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彼のことを?
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史弥さんが家に帰ってくるようになってから、トキさんが家に来る頻度は減ってしまったけれど、今でも時々お願いして来てもらっている。
「ねぇ、トキさん」
トキさん特製のオムライスを頬張りながら、お茶を啜るトキさんに話しかける。
「なんですか?」
「今日さ、夜ご飯作ろうと思ってるんだけど、それまでいてくれない?教えてほしいんだ」
「構いませんけど、どうされたんですか?」
「史弥さんが早く帰ってくる日はいつもご飯作ってもらってるんだよね」
「あら、まあまあまあ、そうなんですね」
「僕も作ってあげたいなーと思って」
「まあまあ、いいじゃないですか」
「すごい嬉しそうだね」
「だってようやく新婚さんらしくなってきましたし」
「しっ新婚さんって、そんなんじゃないし」
「そうですか?」
「そうです。ただ公平じゃないと思っただけだし」
「ふふふ、そういうことにしておきましょう」
史弥さんばっかりに負担をかけているのは申し訳ないなと思っただけで、別に深い意味はないのだ。
「カレーにしようと思うんだけど、どう思う?」
「いいのではないでしょうか」
「失敗しなさそうだからさ」
「明日のお昼ご飯にもなりますし、いいと思いますよ」
「よかった」
「買い出しはトキにお任せくださいませ」
「本当は材料も買いに行かなきゃなんだよね」
「まずはできる事から始めていきましょう」
「いつもありがとう。甘えてばっかりでごめんね」
「聡真さんに甘えてもらえると嬉しいですからね。あら、もうお昼休憩終わっちゃいますよ」
「本当だ。そろそろ仕事に戻るね」
カレー喜んでくれるだろうか。すぐに史弥さんのことを考えてしまう。最近どうかしてる。思考を振り払うように首を振って、作業の続きに取り掛かった。
遠慮がちに扉をノックする音が聞こえて時計を見ると18時を過ぎようとしていた。
「はーい」
「お仕事いかがですか?」
「もう終わるからそっち行くね」
「かしこまりました」
まだ納期は先だし、また明日にしよう。PCの電源を落として部屋を出る。キッチンへ向かうとトキさんが準備を始めてくれていた。
「よーし、切るぞ」
危なかっしい包丁捌きを見たトキさんに「気をつけて」と何度も言われながら野菜を切っていく。一応今までにもやったことはあるんだけどな。材料を炒めて煮込んでいる間にサラダを作ることにした。
「最近はレンジでカレーを作ることができるみたいですよ」
「そうなの!?」
「色々作ることができるみたいです」
「へー、今度何かやってみようかな」
「時短になりますし、いいかもしれませんね」
「だよね。いいことを聞いたな。ありがとう」
「無理は禁物ですからね」
「みんなやってるでしょ?働きながら家事も」
「まぁ、そうですね」
「すごいよね。僕なんて史弥さんにもトキさんにも甘えてばっかりだ」
「頼っちゃえばいいんですよ。史弥さんも嫌じゃないからやってくださっているのでは?」
「そうかな?甘えてばっかりで嫌われたりしないかな?」
「あら、そんな心配なさってるんですか?」
「ベベベ別に?」
「素直じゃありませんねー、坊ちゃまは」
「坊ちゃまって言わないでよ。もう子供じゃないんだから」
「はいはい、申し訳ございません」
だって一緒に暮らしてるし?結婚してるし?嫌われていない方がいいと思うじゃん?それだけだ。
「あとはルーを入れて煮込むだけですからね」
「分かった。もう帰るの?食べていけば?」
「お邪魔しちゃ悪いですから」
「な……何言ってるんだよ。みんなで食べたほうが美味しいじゃん」
「またの機会にお願いしますね」
「トキさんがそういうならしょうがないけど」
「ふたりきりで嬉しいって顔に書いてありますよ」
「もう、トキさん!怒るよ?」
「怒られないうちに退散致しますかね」
嬉しそうに笑いながらトキさんは帰っていった。別にふたりきりがいいとか思ってないんだけど。
しばらくすると鍵が開く音が聞こえた。急いで玄関の方へ向かう。
「ただいま」
「おかえりなさい」
目を細めて笑う史弥さんを見て心臓が高鳴った。
「いい匂いがする。カレー?」
「作ったんだ。いつも作ってもらってて申し訳ないから」
「別に好きでやってることだから気にしなくてもいいのに」
「これからは僕も作るようにするから」
「ありがとう。楽しみだな」
そっと頭を撫でられてまた心臓がドキリとした。彼に触れてもらうと嬉しくなる。
「準備しておくね」
このドキドキを悟られたくなくて踵を返してリビングの方へ向かった。なんなんだ、顔は熱いしすごくドキドキするし。僕はおかしくなったのか?
気を取り直してご飯をよそおうと炊飯器を開けた。
「しまった!!」
ご飯を炊き忘れていた。痛恨のミス。カレーにばかり気を取られていてすっかり忘れていた。トキさんもあると思っていたんだろうな。
「どうしたの?」
キッチンに来た史弥さんが不思議そうな顔をした。せっかく作ったのに。ご飯が炊きあがるまで待ってもらわないといけない。申し訳無さと不甲斐なさで頭の中がぐちゃぐちゃになって泣きたくなってきた。
「ごめんなさい。ご飯炊くの忘れて」
「あぁ、あるある。蓋を開けてあって思うことあるよね」
史弥さんの優しさで涙腺が決壊して涙が零れてしまった。
「ちょっ、泣くことないじゃん。よくあることなんだから」
「だって、不甲斐なしだし、申し訳ないし」
「気にしない気にしない。ご飯なんてすぐに炊きあがるよ」
「うっ……うぅっ……」
「アニメ見て待とうよ。昨日録画したやつ見たいだろ?」
「見だい」
「はい、もう泣かない。ティッシュ取ってくる」
ティッシュで目元と鼻水を拭われてさらに申し訳なくなる。また謝ろうと思って彼を見つめると軽くキスをされた。
「なんで??」
「ごめん、その目で見られるとつい」
「へ??」
「涙目で上目遣いとか……反則だろ」
「は?」
頭の中が?でいっぱいになって、涙が引っ込んでしまった。反則って何??
「ほら、ご飯炊いちゃおう」
「あっ、うん」
ポヤポヤとした気持ちのまま米を研いで、炊飯ボタンを押した。キスされた。エッチのとき以外で初めて。普通にするものなの?挨拶的な?泣かないでのキス??そうだよね?きっとそうなんだろう。うん。
「聡真くん?」
「ひゃい!?」
「ひゃい?」
「何?」
「こっちにおいでよ。始まるよ」
「あっ、うん」
毎週楽しみにしているのに内容が全然入ってこない。史弥さんのことが気になって仕方がない。キスなんて何回もしてるのに、どうしてあんなにも特別な感じがしたんだろう?エンディング曲が流れ出したタイミングでご飯が炊けた時に鳴る電子音が聞こえた。
「ちょうどいいタイミングだったね」
「そうだね。カレー温めるね」
「俺も手伝うよ」
「いいよいいよ、座ってて」
「ありがとう」
そう言うのが精一杯だった。前までには感じなかった感情を史弥さんに抱いている気がする。これは、あまり良くないのでは……?
カレーとサラダをテーブルに並べて「いただきます」と呟く。スプーンを口に運ぶ史弥さんの反応が気になってジッと見つめる。
「美味しい」
「本当に?」
「うん。そんなに不安そうな顔しなくても」
「自分が作ったもの食べてもらうの初めてだから」
「初めて?」
「うん、初めて」
「そっか。へぇ、そっか」
「だから不安なの」
「美味しいよ。食べてみたら?」
「うん」
スプーンを口の中に運ぶ。
「うん、美味しく出来てる」
「だろう?」
「うん」
嬉しくて頬が緩んでしまう。また作ってあげたらこんな風に喜んでくれるだろうか。もっと彼に喜んでもらいたい。もっとこの笑顔が見たい。
「そんなに見られると食べにくいよ」
「あっ、ごめん」
慌てて目を逸らしてカレーを頬張る。見過ぎは良くない。
「ふふ」
「なに?」
「いや、本当かわいい」
「かわいくないし」
「あはは、こう言うと絶対に照れるよね」
「照れてなんか……ないもん」
もう本当に調子が狂ってしまう。そういう事をさらっと言わないでほしい。
「ごちそうさま。本当に美味しかったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「そうだ、明日から出張でしばらく帰れなくなる」
「出張……?」
本当に出張?誰かの家に行くわけじゃない?
「クライアントの工場が九州にあってね」
「そうなんだ」
「お土産買ってくるね」
「うん、楽しみにしてる」
そうは言ったものの本当はめちゃくちゃ寂しい。今まではいなくて当たり前だったのに。
「早く帰ってきてね」
「え?」
「え?いや、なんでもない」
僕は今、何を口走ったんだろう。余計なことを言わないように早く食べてこの場から立ち去りたい。
「ご馳走様でした」
「片付けは俺がやるよ」
「いいよ。明日の準備とかあるでしょ?」
「まぁ、あるけど」
「だから僕がやるよ。準備してきたら?」
「ありがとう」
彼を部屋から出て行かせることに成功した。ふうっと一息ついてから片付けを始めた。
シャワーを浴びてソファでぼんやりしていると彼が顔を覗かせた。
「先に寝るね」
「うん、おやすみ。明日は何時に行くの?」
「7時くらいかな?」
「そう、わかった」
「おやすみ」
彼が部屋に戻っていき、僕も寝ようと立ち上がる。せっかくだし、明日は見送りしよう。早めに目覚ましをセットして眠りについた。
ガタガタという音で目を覚ます。あれ、今何時だろう?スマホの画面を見て慌てて起き上がる。もう7時じゃん。寝過ごした。
扉を開けるとちょうど彼が靴を履いているところだった。
「ごめん、起こしちゃった?」
「違……寝坊した」
「寝坊?」
「いってらっしゃいって言おうと思ってて」
目を細めた彼に手招きされて近づくと、チュッと唇にキスをされた。
「いってくるね」
「……いってらっしゃい」
手を振って扉の外へ出ていく彼を見送ってからヘナヘナとその場に崩れ落ちる。これっていってらっしゃいのキスってやつ?どうしよう、もう心臓に悪すぎる。
「早く会いたいよ」
僕の長過ぎる1週間が始まろうとしていた。
「ねぇ、トキさん」
トキさん特製のオムライスを頬張りながら、お茶を啜るトキさんに話しかける。
「なんですか?」
「今日さ、夜ご飯作ろうと思ってるんだけど、それまでいてくれない?教えてほしいんだ」
「構いませんけど、どうされたんですか?」
「史弥さんが早く帰ってくる日はいつもご飯作ってもらってるんだよね」
「あら、まあまあまあ、そうなんですね」
「僕も作ってあげたいなーと思って」
「まあまあ、いいじゃないですか」
「すごい嬉しそうだね」
「だってようやく新婚さんらしくなってきましたし」
「しっ新婚さんって、そんなんじゃないし」
「そうですか?」
「そうです。ただ公平じゃないと思っただけだし」
「ふふふ、そういうことにしておきましょう」
史弥さんばっかりに負担をかけているのは申し訳ないなと思っただけで、別に深い意味はないのだ。
「カレーにしようと思うんだけど、どう思う?」
「いいのではないでしょうか」
「失敗しなさそうだからさ」
「明日のお昼ご飯にもなりますし、いいと思いますよ」
「よかった」
「買い出しはトキにお任せくださいませ」
「本当は材料も買いに行かなきゃなんだよね」
「まずはできる事から始めていきましょう」
「いつもありがとう。甘えてばっかりでごめんね」
「聡真さんに甘えてもらえると嬉しいですからね。あら、もうお昼休憩終わっちゃいますよ」
「本当だ。そろそろ仕事に戻るね」
カレー喜んでくれるだろうか。すぐに史弥さんのことを考えてしまう。最近どうかしてる。思考を振り払うように首を振って、作業の続きに取り掛かった。
遠慮がちに扉をノックする音が聞こえて時計を見ると18時を過ぎようとしていた。
「はーい」
「お仕事いかがですか?」
「もう終わるからそっち行くね」
「かしこまりました」
まだ納期は先だし、また明日にしよう。PCの電源を落として部屋を出る。キッチンへ向かうとトキさんが準備を始めてくれていた。
「よーし、切るぞ」
危なかっしい包丁捌きを見たトキさんに「気をつけて」と何度も言われながら野菜を切っていく。一応今までにもやったことはあるんだけどな。材料を炒めて煮込んでいる間にサラダを作ることにした。
「最近はレンジでカレーを作ることができるみたいですよ」
「そうなの!?」
「色々作ることができるみたいです」
「へー、今度何かやってみようかな」
「時短になりますし、いいかもしれませんね」
「だよね。いいことを聞いたな。ありがとう」
「無理は禁物ですからね」
「みんなやってるでしょ?働きながら家事も」
「まぁ、そうですね」
「すごいよね。僕なんて史弥さんにもトキさんにも甘えてばっかりだ」
「頼っちゃえばいいんですよ。史弥さんも嫌じゃないからやってくださっているのでは?」
「そうかな?甘えてばっかりで嫌われたりしないかな?」
「あら、そんな心配なさってるんですか?」
「ベベベ別に?」
「素直じゃありませんねー、坊ちゃまは」
「坊ちゃまって言わないでよ。もう子供じゃないんだから」
「はいはい、申し訳ございません」
だって一緒に暮らしてるし?結婚してるし?嫌われていない方がいいと思うじゃん?それだけだ。
「あとはルーを入れて煮込むだけですからね」
「分かった。もう帰るの?食べていけば?」
「お邪魔しちゃ悪いですから」
「な……何言ってるんだよ。みんなで食べたほうが美味しいじゃん」
「またの機会にお願いしますね」
「トキさんがそういうならしょうがないけど」
「ふたりきりで嬉しいって顔に書いてありますよ」
「もう、トキさん!怒るよ?」
「怒られないうちに退散致しますかね」
嬉しそうに笑いながらトキさんは帰っていった。別にふたりきりがいいとか思ってないんだけど。
しばらくすると鍵が開く音が聞こえた。急いで玄関の方へ向かう。
「ただいま」
「おかえりなさい」
目を細めて笑う史弥さんを見て心臓が高鳴った。
「いい匂いがする。カレー?」
「作ったんだ。いつも作ってもらってて申し訳ないから」
「別に好きでやってることだから気にしなくてもいいのに」
「これからは僕も作るようにするから」
「ありがとう。楽しみだな」
そっと頭を撫でられてまた心臓がドキリとした。彼に触れてもらうと嬉しくなる。
「準備しておくね」
このドキドキを悟られたくなくて踵を返してリビングの方へ向かった。なんなんだ、顔は熱いしすごくドキドキするし。僕はおかしくなったのか?
気を取り直してご飯をよそおうと炊飯器を開けた。
「しまった!!」
ご飯を炊き忘れていた。痛恨のミス。カレーにばかり気を取られていてすっかり忘れていた。トキさんもあると思っていたんだろうな。
「どうしたの?」
キッチンに来た史弥さんが不思議そうな顔をした。せっかく作ったのに。ご飯が炊きあがるまで待ってもらわないといけない。申し訳無さと不甲斐なさで頭の中がぐちゃぐちゃになって泣きたくなってきた。
「ごめんなさい。ご飯炊くの忘れて」
「あぁ、あるある。蓋を開けてあって思うことあるよね」
史弥さんの優しさで涙腺が決壊して涙が零れてしまった。
「ちょっ、泣くことないじゃん。よくあることなんだから」
「だって、不甲斐なしだし、申し訳ないし」
「気にしない気にしない。ご飯なんてすぐに炊きあがるよ」
「うっ……うぅっ……」
「アニメ見て待とうよ。昨日録画したやつ見たいだろ?」
「見だい」
「はい、もう泣かない。ティッシュ取ってくる」
ティッシュで目元と鼻水を拭われてさらに申し訳なくなる。また謝ろうと思って彼を見つめると軽くキスをされた。
「なんで??」
「ごめん、その目で見られるとつい」
「へ??」
「涙目で上目遣いとか……反則だろ」
「は?」
頭の中が?でいっぱいになって、涙が引っ込んでしまった。反則って何??
「ほら、ご飯炊いちゃおう」
「あっ、うん」
ポヤポヤとした気持ちのまま米を研いで、炊飯ボタンを押した。キスされた。エッチのとき以外で初めて。普通にするものなの?挨拶的な?泣かないでのキス??そうだよね?きっとそうなんだろう。うん。
「聡真くん?」
「ひゃい!?」
「ひゃい?」
「何?」
「こっちにおいでよ。始まるよ」
「あっ、うん」
毎週楽しみにしているのに内容が全然入ってこない。史弥さんのことが気になって仕方がない。キスなんて何回もしてるのに、どうしてあんなにも特別な感じがしたんだろう?エンディング曲が流れ出したタイミングでご飯が炊けた時に鳴る電子音が聞こえた。
「ちょうどいいタイミングだったね」
「そうだね。カレー温めるね」
「俺も手伝うよ」
「いいよいいよ、座ってて」
「ありがとう」
そう言うのが精一杯だった。前までには感じなかった感情を史弥さんに抱いている気がする。これは、あまり良くないのでは……?
カレーとサラダをテーブルに並べて「いただきます」と呟く。スプーンを口に運ぶ史弥さんの反応が気になってジッと見つめる。
「美味しい」
「本当に?」
「うん。そんなに不安そうな顔しなくても」
「自分が作ったもの食べてもらうの初めてだから」
「初めて?」
「うん、初めて」
「そっか。へぇ、そっか」
「だから不安なの」
「美味しいよ。食べてみたら?」
「うん」
スプーンを口の中に運ぶ。
「うん、美味しく出来てる」
「だろう?」
「うん」
嬉しくて頬が緩んでしまう。また作ってあげたらこんな風に喜んでくれるだろうか。もっと彼に喜んでもらいたい。もっとこの笑顔が見たい。
「そんなに見られると食べにくいよ」
「あっ、ごめん」
慌てて目を逸らしてカレーを頬張る。見過ぎは良くない。
「ふふ」
「なに?」
「いや、本当かわいい」
「かわいくないし」
「あはは、こう言うと絶対に照れるよね」
「照れてなんか……ないもん」
もう本当に調子が狂ってしまう。そういう事をさらっと言わないでほしい。
「ごちそうさま。本当に美味しかったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「そうだ、明日から出張でしばらく帰れなくなる」
「出張……?」
本当に出張?誰かの家に行くわけじゃない?
「クライアントの工場が九州にあってね」
「そうなんだ」
「お土産買ってくるね」
「うん、楽しみにしてる」
そうは言ったものの本当はめちゃくちゃ寂しい。今まではいなくて当たり前だったのに。
「早く帰ってきてね」
「え?」
「え?いや、なんでもない」
僕は今、何を口走ったんだろう。余計なことを言わないように早く食べてこの場から立ち去りたい。
「ご馳走様でした」
「片付けは俺がやるよ」
「いいよ。明日の準備とかあるでしょ?」
「まぁ、あるけど」
「だから僕がやるよ。準備してきたら?」
「ありがとう」
彼を部屋から出て行かせることに成功した。ふうっと一息ついてから片付けを始めた。
シャワーを浴びてソファでぼんやりしていると彼が顔を覗かせた。
「先に寝るね」
「うん、おやすみ。明日は何時に行くの?」
「7時くらいかな?」
「そう、わかった」
「おやすみ」
彼が部屋に戻っていき、僕も寝ようと立ち上がる。せっかくだし、明日は見送りしよう。早めに目覚ましをセットして眠りについた。
ガタガタという音で目を覚ます。あれ、今何時だろう?スマホの画面を見て慌てて起き上がる。もう7時じゃん。寝過ごした。
扉を開けるとちょうど彼が靴を履いているところだった。
「ごめん、起こしちゃった?」
「違……寝坊した」
「寝坊?」
「いってらっしゃいって言おうと思ってて」
目を細めた彼に手招きされて近づくと、チュッと唇にキスをされた。
「いってくるね」
「……いってらっしゃい」
手を振って扉の外へ出ていく彼を見送ってからヘナヘナとその場に崩れ落ちる。これっていってらっしゃいのキスってやつ?どうしよう、もう心臓に悪すぎる。
「早く会いたいよ」
僕の長過ぎる1週間が始まろうとしていた。
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