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変化する日常*

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 あの日以降、何故か史弥さんは毎日帰ってくるようになった。早く帰って来る日はご飯を作ってくれて、遅くなる日は今日は先に食べてと連絡が来る。僕が勧めた漫画を律儀に読んでくれて、感想を言い合うのが日課になっている。アニメまで見るようになって、一緒にリアタイしたりなんかもしている。ここ2週間ほどの出来事だ。

「明日は一緒に行こうか」

「そうですね」

 明日は毎月恒例のお食事会がある。いつもは近くで落ち合って向かっているのだが、今回はここから一緒に行くらしい。

「そうだ、狩野先生の別の作品を読んでみたんだが」

「えぇ、早すぎません!?」

 狩野先生というのは、今僕が嵌っているアクション漫画を描いている先生で、その前に描かれていた作品も評価が高くて気になっているのだ。それをもう読んだだなんて。

「買ったんですか?」

「うん」

「いつの間に!あっ、この前届いていた荷物がそれですか?」

「正解」

「もう、教えてくださいよ」

「あはは。俺の部屋にあるから読んでいいよ」

「お借りします!」

 こんな会話ができるようになった。すごい進歩だ。

「今日は早く寝なきゃ」

「帰ってきてから寝ればいいんじゃないの?」

「まぁ、そうですけど」

 だって明日は抱いてもらう日だし。だから眠るのもな。そんな僕の考えを察したのか、彼が「あぁ、そうか」と発した。「そうです」と発言したあとに微妙な沈黙が訪れる。

「じゃあ、シャワー浴びて寝ますね」

「うん、おやすみ」

「おやすみなさい」

 逃げるように部屋をあとにした。会話の続け方が分からない。早々とシャワーを浴びて、布団に潜り込んだ。いつもと変わらない、月に一度の日なはずなのに。よくわからない感情に支配されながら眠りについた。

 彼の実家を訪れる事にもずいぶんと慣れた。いつも温かく迎えてくれる義両親のおかげだろう。

「いらっしゃい、聡真くん」

「お邪魔します」

「さあさあ、入って入って」

「父さん、そんなに急かすなよ」

「あぁ、すまない」

「いえ、全然」

 にこやかに挨拶を交わしながら靴を脱いだ。実家とは違う歓迎ぶりに照れてしまうけれど、内心すごく嬉しい。

「聡真くん!」

「あっ、由弥くん」

 由弥くんがチラリと史弥さんの方を見てすぐに僕へと視線を移した。ここでは、いつも食事をする部屋にいるのに珍しい。

「珍しいね。いつも部屋にいるのに」

「ほら、前に漫画貸すって話してたから」

「そっか」

「部屋くる?」

「うん、そうだね」

 そう言った僕の腕を史弥さんが掴んだ。

「あの?」

「父さんたち待ってるんじゃないかな」

「それもそうですね」

「別にいいじゃん。少しくらい」

 あれ、なんか雰囲気が険悪な気がするのだが、気のせいだろうか?

「おーい、何してるんだー?」

 部屋からひょこっと顔を出したお義父さんが無邪気に呼びかけてくれて緊張が解けた。

「行こうか」

「あっはい。由弥くん、また後でね」

「何あれ」

 憮然とした表情を浮かべる由弥くんが気になったけれど、史弥さんにそのまま手を引かれて歩く形になった。

「手を繋いで、仲が良いなー」

 僕達を見たお義父さんが嬉しそうに言って、お義母さんも「あら、ほんとだ」と同調した。

「うん、仲良いよ。ね?」

「そうだね」

 これは初めてのパターンだな。あの、いつまで手を?と目で訴えかけたけれど無視されて、そのまま席に連れて行かれた。ちょっと恥ずかしい。

 いつものように料理上手なお義母さんの手料理に舌鼓を打って、和やかな時間を過ごす。

「じゃあ、帰ろうか」

「もう帰るのか?」

 驚くお義父さんと同じリアクションを心の中でとる。

「早くふたりで過ごしたいから」

 は?と声に出さなかった僕は偉いと思う。いったいどうしたんだ?

「そうか。まぁ寂しいけど仕方ないな」

 納得するんだ。何も言わずに立ち上がって部屋を出ていった由弥くんを目で追う。漫画借りようと思っていたのに。無理かも。

「ほら、行くよ」

「うん。ご馳走さまでした。今日も楽しかったです」

「僕達もだよ。また待ってるからね」

「はい、ありがとうございます」

 慌ただしく部屋を出て、玄関に向かうと紙袋を持った由弥くんが立っていた。

「聡真くん、これ」

「わざわざありがとう。嬉しい」

 受け取ろうと手を伸ばした僕よりも先に史弥さんがそれを取った。

「俺が持つよ。重いし」

「別に大丈夫ですよ?」

「いいから」

「すみません。ありがとうございます。由弥くんありがとね。また読んだら感想送る」

「うん、楽しみにしてる。そうだ、これ」

「何?」

 すっと手渡された封筒を受け取って中を確認する。

「あっ、原画展のチケットじゃん。取れたの?」

「うん。一緒に行こう」

「マジで!?いいの?」

「うん。また連絡するね」

「分かった。じゃあ、またね」

 チケットを鞄にしまって、靴を履いた。ふと視線を感じて隣を見ると少し不機嫌な顔をする史弥さんがいて疑問符が浮かぶ。何かしたかな?
 家まで帰る間、雰囲気が怖くて一言も発することができなかった。こんな事は初めてで、何か気に触ることをしてしまったのか気になって仕方がなかった。

「ただいまー」

 努めて明るい声で発してみたものの、彼の反応はなくどうしようという思いがグルグル回る。

「シャワー浴びちゃいますね」

「うん」

 もう、怖すぎるんだけど。この雰囲気じゃ今日はエッチなしかな……。一応準備はしておくけれど。

 シャワーを浴びてリビングへ行くと、彼が無言で部屋を出ていった。どうしよう。もう自分の部屋に行こうかな。何が悪かったのか全く分からないから弁明のしようもない。悶々としているとリビングの扉が開いた。

「あの……」

「何?」

「怒ってます?」

「いや?別に?」

「怒ってるじゃないですか!めちゃくちゃ怖いんですけど」

「ごめん。本当に怒ってるわけじゃないんだ」

「本当ですか?」

「うん、本当に」

「今日はしますか?」

「したいと思ってるけど」

「それならいいんですけど」

 彼が僕のそばに来て手を差し出してきた。

「行こうか」

「はい」

 差し出された手を取って、手を繋いで僕の部屋に向かった。ふたりでベッドの上に向かいあうように座ってそっと口づけを交わす。段々と激しさを増す彼とのキスだけですぐに感情が昂ってくる僕は、彼の上に跨るように座って服を脱がせてもらう。今日はいつもよりも彼の目がギラギラしているような気がする。敏感な乳首に触れられて目を閉じながら声を上げる。

「気持ちいい?」

「んぅ……きもちいい」

「好きだよね、ここ」

 ギュッと摘まれて痺れるような快感に襲われる。「すきぃ。そこだいすき」と彼の目を見つめて甘えるように言うと、彼が目を細めてもっと強い快感を与えてくれた。体のラインをなぞるように触れる彼の手が下へ下りていき僕のおしりに到達した。少し触れられただけで体がビクリと反応する。ゆっくりと焦らすように穴を撫でる彼。早く挿れてほしくて強請ってしまう。

「指挿れて欲しい」

「グショグショだね」

「だってきもちいいから」

「かわいいね、聡真くんは」

「どうしたの?そんな事言わないのに」

「ずっと思ってたよ?かわいいなーって」

「なにそれ……あっん。急に挿れないで」

「もっともっと、かわいい聡真くんが見たい」

「ああっ……やっ待って……」

 彼にしがみつきながら襲い来る快感に身を震わせる。

「ダメ……ダメ……あっ……指だけでイッちゃう」

 頭の中が真っ白になって強い快感が駆け抜けた。また指だけでイかされてしまった。

「俺のまだ挿れてないのに」

「あっあっう……ごめんなさ……」

「いいよ。何回もイかせてあげるから」

 その言葉に期待で体が震える。早く挿れて欲しい。何度も何度も奥まで突いてほしい。勢いよく押し倒されて、彼がゴムを付けるのを待つ。僕の横に手をついた彼と目が合った。ものすごい色気を放っている。

「挿れるよ」

「はい」

 挿れる時、彼は手を握ってくれる。ゆっくりと入ってくる彼のものを感じて吐息を漏らす。キスをしながら浅いところを擦られてそれだけで軽くイッてしまった。

「バックからする?」

「うん、する」

 一度引き抜いてもらって四つん這いになり、また彼が挿れてくれるのを待つ。今度はぐっと奥まで一気に挿れられてシーツに顔を埋めた。

「声聞こえない」

 そう言われて顔を横に向ける。ご褒美だと言わんばかりに突かれてあられもなく喘ぎ声を出す。

「あっあっきもちいい……ああっ」

「俺も気持ちいい」

 彼も気持ちよくなってくれていると嬉しくなる。もっと感じて欲しい。もっともっと。

「聡真くん……それ……ヤバい」

 ガンガン打ち付けられる腰の動きにもう限界寸前だ。ぐっと奥まで入った彼が精液を放ったのを感じた。ぐったりとシーツに沈み込む僕の上に彼が覆いかぶさってきた。ゆっくりと彼のものが僕の中から出ていくと寂しくなってしまう。横に寝転んだ彼が僕の方を見てきた。

「聡真くん」

「なんですか?」

「もう1回いい?」

 いつもは僕からお願いするのに、今日は史弥さんからお願いされた。初めてかもしれない。

「いいですよ。何回でも」

 そう言って笑うと彼も笑った。
 
「あとさ」

「なんですか?」

「月に1回じゃなくて、もう少し増やしたいんだけど」

「別に構いませんよ?史弥さんがいいなら」

「ありがとう」
 
 抱き寄せられて、彼を見つめると優しい眼差しで見つめ返してくれた。彼に求められた。それがとても嬉しい。今までに感じたことのない何とも言えない幸福感に包まれながら口づけを交わした。
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