モンスターの預かり屋さん

ねこじゃ・じぇねこ

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カエルになった行商人

8.人間に戻るその日まで

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 ポポが預かり屋さんに来て一週間がちました。
 すっかり仕事になれた彼のもとを恋人こいびとのパームがシュガーを連れてたずねてきました。ポポがすっかり預かり屋さん見習いとして様になっている事を知ると、パームはホッとしました。

「本当にありがとうございます」

 そして、パームは宝石屋ほうせきやさんをいとなみながら耳にした、お国の事情じじょうについて話しました。

「どうやら光の国の王さまと闇の国の女王さまの話し合いは難航なんこうしているみたいなんです。いつもなら、間に四国の王さまたちが入って、それぞれがゆずり合う結果につながるんですが、今回は四国の王さまたちの意見も対立しているみたいで……」

 ちなみに、光の王さまと闇の女王さまの意見が対立したのは、両国のちょうど間あたりに存在そんざいする聖地せいちにある資源しげんをめぐるものでした。
 そこにあるのは、不思議な力をめた魔石ませきたちで、有効活用ゆうこうかつようすればたくさんの人の暮らしが豊かになるのではないかと期待されていました。
 そのため、かつては六か国の王さまたちが平等に分け合って使う事を決めていたのですが、ある時代から魔石をめぐる考え方がそれぞれの国で変わっていき、おたがいに約束をやぶるようになってしまい、光の国と闇の国の大きな戦争へとつながってしまったのです。
 お互いにひどく傷ついた果てに、戦いがどうにか終わると、六か国は再び話し合って、この地の魔石はだれも使わないことが約束されました。
 そのまましばらく平和な時が経っていたのですが、ここ最近、またしても魔石の利用をめぐる話が持ち上がり始めました。光の王さまが、あの魔石の研究をしたいと、六か国の会議で発言したのがきっかけでした。

「光の王さまにも何か理由があったんだったよな?」

 ポポがそう言うと、シュガーがうなずきました。

「あの魔石はね、不治の病と信じられたある病気の治療ちりょうに役立つんじゃないかって言われ始めているの。今も病気で苦しんでいる人たちをぜひとも助けたいっていう意見だったのだけれど……」

 しかし、闇の国の女王さまはそれに反対しました。
 というのも、光の王さまの計画の中に、魔石をけずらせてほしいという要望が含まれていたからです。闇の国では昔から、魔石をけずればわざわいが起こるという言い伝えがありました。それを不安がる声も大きかったので、闇の女王さまは光の王さまの願いに理解りかいしめしつつも反対したのです。
 同様の言い伝えは火の国や水の国にもあったので、火の国の王さまであるタラゴンや、水の国をすべる人魚の女王さまも反対しました。
 それに対し、風の国をすべる妖精の女王さまや、地の国をすべるライオンの王さまは、病気で苦しむ人をすくいたいという光の王さまを強く支持し、なぜ、言い伝えなんかを優先してこんな大事な計画に反対するのかと強い言葉で批判ひはんしました。これが、話し合いをこじらせる原因げんいんとなったようです。

「ふうむ、人情にんじょうを重んじるならば、オイラは光の王さまの意見に賛成なんだが、しかし、言い伝えっていうのも無視はできないからなぁ」

 ポポはしばし考え込んでから、ケロケロと鳴いてから言いました。

「何にせよ、しばらくは不穏ふおんな風がきそうだ。まいったね。オイラが元の姿すがたもどれるころに、もっとひどい状況じょうきょうになってないといいのだけれど」
「今は六か国の王さまたちを信じましょう」

 パームは言いました。

「大丈夫。きっと未来は明るいわ。光の王さまだって、誰かを苦しめたくてケンカをしているわけじゃないはずだから。それに……あなただってきっと元に戻れるわ。いいえ、元に戻れなくたっていいの。ねえ、ポポ。平和が戻ったら、すぐに結婚式けっこんしきをあげましょう」

 その言葉に、ポポは目を丸くしました。シュガーもまたじっと彼を見つめています。その眼差まなざしに試されているものがあると感じたポポでしたが、小さなカエルの手でそっとパームの指先をにぎると、彼はカエルながら真面目な表情で答えたのでした。

「いいや、パーム。もしも、待ってくれるというのならば、オイラが人間の姿になるまでどうか待っておくれ。結婚式は一度きりだ。もちろん、何度やったっていいが、最初の一回っていうのは特別だ。その一回を、オイラはやっぱり人間の姿で迎えたいんだ」

 ポポの言葉に、パームはおだやかな表情でうなずきました。

「……そう。分かった。じゃあ、待っているって約束する。本当の姿に戻ったあなたと一緒いっしょに、未来をちかい合いましょう」

 恋人たちの甘いやり取りを、メイプルとシロップは、シュガーのように静かに見守っていました。愛し合う二人は、カエルと人間という姿であっても美しく、それだけに切なくもありました。
 やがて、パームとシュガーが帰ってしまうと、ポポは笑顔で見送りながらも、少しだけさみしそうな顔でメイプルたちに言いました。

「申し訳ないね」

 シロップはすかさずたずねかえしました。

「どうしてあやまるのよ」
「いやね、このお店だってただでさえ大変だっていうのに、思っていた以上に長く世話になりそうな気がしてしまって」

 ポポはそう言うと、たたまれなくなってうつむきました。パームたちと会っている間はそれでも希望を持とうと心を強くたもてたのですが、彼女たちがいなくなってしまうと、心細さが勝ってしまったのです。しかし、そんな彼にシロップは言いました。

「そんなの今更いまさらよ。もうすでに、あなたをあてにしているわたしがいるんだから」
「し、シロップ?」

 思わぬ言葉にポポはおどろきましたが、メイプルもまた彼に言いました。

「そうだよ、ポポ。頑張がんばり屋さんのおかげで、お仕事が楽になったって、いつも思っているの。最近はシロップもポポのことをかげでほめているんだよ」
「もう、メイプルったら。どうしてバラしちゃうのよ」

 恥ずかしそうにシロップはそう言いましたが、ポポはカエルの目をうるませ、やがては大粒おおつぶなみだを流し始めました。

「そうだったのか。ああ、よかった。オイラ、みんなのお役に立てているんだね。よかった、よかった……」

 ケロケロ泣き始める彼を前に、シロップはすっかりあきれた様子で頭をかかえました。

「ほうら、こうなっちゃう。もう、泣かないでよ」
「泣くなって言われたって……ケロケロ……オイラ、こういう性質たちだからさ……ケロケロ」

 ぐすぐすと鼻をすすり、涙を小さな手でき取ると、ポポは二人に言いました。

「とにかく、オイラ、これからもがんばる。ああ、これまで以上にがんばるとも。だから、どうかよろしくたのむよ」

 ぺこりとお辞儀じぎをする彼に、メイプルとシロップもまたそれぞれお辞儀を返しました。

「こちらこそ、よろしくね」
「頼りにしているわよ、頑張り屋さん」

 そんな二人のとても温かな反応を受け、ポポはまたしてもカエルの目から大粒の涙を流したのでした。
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