痛みと快楽

くろねこや

文字の大きさ
46 / 139
本編 2 後日譚

元『家畜』とご主人様 1

革ベルトで出来た下着のようなものから脚を抜き、先ほどまで奈津のナカに入っていたディルドを取り外す。

まだ彼の体温が残っている気がして、思わず撫でていた。


奈津がオレとのセックスで『気持ちいい』と言ってくれた。

『ありがとう』と言ってくれた。

…抱きしめてくれた。

行為の途中でご主人様オーナーに縄を解いてもらってまで、オレを抱きしめてくれたのだ。

もちろん、彼は『オレ』ではなく、『セックスが下手な男』のがんばりに対して、慰めようとしてくれたにすぎない。

それでも、今夜『ご主人様の作品』になることを諦めてまで、奈津がオレを抱きしめてくれたことに変わりない。
一晩で縛るのは一度だけ。ご主人様のこだわりで『縛り直し』はしてくれないのだ。


ステージそでから清掃スタッフとして、彼がオーナーの手で『作品』にしてもらうのを何度も見てきた。

『人間』としてではなく、『作品』として、ご主人様方から『愛』を注いでもらう。

奈津にとって、それはとても『幸せ』なことのようだった。


今夜もご主人様から抱いてもらうはずだったのに、その『幸せ』を捨ててまで、オレを抱きしめてくれた。

優しい奈津。

こんなに優しい人を、1年も地獄に落としたのだ。

店で『作品』にされたがるのも、たぶんあの1年間が…オレたちが、彼を歪ませた結果なのだろう。

ごめん、ごめん、奈津。ごめんなさい。



様々な感情が溢れてきて、思わず目からは涙が零れ、ご主人様との約束を破ってしまった。

彼に謝りたくて、お礼が言いたくて、
声を出してしまった。


……そしてなにより、オレとのセックスで、奈津が達してくれた。

……本当に嬉しかった。


幸いなことに、奈津は相手が『オレ』だと気付いても恐怖に震えることはなかった。
拒絶されなかった…。





その時、玄関の重いドアが開く音がした。

奈津を送ったご主人様が帰ってきたようだ。



スマホにメッセージが届く。

『いつもの部屋へ』

最低限の文字数で呼び出し。



天井から金属製のフックがぶら下がった部屋。

「申し訳ありません。…本当に、ありがとうございました」

「…まったく。声を出さない約束でしたのに。…わかっていますね?」

呆れたような声に、恐ろしくも甘美な震えがゾクリと背中を走った。
この声は本当に怒っている訳ではない。
オレのために『罰』を与えようとしてくれているのだ。


「…はい。お仕置きしてください。ご主人様」







ずっと、心残りだった。
奈津を痛がらせて、泣かせたこと。

あんなヤツを親友だと思い、ずっと信じて。
好きな人を傷つけ、苦しめ続けた。


ご主人様が初めて奈津と出会った夜、酔って車道に歩き出そうとしていたそうだ。

その手首にはタバコの火傷。

ヤツはオレに喫煙を勧め、『お前の印を付けてやれ』と言った。奈津がオレのものになる。その印をずっと焼き付けられるのだ。その誘惑に勝てなかった。ヤツは痛みに泣き叫ぼうとした奈津の口を手で塞ぎながら、『これでお前の家畜だな』と笑った。

ご主人様の手で尻に焼き付けられた『メスの印』がうずく。



彼がこの部屋に来る度、ドア越しでもいいから謝りたいと思っていた。
できることなら土下座して謝りたかった。
…それが自己満足にすぎないとしても。



ご主人様にその気持ちを打ち明けると、

「謝るより、彼を気持ちよくしてあげなさい。後悔のないように」

と、性器を失ったオレに『この道具』をくれた。

奈津を痛がらせることしか出来なかった後悔に、気づいてくれていたらしい。

これはペニスバンドというそうだ。
その革ベルトを、下着を穿くように装着し、ディルドをそこに固定する。

感覚がないから変な感じだが、久しぶりの重さとブルンと揺れる感覚に感動した。

ディルドは失くした『オレの』に大きさと形がよく似ていた。


「次に奈津が来て、彼が了承してくれたらあなたを呼びます」

自信がない。怖い。
泣いて痛がる彼の姿を思い出すと、胸がギュッと痛む。


「…でも、下手くそなオレじゃ、また彼を傷つけてしまいます」

頭をくしゃりと撫でられる。


「練習なさい。わたしが相手をしましょう」






この人は、自信がないオレの練習台になってくれた。

「後ろは久しぶりなので、丁寧にお願いしますね。こんなおじさんは嫌でしょうけど…」

シャワーで準備してきてくれたこの人は、確かに年上の男性のはずなのに、年齢不詳な色気があった。とても綺麗だ。嫌なはずがない。

それよりも、

「…オレ、下手だから。痛くしてしまったらごめんなさい」

不安で仕方なかった。

最後に奈津を抱いた日、彼は『感じているフリ』をしてくれていた。ナカを傷つけ流血させてしまったのに、彼の技術でオレだけが達してしまった。

オレの次に抱いたスポンサーの男は、彼をキスと乳首だけで乱れさせていたというのに。

ショックで酷い態度をとってしまった。

苛立ちと心に負った傷を封じ込めるように、2人をあの部屋に閉じ込めた。

30分後、頭が冷えてその部屋に戻ろうとした時、ふと思い立ってコンビニに飲み物を買いに行った。
スポンサー様を閉じ込めてしまったお詫びと、奈津へ差し入れをしたかった。

それが運の尽きだった。

道路を横断するオレに向かって、古そうな黒いセダンが右から迫ってくるのが見えた。
強い衝撃。跳ね飛ばされた身体。

目を覚ました時、そこは病院だった。
間抜けなことに、事故で腕と足を骨折したオレは一緒に性器を失っていたのだ。

それからの日々は、ショックで何も覚えていない。

バチが当たったのだと思った。
奈津を傷つけて、会社では『奴隷』を犯した。
泣き叫ぶ彼らの顔を忘れることができない。



閉じ込めたままの2人のことを思い出した時、病院に警察が来て、オレは逮捕された。




「大丈夫ですよ。そのための練習でしょう。ほら、来なさい。正しいやり方を教えてあげますから。わたしは調教師ですよ。…信じなさい」

服を脱ぎ、ベッドの上に仰向けになったご主人様が、オレに身を任せてくれようとしている。


この人に真正面から向き合いたい、と思った。

練習台としてではなく、1人の人間として。

「オレの名前は、工藤 蓮治れんじです。あなたの名前を教えてください」

正座して、改めて名乗った。
ご主人様じゃなく、名前で呼びたかった。

彼はポカンとした顔をした。
いつも何を考えているかわからないこの人の、
初めて見る、人間らしい表情だった。


ふっと笑って、

「わたしの名前は、咲耶さくやです。曽根崎そねざき 咲耶」

シーツに指を滑らせ、どう書くのか教えてくれた。

名前まで綺麗だ。


「曽根崎 咲耶さん。…咲耶さん、と呼んでもいいですか?」

「…ええ、いいですよ」

怖くて怖くて逆らえない、オレのご主人様。
だけど、

照れたようなその表情は、とても可愛らしかった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。