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真実

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   黒い羊、それは知る人ぞ知る、秘密結社の名前である。構成員の人数不明、目的も不明、しかし世界のどこにでも姿を現し、世界のあらゆることに関わっていると言われている。故に、その「知る人」にこの黒い羊という組織はあらぬ疑いもかけられることが多い。
   例えば、あらゆる事件の黒幕にさせられたり、悪いことが起こればまず第1に疑われるのがこの黒い羊という組織だ。

「と、まぁ組織外部の人の認識はこんな感じかな。」
  
  そうマリデは説明を締めくくる。

「こんな感じで僕たちはいつも肩身の狭い思いをしながらやってきているというわけさ。」

「はぁ…」

  エイダは、なぜこのような説明をされるのか、よくわかっていなかった。

「僕たちの、組織は外部から決して良い評価はされてないと言うのを知っておいて欲しかったのさ、少なくとも君にこれから所属してもらう組織なのだから。」

  エイダはすぐに返事を返す。

「私は気にしません。いくら悪評が立っていても、ドンキホーテやアレン先生のことを私は知っていますから。」

  それを聞きマリデは表情は変えなかったが、嬉しそうな口調で言う。

  「そうかそれは良かった。では本題に入ろうか。」

  マリデは手紙をエイダに渡す。封はまだ開けられていないようだ。

「これは君の母エイミーが君に残した手紙だ。」

  それを聞きエイダは、いても立ってもいられなくなってしまう。

「開けてもいいですか?」

「いいともというか君にしか開けられない。そういう魔法がかかっているんだ。」

  自分にしか開けられない魔法…そうまでして一体母は、何を伝えたかったのだろうか。
  エイダは手紙の封を切った。
  そこには母の、エイミーの文字が残っていた。


  エイダへ

 この手紙を見ているということはどうやら私の師匠は、約束を果たしてくれているようですね。直接伝えられなくてごめんなさい、でも私はこの真実を貴方の前で伝えるのは非常に怖かったのです。この真実を知った時、貴方は決して平和な日常には戻れなくなる。だから、この真実をあなたが知った時、力になってくれる人が近くにいる環境が望ましいと思ったのです。私はもうすぐ死にます。恐らく医者が直せないのは高度な呪いが私にかかっているからでしょう。だからこそ、もう死ぬとわかるからこそ貴方を置いて、この真実だけを残して、逝くのは非常に酷なことだと思ったのです。
  言い訳ばかりしてごめんなさい。ただ貴方にとってそれほど受け入れ難い話、かもしれないと私は懸念しているのです。
  エイダ、貴方はただの人間ではありません。



  エイダは動揺する。母は何を伝えたいのか、よくわからなかったのだ。エイダは再び読み始める




  貴方はホムンクルスと呼ばれる当時の魔術、錬金術の最高峰の技術と古代の遺物の力を用いて生み出された人造人間なのです。貴方を作り出した時は今でも覚えています。私は、私の仲間たちと共に、古代文明の失われた技術を復活させホムンクルスを作るという、実験に参加していました。事の発端は、この手紙を書いている時から20年以上前のことです。
  私たちはグレン卿に、あの大貴族に集められ、ホムンクルス制作を依頼されました。誰もやったことがないホムンクルスの制作、集められた魔法使い、錬金術師たちは胸を躍らせました。
  どうしてとエイダ、貴方は思うかもしれない。単純に私たちは、ホムンクルスという伝説上の存在を作れるということに喜んでいたのです。当時の私たちは若かった。力を示したかった。確かな実力はあっても誰かに評価されるような事はなかったのです。
  自分はやれる。周りが評価してくれないだけ。そんな捻くれた思いを持っていた私は、このホムンクルスの制作実験を自分の力を示す、絶好の機会だと感じたのです。
  恐らく私以外の周りにいた者たちも同じ気持ちだったのでしょう。その実験がどんな結果に繋がるかなど考えもしなかった。
  実験はすぐに始められました。最初の1年は全く上手くいきませんでした。グレン卿から送られた2000年前の遺物を使いホムンクルスを作るという話だったのですが。まず使い方を調べるところから始めなければならなかった。一年間私たちは使い方研究し試行錯誤を繰り返し、足りない部品があれば代用のものを作り、過去の文献を読み漁りました。その結果つぎの2年目では、始めてホムンクルスの制作に成功したのです。成体のホムンクルスが二本の足で立った時の衝撃は凄まじく。私たちは喜び、このホムンクルスは栄光をもたらしてくれると誰もが思っていました。
  しかしグレン卿はこのホムンクルスを失敗作だと断言しました。
  理由は魂に適合できなかったからだそうです。最初のホムンクルスが処分された時、私たちに新しい、指令が下されました。魂に適合できるだけの器を作れと。その魂というのは何かとグレン卿は問われても答えてくれず。再び試行錯誤の繰り返しでした。
  そこで私たちは前回の成体のホムンクルスの失敗点を探ることにしました。私たちの出した結論はたったの数ヶ月の期間で成体にしこの世に生み出した結果、肉体が脆弱になったのではないかというというものでした。
  本当の人間のように何年もかけて成長させれば、もしかしたら、その魂とやらに適合できる人間になれるのかもしれない。私たちは本当に一から子供を作るつもりで、ホムンクルスの制作を開始しました。
  ホムンクルスの作り方は、男女の血を一滴ずつ混ぜたものを古代の遺物に放り込み、錬金術で作られた特殊な水で満たし、魔力のコントロールによって、肉体を作り出す。それがホムンクルスの作り方です。前回のホムンクルスは急いで肉体を急成長させたためか、私たちは情を移すことことがなかったのですが。
  今回子供のように作ろうと決めた。ホムンクルスは時間をかけた分、情を移す。魔法使い、錬金術師たちが多かったのです。私もその一人でした。恥ずかしながら私たちはここで始めて命を作っているのだと思い知らされたのです。そしてあの子達が生まれました。あの可愛らしい寝顔を思い出すたびに胸が苦しくなります。
  生まれたあの子達はすくすくと成長していきました。私たちはその子達の成長に喜び、そして愛していました。本当です。本当なのです。


 ペンが震えている。


 ある日例の魂を入れる実験に成功したあの子達は、次の実験に向かわせられました。私たちも実験の見学に行くように言われました。曰く次の制作の参考にするためにと。
  あの子達のほとんどは殺されました。私たちの目の前で。魂を、覚醒させるための実験と称して虐待され殺されたのです。生き残った子もいましたがその子はすぐにどこかへ連れて行かれました。
   この時からです。私たちがこのホムンクルス制作の仕事に対して不信感を持ち始めたのは。   
  次のホムンクルスを制作を頼まれた時、一部の者は反旗翻しましたが目の前で殺されました。秘密を知ったからにはもう降ろす事などできないそう言われ、私たちは屈服してしまったのです。
  そして私たちはホムンクルスを再び作り始めました。でも、もう限界でした。エイダ、貴方を生み出した直後グレン卿は、言ったのです。例の実験を始めると。
 私は、貴方が魂の適合に成功した時に魂の覚醒を、促す実験を思い出し、恐ろしくなったのです。
 私はその時逃げることに決めました。貴方を生み出すために血を分けた、貴方の本当の母、錬金術師のラヘナと共に魂の適合をしたばかりの貴方を連れ、逃げたのです。逃げる途中、追撃を受け、ラヘナは殺され、私は恐らくその時に呪いを受けたのでしょう。
  命からがら逃げ出した私はラヘナから聞いていた彼女の家へと逃れました。そこで私は、師匠から譲り受けた。人除けの結界を作りそこであなたを育てようと決めたのです。
   これが真実です。こんなことを黙っていてごめんなさい。許してくれとは言いません。ただ、私たちは本当に貴方のことを愛しています。これも確かな真実だったのです。こんな重荷を最後まで背負わせてごめんなさい。願わくば貴方が幸せに過ごせるように、願っています。
                                                           
 母より 


   読み終えたエイダの瞳には涙が浮かんでいた。
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