異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした？！〜

怪しき影

「はぁ…一体どうなってんだ？」

　ドンキホーテはため息をつきながら言う。確かこのファファン村の付近でグレン卿が目撃されたと言う話だった筈だ。それなのに村の住人は、グレン卿の姿を見たことがないと言う。ドンキホーテは頭を悩ませてしまった。

（グレン卿を見たことがないならいいんだが、不審な人物は見たことないかと聞いても、知らないの一辺倒なんだよな。）

　どうしたものか、そう考えているうちにマリデがドンキホーテの姿を見つけ近寄ってくる。

「ドンキホーテ、どうだった？何か手がかりは見つかったかい？」

　マリデの答えにドンキホーテは頭を横に振る。

「そうかい…僕もなんだ。」

　どうやらマリデもダメだった様だ。

「たしかにここの付近でグレン卿を見かけたんだよな？」

「ああ、王の話だとね、村の住人が複数に渡って見たと言う報告があったんだ、例の脅迫を受ける前の騎士団からの情報らしいから間違いないよ。」

「だよなぁ…」

　騎士団はもうすでにこの村にはいない、脅迫を受けた時点で撤退し、別の任務にいってしまったようだ。しかしマリデの当初の予想では騎士団の手を借りずとも、グレン卿の手がかりが見つかると踏んでいた。なにせここの村は多数の目撃情報が報告された村、手がかりがゼロというのは想定外であった。

「そういえばアレン先生とエイダはどこにいったんだ？」

　ドンキホーテがちょうどそのことに気づいた時、ドンキホーテの後ろから声がした。

「わしらもダメじゃったよドンキホーテ。」

「うわ、いたのかよエイダにアレン先生。」

「ごめん驚かすつもりはなかったんだけど…」

　いつのまにかドンキホーテの背後にエイダとアレン先生が来ていた。

「ていうかボスも気づいていたならいってくれよ！」

「ごめんごめん、ついね」

「なんだよついって！」

　ドンキホーテが怒る姿に思わず3人とも笑みを浮かべてしまう。3人が笑うところを見るとドンキホーテはますます拗ねた。


　エイダ達は予想外のグレン卿探しの難航に、エイダ達は、今一度案を立て直すべく、ファファンの村にある宿屋に一同は泊まった。

「それにしても不思議だな。」

　ドンキホーテがベットに座りながらおもむろに口を開く。ここはドンキホーテとマリデが泊まっている部屋、その部屋にはアレン先生とエイダもいた。

「なにが不思議なんじゃドンキホーテ？」

　アレン先生が椅子の上に座りながら聞く。

「だってよう、俺たちは結構な村の人々に話を聞いたんだぜ？それなのに1人もグレン卿を見たことないそれどころか、知らないっていうんだぜ？知らないはおかしいだろう？騎士団まで出向いて調査していたのによう。誰もグレン卿のことを知らないなんておかしいと思わないか？噂が広まっていないなんてのも考えにくいしな。」

「確かにのぅ」とアレン先生も同調する。

「なぜか皆グレン卿のことを忘れてしまっているようじゃ。」

　忘れてしまったというアレン先生の言い方にその場いる誰もが頷いた。とにかくこの村には痕跡がないのだ。グレン卿がいたという痕跡が。

「一体どういうことなんだろう？アレン先生もしかしてグレン卿が何か魔法をかけて皆んなの記憶を操ってるのかな？」

　エイダの推測に、アレン先生は否定する。

「それも考えていたんじゃがのうどうにも、それはないみたいなんじゃ、ワシの目から見ても魔法にかかっているような感じはしなかったぞ。」

「僕もだ」とマリデは話す。

「ここの住人は魔術にかかっているとは思えない。」

「じゃあ本当に、皆んなグレン卿のことを知らないってこと…？」

　エイダは自分で言っていてそんなことはあり得ないことだと悟っていた。ドンキホーテの言う通り知らないなんてあり得ない。しかしあり得ないことが今現に起こっている。それも魔法の仕業ではないと言う。

（どう言うことなのだろう）

　わからないまま時間が過ぎ、結局エイダ達の結論はこう固まった。「情報を持っている人物が見つかるまで探し続けよう」と、一同は再び宿から出て情報を探し始めたのだ。


　そして、結局なんの進展も得られないままエイダ達は夜を迎えてしまう。

「はぁダメか…」

　ドンキホーテは再びため息をつき宿屋に戻っていた。

（どうしたもんかねーこのままじゃグレン卿に近づくどころか遠のいちまう。）

　そんなことを思っていると後からエイダと、アレン先生、そしてマリデも戻ってきていた。皆の顔には成果なしの文字が浮かんでいるようだった。

「皆んな、ダメだったか…」

　ドンキホーテの言葉に3人は頷く。

「私達は成果なしだよ。」

　とエイダが言う。

「ハハッ僕もだよ。」

　もう笑うしかないと言うようにマリデは笑う。エイダ達一同は結局この日は調査を諦め宿屋に泊まることにした。

「明日こそ手がかりが見つかるかな？」

　エイダはベットに包まれながらそう言った。部屋を共にしていたアレン先生は言う。

「そうじゃなぁ。もしかしたら難しいかもしれんのぅ。」

　アレン先生の発言にエイダは「そうだよね」という。

「村の人たちが知らないんじゃどうしようもないもの。」

　しかし、それでもファファンの村の人々に頼るしかない。今のところ唯一のグレン卿の情報源はここファファン村のなのだから。



　エイダ達が寝静まるころ。エイダとアレン先生の部屋に怪しい複数の影が忍び寄る。その影の主人の1人ははなにやら魔法を唱え、鍵を静かに開けると部屋に忍び込んだ。そして隠し持っていた刃を逆手に持つとエイダの寝ているベットの近くまで行き、振り下ろした。