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カエルになった行商人
6.預かり屋さんのヒミツ
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預かり屋さんに響き渡る悲鳴を聞いて、メイプルとシロップはあわてふためきながら地下室へと急ぎました。悲鳴は二人分。誰と誰の悲鳴なのか、メイプルとシロップにはもう分かっていました。
かけつけてみれば、そこにはお腹を出してすっかりのびてしまったカエルが一匹。そして、そのカエルを心配そうにのぞき込んでいるモンスターが一匹いました。メイプルはため息をつくと、そのモンスターにそっと声をかけました。
「どっちも怪我はない?」
すると、そのモンスターはメイプルを見上げ、背中に生えた白いコウモリのような翼と太い尻尾をバサバサとゆらしながら、男の子とも女の子ともつかない無邪気な声で答えました。
「ボクは大丈夫! だけど……カエルさん、気絶しちゃったみたい」
しゅんとなるそのモンスターの声に、ポポはびくりと動きました。
どうやら気が付いたようです。ぴょんと跳ね起きると、彼はわなわな震えながらそのモンスターを見つめました。そして両手で頭を抱えながらなげくように言ったのです。
「ど、ど、ドラゴンの子どもじゃないか! なんでこんなところに!」
取り乱すポポに対し、当のドラゴンの子どもは首をかしげました。
かわりにポポをなだめたのは、シロップでした。
「お願いだから落ち着いてちょうだい」
「落ち着いてられるかって。だって、ドラゴンの子だぞ。恐ろしくも勇ましく誇り高いあのドラゴンの……。あのな、このオイラだってさすがに知っているぞ。ドラゴンってのは、確かこの国じゃ、カエル以上にご法度──」
と、全部言い切る前に、シロップはポポの口を封じてしまいました。
「あのね、この子はフェンネルって名前があるの。わたしとメイプルの大事な家族であって、恐ろしいドラゴンなんかじゃないんだから」
そんなシロップとポポのやり取りが面白かったのでしょう。フェンネルは無邪気に笑い出し、ワニのような太い尻尾と背中の翼を揺らしました。
ウロコは真っ白でしたので、その様子はまるで天使か何かのようです。
そうです。フェンネルはまだまだ小さな子どもなので、ポポが取り乱している理由も、シロップが必死になだめようとしている理由も、ちゃんと分からなかったのです。
そんなフェンネルを横目に、今度はメイプルが落ち着いた声で説明しました。
「フェンネルはね、数年前に卵の状態でわたし達のところに来たんだよ。このお店の下には地下水道があるんだけど、そこにどこからか流れ着いてきたのがこの子の入った卵だったの。中で動いているみたいだったから、すぐに乾かして温めたら無事にかえって、それからずっとここにいるの」
深刻な顔で説明をするメイプルの言葉に、ポポはふと冷静になりました。
そして、思い出したのです。光の国で少し前にあった出来事のことを。
ポポが言いかけた通り、光の国においてドラゴンは絶対に認められないモンスターでした。非常に危険で、凶悪で、悪魔のように恐ろしいからという理由で、もう何百年もの間、関わる事を許されてこなかったのです。
というのも、ドラゴン達は頭がよく、火の国という自分たちの国を持っていたのですが、この日の国が昔から闇の国と友好関係にあり、時代によっては光の国と対立することが多かったためです。
だから、ドラゴンは光の国の人達から恐れられ、厳しく取り締まられていたのです。そして、それは光の国と闇の国が良好な関係にある時代ですら変わりませんでした。
みんな、怖かったのです。絶大な力を持つドラゴンという存在が。
だから、でしょう。
光の国では定期的にドラゴンの卵が処分されたというニュースが、割られた卵の写真と共に流れました。
そのことをポポも見聞きしてきたので、覚えていたのです。
「ああ……そうか……そういうことか。ここにいることが分かっちまったら、この子も没収された卵たちみたいに──」
そうです。これこそが、メイプルとシロップのヒミツでした。
ポポがその先の言葉を口にする前に、シロップがそっと耳打ちをしました。
「どうか、言葉を選んで。フェンネルはまだ子どもなんだから」
心から不安がっているシロップの言葉に、ポポは完全に冷静さを取り戻しました。
「……なるほど」
そして、小さなカエルの手で腕を組むと、うんと考えた末に彼は言いました。
「つまり、この子もオイラみたいに居場所がないってことか」
メイプルとシロップが力なく頷く横で、フェンネルはどこか明るさも感じる声で答えるように言いました。
「そうなの。でも、ボク、全然寂しくないよ。だって、ここにいたら、メイプルとシロップが優しくしてくれるから。でも、やっぱり家族には会ってみたい。だから、ここで調べ物をしながら本当のお家を探しているの。見つかるまで、ここにいさせてもらっているんだよ」
にこにこしながら説明するフェンネルの姿はあまりに健気で、ポポは気づけば大粒の涙を流してしまっていました。
「ああ、泣かせるじゃないか。君たちは、お国の決まりよりもこの子の命を取ったってわけだ。なるほどな……。オイラ、闇の国の人間だからさ、こうした人情話には弱いんだ。……気に入った。この事は絶対に話さない。パームやシュガーにだって、君たちの許可なくしゃべったりしないと約束する」
「ほ、本当に?」
メイプルが思わず訊ねると、ポポはしっかりと頷きました。
「ああ、だって、兵隊さん達のお耳に入ったら大変だろう。オイラのせいでバレちまって、この子に何かあったりでもしたら……考えるだけで心臓が止まっちまいそうだ」
そして、ゲコゲコ鳴いてから、ポポはメイプル達に言いました。
「
とにかく、オイラ、君たちの事を完全に理解したよ。どうしてオイラみたいなのを受け入れてくれたのかも、シロップの嬢ちゃんが不安そうにしていた事も含めてね。だから、安心しておくれ。オイラはこの店の味方だ。何にも染まらぬ闇に誓って、味方であり続けることを約束するよ」
心強いポポの言葉に、メイプルもシロップもホッとしました。そして、喜ばしい事に、ポポのこの誓いは本物でした。
かけつけてみれば、そこにはお腹を出してすっかりのびてしまったカエルが一匹。そして、そのカエルを心配そうにのぞき込んでいるモンスターが一匹いました。メイプルはため息をつくと、そのモンスターにそっと声をかけました。
「どっちも怪我はない?」
すると、そのモンスターはメイプルを見上げ、背中に生えた白いコウモリのような翼と太い尻尾をバサバサとゆらしながら、男の子とも女の子ともつかない無邪気な声で答えました。
「ボクは大丈夫! だけど……カエルさん、気絶しちゃったみたい」
しゅんとなるそのモンスターの声に、ポポはびくりと動きました。
どうやら気が付いたようです。ぴょんと跳ね起きると、彼はわなわな震えながらそのモンスターを見つめました。そして両手で頭を抱えながらなげくように言ったのです。
「ど、ど、ドラゴンの子どもじゃないか! なんでこんなところに!」
取り乱すポポに対し、当のドラゴンの子どもは首をかしげました。
かわりにポポをなだめたのは、シロップでした。
「お願いだから落ち着いてちょうだい」
「落ち着いてられるかって。だって、ドラゴンの子だぞ。恐ろしくも勇ましく誇り高いあのドラゴンの……。あのな、このオイラだってさすがに知っているぞ。ドラゴンってのは、確かこの国じゃ、カエル以上にご法度──」
と、全部言い切る前に、シロップはポポの口を封じてしまいました。
「あのね、この子はフェンネルって名前があるの。わたしとメイプルの大事な家族であって、恐ろしいドラゴンなんかじゃないんだから」
そんなシロップとポポのやり取りが面白かったのでしょう。フェンネルは無邪気に笑い出し、ワニのような太い尻尾と背中の翼を揺らしました。
ウロコは真っ白でしたので、その様子はまるで天使か何かのようです。
そうです。フェンネルはまだまだ小さな子どもなので、ポポが取り乱している理由も、シロップが必死になだめようとしている理由も、ちゃんと分からなかったのです。
そんなフェンネルを横目に、今度はメイプルが落ち着いた声で説明しました。
「フェンネルはね、数年前に卵の状態でわたし達のところに来たんだよ。このお店の下には地下水道があるんだけど、そこにどこからか流れ着いてきたのがこの子の入った卵だったの。中で動いているみたいだったから、すぐに乾かして温めたら無事にかえって、それからずっとここにいるの」
深刻な顔で説明をするメイプルの言葉に、ポポはふと冷静になりました。
そして、思い出したのです。光の国で少し前にあった出来事のことを。
ポポが言いかけた通り、光の国においてドラゴンは絶対に認められないモンスターでした。非常に危険で、凶悪で、悪魔のように恐ろしいからという理由で、もう何百年もの間、関わる事を許されてこなかったのです。
というのも、ドラゴン達は頭がよく、火の国という自分たちの国を持っていたのですが、この日の国が昔から闇の国と友好関係にあり、時代によっては光の国と対立することが多かったためです。
だから、ドラゴンは光の国の人達から恐れられ、厳しく取り締まられていたのです。そして、それは光の国と闇の国が良好な関係にある時代ですら変わりませんでした。
みんな、怖かったのです。絶大な力を持つドラゴンという存在が。
だから、でしょう。
光の国では定期的にドラゴンの卵が処分されたというニュースが、割られた卵の写真と共に流れました。
そのことをポポも見聞きしてきたので、覚えていたのです。
「ああ……そうか……そういうことか。ここにいることが分かっちまったら、この子も没収された卵たちみたいに──」
そうです。これこそが、メイプルとシロップのヒミツでした。
ポポがその先の言葉を口にする前に、シロップがそっと耳打ちをしました。
「どうか、言葉を選んで。フェンネルはまだ子どもなんだから」
心から不安がっているシロップの言葉に、ポポは完全に冷静さを取り戻しました。
「……なるほど」
そして、小さなカエルの手で腕を組むと、うんと考えた末に彼は言いました。
「つまり、この子もオイラみたいに居場所がないってことか」
メイプルとシロップが力なく頷く横で、フェンネルはどこか明るさも感じる声で答えるように言いました。
「そうなの。でも、ボク、全然寂しくないよ。だって、ここにいたら、メイプルとシロップが優しくしてくれるから。でも、やっぱり家族には会ってみたい。だから、ここで調べ物をしながら本当のお家を探しているの。見つかるまで、ここにいさせてもらっているんだよ」
にこにこしながら説明するフェンネルの姿はあまりに健気で、ポポは気づけば大粒の涙を流してしまっていました。
「ああ、泣かせるじゃないか。君たちは、お国の決まりよりもこの子の命を取ったってわけだ。なるほどな……。オイラ、闇の国の人間だからさ、こうした人情話には弱いんだ。……気に入った。この事は絶対に話さない。パームやシュガーにだって、君たちの許可なくしゃべったりしないと約束する」
「ほ、本当に?」
メイプルが思わず訊ねると、ポポはしっかりと頷きました。
「ああ、だって、兵隊さん達のお耳に入ったら大変だろう。オイラのせいでバレちまって、この子に何かあったりでもしたら……考えるだけで心臓が止まっちまいそうだ」
そして、ゲコゲコ鳴いてから、ポポはメイプル達に言いました。
「
とにかく、オイラ、君たちの事を完全に理解したよ。どうしてオイラみたいなのを受け入れてくれたのかも、シロップの嬢ちゃんが不安そうにしていた事も含めてね。だから、安心しておくれ。オイラはこの店の味方だ。何にも染まらぬ闇に誓って、味方であり続けることを約束するよ」
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