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本編 2 後日譚
元『家畜』とご主人様 1
革ベルトで出来た下着のようなものから脚を抜き、先ほどまで奈津のナカに入っていたディルドを取り外す。
まだ彼の体温が残っている気がして、思わず撫でていた。
奈津がオレとのセックスで『気持ちいい』と言ってくれた。
『ありがとう』と言ってくれた。
…抱きしめてくれた。
行為の途中でご主人様に縄を解いてもらってまで、オレを抱きしめてくれたのだ。
もちろん、彼は『オレ』ではなく、『セックスが下手な男』のがんばりに対して、慰めようとしてくれたにすぎない。
それでも、今夜『ご主人様の作品』になることを諦めてまで、奈津がオレを抱きしめてくれたことに変わりない。
一晩で縛るのは一度だけ。ご主人様のこだわりで『縛り直し』はしてくれないのだ。
ステージ袖から清掃スタッフとして、彼がオーナーの手で『作品』にしてもらうのを何度も見てきた。
『人間』としてではなく、『作品』として、ご主人様方から『愛』を注いでもらう。
奈津にとって、それはとても『幸せ』なことのようだった。
今夜もご主人様から抱いてもらうはずだったのに、その『幸せ』を捨ててまで、オレを抱きしめてくれた。
優しい奈津。
こんなに優しい人を、1年も地獄に落としたのだ。
店で『作品』にされたがるのも、たぶんあの1年間が…オレたちが、彼を歪ませた結果なのだろう。
ごめん、ごめん、奈津。ごめんなさい。
様々な感情が溢れてきて、思わず目からは涙が零れ、ご主人様との約束を破ってしまった。
彼に謝りたくて、お礼が言いたくて、
声を出してしまった。
……そしてなにより、オレとのセックスで、奈津が達してくれた。
……本当に嬉しかった。
幸いなことに、奈津は相手が『オレ』だと気付いても恐怖に震えることはなかった。
拒絶されなかった…。
その時、玄関の重いドアが開く音がした。
奈津を送ったご主人様が帰ってきたようだ。
スマホにメッセージが届く。
『いつもの部屋へ』
最低限の文字数で呼び出し。
天井から金属製のフックがぶら下がった部屋。
「申し訳ありません。…本当に、ありがとうございました」
「…まったく。声を出さない約束でしたのに。…わかっていますね?」
呆れたような声に、恐ろしくも甘美な震えがゾクリと背中を走った。
この声は本当に怒っている訳ではない。
オレのために『罰』を与えようとしてくれているのだ。
「…はい。お仕置きしてください。ご主人様」
ずっと、心残りだった。
奈津を痛がらせて、泣かせたこと。
あんなヤツを親友だと思い、ずっと信じて。
好きな人を傷つけ、苦しめ続けた。
ご主人様が初めて奈津と出会った夜、酔って車道に歩き出そうとしていたそうだ。
その手首にはタバコの火傷。
ヤツはオレに喫煙を勧め、『お前の印を付けてやれ』と言った。奈津がオレのものになる。その印をずっと焼き付けられるのだ。その誘惑に勝てなかった。ヤツは痛みに泣き叫ぼうとした奈津の口を手で塞ぎながら、『これでお前の家畜だな』と笑った。
ご主人様の手で尻に焼き付けられた『メスの印』が疼く。
彼がこの部屋に来る度、ドア越しでもいいから謝りたいと思っていた。
できることなら土下座して謝りたかった。
…それが自己満足にすぎないとしても。
ご主人様にその気持ちを打ち明けると、
「謝るより、彼を気持ちよくしてあげなさい。後悔のないように」
と、性器を失ったオレに『この道具』をくれた。
奈津を痛がらせることしか出来なかった後悔に、気づいてくれていたらしい。
これはペニスバンドというそうだ。
その革ベルトを、下着を穿くように装着し、ディルドをそこに固定する。
感覚がないから変な感じだが、久しぶりの重さとブルンと揺れる感覚に感動した。
ディルドは失くした『オレの』に大きさと形がよく似ていた。
「次に奈津が来て、彼が了承してくれたらあなたを呼びます」
自信がない。怖い。
泣いて痛がる彼の姿を思い出すと、胸がギュッと痛む。
「…でも、下手くそなオレじゃ、また彼を傷つけてしまいます」
頭をくしゃりと撫でられる。
「練習なさい。わたしが相手をしましょう」
この人は、自信がないオレの練習台になってくれた。
「後ろは久しぶりなので、丁寧にお願いしますね。こんなおじさんは嫌でしょうけど…」
シャワーで準備してきてくれたこの人は、確かに年上の男性のはずなのに、年齢不詳な色気があった。とても綺麗だ。嫌なはずがない。
それよりも、
「…オレ、下手だから。痛くしてしまったらごめんなさい」
不安で仕方なかった。
最後に奈津を抱いた日、彼は『感じているフリ』をしてくれていた。ナカを傷つけ流血させてしまったのに、彼の技術でオレだけが達してしまった。
オレの次に抱いたスポンサーの男は、彼をキスと乳首だけで乱れさせていたというのに。
ショックで酷い態度をとってしまった。
苛立ちと心に負った傷を封じ込めるように、2人をあの部屋に閉じ込めた。
30分後、頭が冷えてその部屋に戻ろうとした時、ふと思い立ってコンビニに飲み物を買いに行った。
スポンサー様を閉じ込めてしまったお詫びと、奈津へ差し入れをしたかった。
それが運の尽きだった。
道路を横断するオレに向かって、古そうな黒いセダンが右から迫ってくるのが見えた。
強い衝撃。跳ね飛ばされた身体。
目を覚ました時、そこは病院だった。
間抜けなことに、事故で腕と足を骨折したオレは一緒に性器を失っていたのだ。
それからの日々は、ショックで何も覚えていない。
バチが当たったのだと思った。
奈津を傷つけて、会社では『奴隷』を犯した。
泣き叫ぶ彼らの顔を忘れることができない。
閉じ込めたままの2人のことを思い出した時、病院に警察が来て、オレは逮捕された。
「大丈夫ですよ。そのための練習でしょう。ほら、来なさい。正しいやり方を教えてあげますから。わたしは調教師ですよ。…信じなさい」
服を脱ぎ、ベッドの上に仰向けになったご主人様が、オレに身を任せてくれようとしている。
この人に真正面から向き合いたい、と思った。
練習台としてではなく、1人の人間として。
「オレの名前は、工藤 蓮治です。あなたの名前を教えてください」
正座して、改めて名乗った。
ご主人様じゃなく、名前で呼びたかった。
彼はポカンとした顔をした。
いつも何を考えているかわからないこの人の、
初めて見る、人間らしい表情だった。
ふっと笑って、
「わたしの名前は、咲耶です。曽根崎 咲耶」
シーツに指を滑らせ、どう書くのか教えてくれた。
名前まで綺麗だ。
「曽根崎 咲耶さん。…咲耶さん、と呼んでもいいですか?」
「…ええ、いいですよ」
怖くて怖くて逆らえない、オレのご主人様。
だけど、
照れたようなその表情は、とても可愛らしかった。
まだ彼の体温が残っている気がして、思わず撫でていた。
奈津がオレとのセックスで『気持ちいい』と言ってくれた。
『ありがとう』と言ってくれた。
…抱きしめてくれた。
行為の途中でご主人様に縄を解いてもらってまで、オレを抱きしめてくれたのだ。
もちろん、彼は『オレ』ではなく、『セックスが下手な男』のがんばりに対して、慰めようとしてくれたにすぎない。
それでも、今夜『ご主人様の作品』になることを諦めてまで、奈津がオレを抱きしめてくれたことに変わりない。
一晩で縛るのは一度だけ。ご主人様のこだわりで『縛り直し』はしてくれないのだ。
ステージ袖から清掃スタッフとして、彼がオーナーの手で『作品』にしてもらうのを何度も見てきた。
『人間』としてではなく、『作品』として、ご主人様方から『愛』を注いでもらう。
奈津にとって、それはとても『幸せ』なことのようだった。
今夜もご主人様から抱いてもらうはずだったのに、その『幸せ』を捨ててまで、オレを抱きしめてくれた。
優しい奈津。
こんなに優しい人を、1年も地獄に落としたのだ。
店で『作品』にされたがるのも、たぶんあの1年間が…オレたちが、彼を歪ませた結果なのだろう。
ごめん、ごめん、奈津。ごめんなさい。
様々な感情が溢れてきて、思わず目からは涙が零れ、ご主人様との約束を破ってしまった。
彼に謝りたくて、お礼が言いたくて、
声を出してしまった。
……そしてなにより、オレとのセックスで、奈津が達してくれた。
……本当に嬉しかった。
幸いなことに、奈津は相手が『オレ』だと気付いても恐怖に震えることはなかった。
拒絶されなかった…。
その時、玄関の重いドアが開く音がした。
奈津を送ったご主人様が帰ってきたようだ。
スマホにメッセージが届く。
『いつもの部屋へ』
最低限の文字数で呼び出し。
天井から金属製のフックがぶら下がった部屋。
「申し訳ありません。…本当に、ありがとうございました」
「…まったく。声を出さない約束でしたのに。…わかっていますね?」
呆れたような声に、恐ろしくも甘美な震えがゾクリと背中を走った。
この声は本当に怒っている訳ではない。
オレのために『罰』を与えようとしてくれているのだ。
「…はい。お仕置きしてください。ご主人様」
ずっと、心残りだった。
奈津を痛がらせて、泣かせたこと。
あんなヤツを親友だと思い、ずっと信じて。
好きな人を傷つけ、苦しめ続けた。
ご主人様が初めて奈津と出会った夜、酔って車道に歩き出そうとしていたそうだ。
その手首にはタバコの火傷。
ヤツはオレに喫煙を勧め、『お前の印を付けてやれ』と言った。奈津がオレのものになる。その印をずっと焼き付けられるのだ。その誘惑に勝てなかった。ヤツは痛みに泣き叫ぼうとした奈津の口を手で塞ぎながら、『これでお前の家畜だな』と笑った。
ご主人様の手で尻に焼き付けられた『メスの印』が疼く。
彼がこの部屋に来る度、ドア越しでもいいから謝りたいと思っていた。
できることなら土下座して謝りたかった。
…それが自己満足にすぎないとしても。
ご主人様にその気持ちを打ち明けると、
「謝るより、彼を気持ちよくしてあげなさい。後悔のないように」
と、性器を失ったオレに『この道具』をくれた。
奈津を痛がらせることしか出来なかった後悔に、気づいてくれていたらしい。
これはペニスバンドというそうだ。
その革ベルトを、下着を穿くように装着し、ディルドをそこに固定する。
感覚がないから変な感じだが、久しぶりの重さとブルンと揺れる感覚に感動した。
ディルドは失くした『オレの』に大きさと形がよく似ていた。
「次に奈津が来て、彼が了承してくれたらあなたを呼びます」
自信がない。怖い。
泣いて痛がる彼の姿を思い出すと、胸がギュッと痛む。
「…でも、下手くそなオレじゃ、また彼を傷つけてしまいます」
頭をくしゃりと撫でられる。
「練習なさい。わたしが相手をしましょう」
この人は、自信がないオレの練習台になってくれた。
「後ろは久しぶりなので、丁寧にお願いしますね。こんなおじさんは嫌でしょうけど…」
シャワーで準備してきてくれたこの人は、確かに年上の男性のはずなのに、年齢不詳な色気があった。とても綺麗だ。嫌なはずがない。
それよりも、
「…オレ、下手だから。痛くしてしまったらごめんなさい」
不安で仕方なかった。
最後に奈津を抱いた日、彼は『感じているフリ』をしてくれていた。ナカを傷つけ流血させてしまったのに、彼の技術でオレだけが達してしまった。
オレの次に抱いたスポンサーの男は、彼をキスと乳首だけで乱れさせていたというのに。
ショックで酷い態度をとってしまった。
苛立ちと心に負った傷を封じ込めるように、2人をあの部屋に閉じ込めた。
30分後、頭が冷えてその部屋に戻ろうとした時、ふと思い立ってコンビニに飲み物を買いに行った。
スポンサー様を閉じ込めてしまったお詫びと、奈津へ差し入れをしたかった。
それが運の尽きだった。
道路を横断するオレに向かって、古そうな黒いセダンが右から迫ってくるのが見えた。
強い衝撃。跳ね飛ばされた身体。
目を覚ました時、そこは病院だった。
間抜けなことに、事故で腕と足を骨折したオレは一緒に性器を失っていたのだ。
それからの日々は、ショックで何も覚えていない。
バチが当たったのだと思った。
奈津を傷つけて、会社では『奴隷』を犯した。
泣き叫ぶ彼らの顔を忘れることができない。
閉じ込めたままの2人のことを思い出した時、病院に警察が来て、オレは逮捕された。
「大丈夫ですよ。そのための練習でしょう。ほら、来なさい。正しいやり方を教えてあげますから。わたしは調教師ですよ。…信じなさい」
服を脱ぎ、ベッドの上に仰向けになったご主人様が、オレに身を任せてくれようとしている。
この人に真正面から向き合いたい、と思った。
練習台としてではなく、1人の人間として。
「オレの名前は、工藤 蓮治です。あなたの名前を教えてください」
正座して、改めて名乗った。
ご主人様じゃなく、名前で呼びたかった。
彼はポカンとした顔をした。
いつも何を考えているかわからないこの人の、
初めて見る、人間らしい表情だった。
ふっと笑って、
「わたしの名前は、咲耶です。曽根崎 咲耶」
シーツに指を滑らせ、どう書くのか教えてくれた。
名前まで綺麗だ。
「曽根崎 咲耶さん。…咲耶さん、と呼んでもいいですか?」
「…ええ、いいですよ」
怖くて怖くて逆らえない、オレのご主人様。
だけど、
照れたようなその表情は、とても可愛らしかった。
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「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
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そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。