音がした。

そのままストーカー男の手に、落ちていたナイフを握らせると、自身の脇腹に突き刺す。

「「「!!!!」」」

なに…してるんだ、シン。


「『奈津の止血中に襲い掛かられ、抵抗しようと腕をつかんだものの僕の腹にナイフが突き立てられた』…こんなストーリーはいかがでしょう。……奈津。これであなたの傷とお揃いですね」


暗くても、シンの声から優しく微笑んでいるのが伝わってきた。


「僕の祖父に、こんな時くらい…動いてもらいましょう」


…あぁ。バカだなぁ。


『助けが間に合わなくて、すみません。奈津』と、口付けられた。

唇を開かされ、舌でクチュクチュされると、少しの間だけ吐き気が飛ぶ。


「んぅ…」

貧血でおかしくなったオレは、

腹の中がジンとうずいて

『今すぐシンに挿れて欲しい』

と、変なことを考えていた。
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