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お見合い結婚
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初めてのお見合い相手は、大企業の社長令嬢だった。第一印象はおしとやかで上品そうな人。でも、二人きりになるとやたらと上から目線な話し方をする人だと分かってげんなりした。嫌だという感情を隠しきれなかったのかもちろんお断りされた。
その次もまたその次もやはり相手は社長令嬢だった。男と結婚したい僕はなかなか乗り気になれなくて、やる気のなさが伝わるのか、僕の人柄がよろしくないのかお断りされた。そんな僕に、両親の失望感は広がるばかりで、弟からはこいつと結婚したい人なんているの?と鼻で笑われ、唯一優しくしてくれる姉だけは次があるわよと励ましてくれた。この際男なら誰でもいい。もし、次の人が男なら全力を出そう。
そんな僕の願いが通じたのか、次の人は社長令息だった。その人は26歳で跡継ぎというわけではなく公認会計士をしているらしい。
見合い当日。会食の場所に到着して、いつものように席について相手を待つ。眠くて欠伸をすると「シャキッとなさい」という母の小言が飛んできた。「申し訳ございません」と謝っておく。常に下手に出ていれば波風を立てず、穏やかに過ごすことができる。
「失礼します。お連れ様がいらっしゃいました」
係の人に連れられてやってきたのは優しそうなご婦人と背の高いできる男といった感じの人だった。あれ、どこかで会った事があるような。
「お待たせして申し訳ございません」
恐縮する婦人に、母は「こちらも今来たばかりですので」とよそ行きの微笑を浮かべた。
料理が運ばれてきて、母親たちが話をしている横で、黙々と箸を動かした。彼は小林史弥という名前だった。その名前を聞いて箸を落としそうになった。たぶん、いやほぼ間違いなくあの時の彼だ。雰囲気は全く違うけれど。
時々話を振られて当たり障りのない回答をする。彼は姿勢が良くて、食べ方も美しかった。絵になるななんてこの場の雰囲気にそぐわない感想を抱いてしまう。彼は僕のことを覚えていないのか、動揺した雰囲気も感じられず終始にこやかだった。
食事を終えてもうお開きかなと思い始めた頃、彼が「ふたりで話をしたい」と言い出した。あの日のことを思い出したのだろうかと少し緊張感が走る。先に帰ると言う母親たちは部屋を出ていき、二人きりになった。
「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
「お話しておきたいことがありまして」
「なんでしょうか?」
あの日のことというわけではなさそうだった。
「もし結婚しても俺はあなたのことを愛することはないと思います」
「どなたか他にお好きな方がおられるとか?」
「そういうわけではないのですが」
では、どういうわけなのか?別に愛してくれなくてもいいけれど、セックスがないのは少し困る。
「別に本命がいようが愛人がいようが、構いません。ただ……」
「ただ?」
「時々……本当に時々でいいので、抱いて頂きたいです」
「……はい?」
「一応、人並みに性欲はありまして。かと言って誰か相手を探すのも大変ですし。風俗でもいいんですけどちょっと面倒といいますか」
「そう……ですか」
「だから時々抱いてくださるなら、後はお好きになさって頂いて構いません」
「ふ……」
「何か?」
「いや、初めて言われたので。普通は嫌がられるから」
「そうですか?僕もあなたの事愛そうとは思いませんのでお互い様じゃないですかね?」
「いいですね。この話進めてもよろしいですか?」
「大丈夫です。よろしくお願いします」
ふたりで握手を交わして、何だか大きな商談を成功させたみたいな不思議な達成感を感じた。
こうして、結婚の話は進んでいき、僕は大倉という姓から小林という姓に変わる事になった。大学を卒業してから一緒に住むという話も出たが、一刻も早く家を出たくて彼と生活を始めたいと申し出て受け入れられた。入籍を済ませ、彼の家に引っ越しをする日を心待ちにしていた僕は、あっという間にその日を迎えた。誰に見送られるでもなく、約20年間住んでいた実家を後にした。
彼が住んでいるのは2LDKのマンションだ。6階の角部屋だと聞いている。緊張しながらインターホンを鳴らして、彼に出迎えられた。
「今日から宜しくお願いします。業者の人が来てて」
「うん、よろしく。君の部屋はこっちだから、そこに運んでもらって」
「分かりました」
用意してもらった部屋に荷物を運び入れてもらい、段ボールを見つめながら、荷解きはゆっくりやっていこうと段ボールだらけの部屋で当面過ごすことにした。
リビングにいる彼に終わった事を告げると、どこに何があるのかという説明を一通り受けた。なぜ一緒に暮らすのにこんなにも事細かに説明するのだろうという疑問はあったけれど、黙って聞くことにした。
「何かわからない事ある?」
「たぶん、大丈夫だと思います」
「そう。1つお願いがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「月に1回、俺の実家に一緒に来てほしいんだ」
「ご実家に?」
「一緒に食事をしたいらしくて」
「別に構いません」
「よかった。それでね、その日にしようと思うんだけど」
「何をです?」
「君を抱く日」
「……あぁ、なるほど。そうですか、分かりました」
覚えていてくれたのか。見合いの日に言った事。
「じゃあ、そういう事で。あっ、これ家の鍵ね」
「分かりました」
「それじゃあ、俺行くね」
「は?」
行くとは?と思って、そうかと閃く。愛人のところに行くのだな?
「分かりました。お気をつけて」
「戸締まりはしっかりするんだよ」
「分かりました」
「じゃあね」
そう言い残して彼は颯爽と姿を消した。今日が初夜かもしれないと少し、ほんの少しだけ期待していた僕は啞然と彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
その次もまたその次もやはり相手は社長令嬢だった。男と結婚したい僕はなかなか乗り気になれなくて、やる気のなさが伝わるのか、僕の人柄がよろしくないのかお断りされた。そんな僕に、両親の失望感は広がるばかりで、弟からはこいつと結婚したい人なんているの?と鼻で笑われ、唯一優しくしてくれる姉だけは次があるわよと励ましてくれた。この際男なら誰でもいい。もし、次の人が男なら全力を出そう。
そんな僕の願いが通じたのか、次の人は社長令息だった。その人は26歳で跡継ぎというわけではなく公認会計士をしているらしい。
見合い当日。会食の場所に到着して、いつものように席について相手を待つ。眠くて欠伸をすると「シャキッとなさい」という母の小言が飛んできた。「申し訳ございません」と謝っておく。常に下手に出ていれば波風を立てず、穏やかに過ごすことができる。
「失礼します。お連れ様がいらっしゃいました」
係の人に連れられてやってきたのは優しそうなご婦人と背の高いできる男といった感じの人だった。あれ、どこかで会った事があるような。
「お待たせして申し訳ございません」
恐縮する婦人に、母は「こちらも今来たばかりですので」とよそ行きの微笑を浮かべた。
料理が運ばれてきて、母親たちが話をしている横で、黙々と箸を動かした。彼は小林史弥という名前だった。その名前を聞いて箸を落としそうになった。たぶん、いやほぼ間違いなくあの時の彼だ。雰囲気は全く違うけれど。
時々話を振られて当たり障りのない回答をする。彼は姿勢が良くて、食べ方も美しかった。絵になるななんてこの場の雰囲気にそぐわない感想を抱いてしまう。彼は僕のことを覚えていないのか、動揺した雰囲気も感じられず終始にこやかだった。
食事を終えてもうお開きかなと思い始めた頃、彼が「ふたりで話をしたい」と言い出した。あの日のことを思い出したのだろうかと少し緊張感が走る。先に帰ると言う母親たちは部屋を出ていき、二人きりになった。
「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
「お話しておきたいことがありまして」
「なんでしょうか?」
あの日のことというわけではなさそうだった。
「もし結婚しても俺はあなたのことを愛することはないと思います」
「どなたか他にお好きな方がおられるとか?」
「そういうわけではないのですが」
では、どういうわけなのか?別に愛してくれなくてもいいけれど、セックスがないのは少し困る。
「別に本命がいようが愛人がいようが、構いません。ただ……」
「ただ?」
「時々……本当に時々でいいので、抱いて頂きたいです」
「……はい?」
「一応、人並みに性欲はありまして。かと言って誰か相手を探すのも大変ですし。風俗でもいいんですけどちょっと面倒といいますか」
「そう……ですか」
「だから時々抱いてくださるなら、後はお好きになさって頂いて構いません」
「ふ……」
「何か?」
「いや、初めて言われたので。普通は嫌がられるから」
「そうですか?僕もあなたの事愛そうとは思いませんのでお互い様じゃないですかね?」
「いいですね。この話進めてもよろしいですか?」
「大丈夫です。よろしくお願いします」
ふたりで握手を交わして、何だか大きな商談を成功させたみたいな不思議な達成感を感じた。
こうして、結婚の話は進んでいき、僕は大倉という姓から小林という姓に変わる事になった。大学を卒業してから一緒に住むという話も出たが、一刻も早く家を出たくて彼と生活を始めたいと申し出て受け入れられた。入籍を済ませ、彼の家に引っ越しをする日を心待ちにしていた僕は、あっという間にその日を迎えた。誰に見送られるでもなく、約20年間住んでいた実家を後にした。
彼が住んでいるのは2LDKのマンションだ。6階の角部屋だと聞いている。緊張しながらインターホンを鳴らして、彼に出迎えられた。
「今日から宜しくお願いします。業者の人が来てて」
「うん、よろしく。君の部屋はこっちだから、そこに運んでもらって」
「分かりました」
用意してもらった部屋に荷物を運び入れてもらい、段ボールを見つめながら、荷解きはゆっくりやっていこうと段ボールだらけの部屋で当面過ごすことにした。
リビングにいる彼に終わった事を告げると、どこに何があるのかという説明を一通り受けた。なぜ一緒に暮らすのにこんなにも事細かに説明するのだろうという疑問はあったけれど、黙って聞くことにした。
「何かわからない事ある?」
「たぶん、大丈夫だと思います」
「そう。1つお願いがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「月に1回、俺の実家に一緒に来てほしいんだ」
「ご実家に?」
「一緒に食事をしたいらしくて」
「別に構いません」
「よかった。それでね、その日にしようと思うんだけど」
「何をです?」
「君を抱く日」
「……あぁ、なるほど。そうですか、分かりました」
覚えていてくれたのか。見合いの日に言った事。
「じゃあ、そういう事で。あっ、これ家の鍵ね」
「分かりました」
「それじゃあ、俺行くね」
「は?」
行くとは?と思って、そうかと閃く。愛人のところに行くのだな?
「分かりました。お気をつけて」
「戸締まりはしっかりするんだよ」
「分かりました」
「じゃあね」
そう言い残して彼は颯爽と姿を消した。今日が初夜かもしれないと少し、ほんの少しだけ期待していた僕は啞然と彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
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