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憑依

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 鎌を構えた、アンを前にエイダは圧倒される。アンから発せられる殺気は先ほどまで泣いていてた少女とは、思えないほどだ。
 このまま呆けていてはやられる、エイダはなんとか呪文を詠唱し、再び捕縛の呪文を唱える。

「ひ、光の鎖よ!」

 光の鎖が蛇のように、アンに襲いかかる、だがアンは手に持っている鎌でその鎖を切り裂いてしまった。

「そんな…!」
「無駄よ?まだわからないのかしら?」

 アンは鎌をエイダに向ける。そして挑発的な笑みを浮かべた、今度は自分の番とでも言いたげのように。
 アンはその笑みを浮かべたまま、弾丸のように、エイダの元へと向かうと、左手で掌底をエイダにくらわせた。

「かはっ!」

 肺の中の空気が外に吐き出させられる、それと同時に強烈な痛みがエイダを襲った、そのままエイダの体は宙に浮き、背中を地につける。
 アンは地面に倒れたアンの胸を踏みつけ、言う

「これで捕獲完了ね」


 ドンキホーテは重たい体を起こした、先ほどの大技を使ったせいで体力過剰に消費してしまった、これでは動けない。

「クッソやっぱりパラディンの聖剣術なんて使うもんじゃねぇな…」

 そうぼやきながらあたりを見回すエイダは、アレン先生はどこだと、かといって見つけたところでしばらく動けそうもない。
 先ほどのルジェルーノの叫びの衝撃波をもろに食らってしまったため、大技の反動と合わせてダメージの蓄積により動けないのだ。
 そんな、ドンキホーテのそばに小さい人影が迫り来ていた。

「誰だ!」

 ドンキホーテはその人影に気がつき、振り向く。

「私よ!私!」

 そこには妖精のメームがいた。

「お前無事だったのか!?」

 ドンキホーテは驚き、思わず大声をあげた。妖精メームは当初の作戦で、エイダを安全な場所に逃がす、先導役を受け持っていた妖精である。
 ルジェルーノの叫び声の衝撃波とともにどこかへ行っていた筈なのだが。

「どこにいってたんだ?お前?」
「しょうがないじゃない!あのクラゲのお化けの衝撃波で吹き飛ばされていたのよ!それより見てあそこ!エイダちゃんじゃない?!」

 メームの指差す先にはエイダがうずくまっているのがドンキホーテにも見て取れた。

「本当だ…!」

 そしてそのエイダに近づく、1人の少女の姿も確認できた。アンである。

「まずいエイダ!」

 ふらふらとドンキホーテは立ち上がりエイダの元に向かおうとする。その時だメームが呟く

「待って!そんな…なにあれ…」

 メームはアンを見て思わずそう呟いた。まるでありえないとでも言いたげなその表情のままメームはドンキホーテの前に立ちふさがる。

「なんだよ、メームどいてくれ!エイダが」
「今のままいっても勝ち目ないよ!見てあの女の子の魂!」
「いや見えねえよ!」

 メームは「そっかめんどくさいわね」と言いつつこう続けた。

「強靭な魂が二つも憑依してるの!」



 アンはエイダを踏みつけたまま、呪文を詠唱し始める。
 先ほどエイダの使った捕縛の魔法と同じ、魔法だ。

「光の鎖よ…」

 そう呟くとエイダの体に鎖が絡みつく、きつく締め付けられエイダは呻き声を上げた。

「エイダ、さあ、来てもらうわよ」
「いや…!」
「残念、あなたに拒否権はないの」

 その時だ、風が吹き荒れる、ここは地下だと言うのに不自然な風の流れを感じたアンは思う。

 ――魔法ね

 すると風は塊となりカマイタチを発生させながらアンへとぶつかってきた、その速さに思わずアンは対応できず、吹き飛ばされてしまう。

「チッ!ぬかったわ…」

 吹き荒れる風の隙間から、1匹の白猫が飛び込んでくる

「エイダ、大丈夫か!怪我はないかの!?」

 アレン先生は、エイダの光の鎖を風の魔法で断ち切る。エイダの身は自由となり、彼女は起き上がった。

「だ、大丈夫だよアレン先生…」
「よしここから、とにかく離れるぞエイダ!」

 そう言った時だった、突如としてエイダの身が見えない糸にでも引っ張られるかのように、浮かび上がり移動していく。
 エイダの体は、吸い込まれるようにアンの元へと連れていかれついに、アンの左腕にエイダの首は捕われてしまう。
 息ができずエイダはもがくが、腕は振りほどけない。

「言ったでしょう?あなたには来てもらう、なんとしてでも」
「まつのじや!行かせんぞ!」

 アレン先生は今度は、火球を複数、自身の体の周りに出現させる。エイダを巻き込まぬよう、威力を最小限に抑えた、その火球を今まさに放とうとした。
 しかし、アンのとった行動から、アレン先生の火球は空中にとどまったままとなってしまう。
 アレン先生は忌々しく言う。

「きさま…!」

 アンはエイダを盾にしたのだ。

「甘いわね、魔女アレン…ルジェルーノ!」

 クラゲの化け物は、高らかに歌を歌う、歌は衝撃波となり、アレン先生を彼方へと飛ばした。

「さあ…行きましょうエイダ…」

 少女は怪しく囁く、先ほどまでの泣いていた少女は一体どこに行ったのだろうか、哀しんでいた少女は、いやおそらく哀しんでいたからこそ今それを、その感情を力に変えているのだ。
 死んでいった者たちの意思を力に変えているのだ。エイダは直感でそう感じた。故にここまで執念深く、恐ろしいのだ。
 その圧倒的な想いの差にエイダは思わず、ひるみそうになってしまう。
 だがここで、諦めればどうなる?ここでグレン卿の元に黙って連れていかれてしまえば、どうなるか分かったものではない。
 グレン卿の思い通りになる人生など…

 ――死んだも同じそうでしょう?お姉ちゃん。

 エイダの背中が黄金に輝いた。
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