モンスターの預かり屋さん

ねこじゃ・じぇねこ

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居場所のないモンスターたち

4.メイプルの信じる道

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 フェンネルの家族の事が分かった翌日よくじつ、預かり屋さんに届いた新聞を読んだメイプルたちは、そのまま騒然そうぜんとしました。
 そこにはおそろしい記事がいくつも書かれていたのです。

『有事の際に想定される危険きけん猛獣もうじゅうやモンスターの管理かんりは大丈夫?』
『モンスターの一般飼育いっぱんしいくについて議論白熱ぎろんはくねつ。有害と無害をわける明確めいかく基準きじゅんは何か』
『無害と信じたモンスターが? 過去に国内で起こったモンスター事故をふりかえる』
『そのモンスターはどこからきたの? 多くが闇の国出身であるという事実』

 いずれもその中身は、メイプルが不安になるようなものでした。
 記事からはっきりと伝わってくることは、どうやら今の光の国では多くのモンスターたちがその存在すら歓迎かんげいされていないということでした。

「でもどうして……いつの間に……?」

 くらくらとめまいを感じながら新聞をめくっていくと、ある記事が見つかりました。
 それは、戦地にて闇の国側の部隊がきちんと訓練をした兵隊モンスターたちを投入し、たいへんな光の国側の兵隊たちが被害ひがいをうけたという内容でした。

「なるほど、このせいでモンスターが危険視され始めているのね」

 シロップは冷静にそう言いながら、記事をながめつづけました。そして、ある場所に目を止めると、メイプルの肩に止まりながら腕を組みました。

「困ったわね、メイプル。この記事を見てちょうだい」

 シロップがしめしたそこには、モンスターをペットとして飼育することへの疑問の声が紹介しょうかいされていました。
 その一つ一つに目を通していくうちに、メイプルは不安でいっぱいになりました。これは、おそろしい時代が来てしまうかもしれない。
 いやな予感が頭をよぎったのです。
 重苦しい空気は太陽が高く上ったあとも続きました。
 ポポは預かり屋さんの裏方のお仕事を終えると、いつものように地下倉庫のフェンネルのそばで、新聞を静かに読みました。
 そこに何が書かれてあるのかはメイプルたちから事前に聞いていました。その上で、一つ一つ、丁寧に文字を追いながら、色々なことを考えたのです。

「なあ、フェンネル。輝く心っていうのは一体何なのだろうな?」
「うーん、分からない。でも、良心みたいなものって考えていたかも」
「ああ、オイラも同じだ。しかし、分からなくなってくるよ。良心っていうのは何なのだろうね」

 そして、ぱたりと新聞を閉じてしまうと、しみじみとした表情で言いました。

「何にせよ、今は目の前の仕事を片付けるしかあるまい」

 それから数時間後、預かり屋さんのお仕事が終わると、メイプルはシロップと共に地下倉庫にやってきました。そして、そこで休んでいたフェンネルとポポに言いました。

「二人に大事なお話があるの」

 深刻しんこくなその表情に、ポポはそっと覚悟かくごを決めました。
 何をメイプルが語るにせよ、受け入れるつもりでいたのです。
 フェンネルの方は少し不安でした。ちょっとずつ大人になりゆくフェンネルもまた、今の状況で自分がここにいることのまずさについてよく分かっていたからです。
 そんなふたりを前に、メイプルは語り始めました。

「思っていた以上に町の空気が悪いみたい。カイヤさんから心配する電話がきたの。どうやら、モンスターを手放すべきか迷っている知り合いが何人かいたらしくて……。そんなの可哀想よと言ったそうなのだけれど、もしかしたら、そんな人達が来ていないかって……。それで実はね、閉店間際に、その子がやってきたの」

 そう言ってメイプルが指さしたのは、ガラスケースの虫かごに入った半透明のチョウでした。ビードロ蝶々ちょうちょうという名前で、その名の通りビードロをさかさまにしたような体にステンドグラスのようなチョウの羽が生えている妖精の一種です。妖精といってもシロップたちのように言葉は話さず、光の国でもよく飼育される無害なモンスターでもあります。
 そのビードロ蝶々を持ってきたのは小さな女の子でした。これまで大事に飼っていたのですが、お父さんとお母さんに捨ててきなさいと言われてしまったというのです。どうすればいいか分からないと泣きながらうったえる彼女を前に、メイプルは結局、タダで引き取ったのでした。

「これはきっと始まりにすぎないと思うの」

 メイプルは言いました。

「みんな、これが正しいって思って、モンスターたちを手放してしまうかもしれない。光の国の人らしく輝く心にしたがって。だから、わたし、決めたの」

 そして、キリッとした表情を浮かべ、メイプルは宣言しました。

「わたし、これからも預かり屋さんをちゃんと続ける。フェンネルも、ポポも、ハイビスカスもラベンダーも手まりネコたちもビードロ蝶々も……それに、いずれこの預かり屋さんに来るかもしれない子たちもみんな、安心して過ごせるような居場所を守り続けるの。もしかしたら、ここに居続けられなくなる可能性だってある。光の国に居続けられないかもしれない。だけど、わたし、絶対ぜったいにあきらめないから。だから、わたしを信じて」

 強い口調でうったえる彼女を前に、ポポとフェンネルはぼうぜんとしていました。シロップはというと、少しあきれつつも分かっていたといわんばかりの表情です。
 しばしの沈黙ちんもくの後、ポポはぐすっと鼻をすすりました。フェンネルはそんなポポの様子を見つつ、ほっとしたような眼差まなざしをメイプルに向けました。

「ありがとう、メイプル。ボクもできることはする。調べ物くらいかもしれないけれど、メイプルの役に立ちたいんだ」

 無邪気むじゃきながらもどこか大人びたフェンネルのその表情に、メイプルはそっと笑みを返しました。

 さて、メイプルの役に立ちたがったのはフェンネルだけではありません。もちろん、ポポもそうでしたし、シロップもそうでした。ハイビスカスも、ラベンダーも、自分にできることを待ち望んでいました。
 それだけではありません。ポポの恋人であるパームは、お仕事をしながらつねに世間でながれるウワサ話を聞き逃さず、何か新しい情報があればすぐにポポに伝えました。
 カイヤも同じです。パームと同じく顔の広い彼女もまた、気になる事があれば預かり屋さんに電話をしてくれました。そして、心強かったのは、パームとカイヤの話を聞いたデーツの申し出でした。ある日、いつものようにハイビスカスの顔を見に来た彼は、こっそりとメイプルたちに言いました。

「前に国外の別荘べっそうの話をしたのは覚えているかい? 実はね、あそこに隣接りんせつする広大な土地を今、工事しているんだ。ここと同じくらい──いやひょっとしたらもっと大きな施設ができる予定でね。そこならば、ね、ここよりも安心してハイビスカスを過ごさせてやれそうなんだ。……それだけじゃなく、地下のドラゴン君もね」

 その言葉にメイプルとシロップは目を丸くしてしまいました。フェンネルのことはまだ言っていないはずだったのですから。しかし、そんな二人の反応を、デーツとハニーはくすりと笑いつつ言いました。

「実はね、私やハニーも不死鳥の言語を少しだけ勉強したんだ。そしたら、ある日、ハイビスカスが教えてくれたんだ。深く聞くのは失礼かもしれないとだまっていたんだが、事情があるのでしょう。この先困るような事があった時は、ぜひ力にならせてほしい」

 デーツの言葉にメイプルはほっとしました。そこで、その時はぜひとお返事をしたのです。
 けれど、デーツのこの申し出が、思っていた以上にずっと早く活かされることになるなんて、この時はメイプルはもちろん、デーツだって気づきませんでした。
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