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十九話『お願いいたしますアンジェリーナ様』

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 アンジェリーナ様が仲裁に入ったことで、一見高位貴族のご令嬢からの嫌がらせは減ったように思えた。

 正直に言ってアゼリア子爵家で使用人同然の生活を余儀なくされてきたせいもあり、私の礼儀作法は一般的な中位貴族家の令嬢としての振る舞いに欠ける。

 今回は幸運に恵まれレオナルド殿下の侍女見習いになることができたが、今後もそと地位を所持し続けられる保証などどこにもないのだ。

 今は学園の中で限られた者たちしか居らずたまたまレオナルド殿下に侍女見習いとして拾われただけだ。

 今年で最終学年となられたレオナルド殿下は学園を卒業すれば私など足元にも及ばないような優秀な侍女や侍従がいる王城へと戻り王太子として優秀な王家の妃にふさわしい正妻を娶ることになるだろう。

 身分違いな私は当然正妻などに成れるわけもなく、だからといってやっと再会できたレオナルド殿下と離れるなど言語道断。

 そこで私が取った行動といえば……

「アンジェリーナ様! 私に王族の侍女が勤められるように立ち居振る舞いや必要な知識を教えて下さいませんか!?」

 これである……

「突然どうなさったの? まぁ立ち居振る舞いや知識を教えるのは構いませんけれど……私もまだまだ学ばなければならないことが多い身、きちんとした方に習ったほうがいいと思うのですけれど」

「いえ、アンジェリーナ様は長年レオンハルト殿下に相応しく有るべく研鑚を積まれてきた方です、もしお許しいただけるのであればアンジェリーナ様が教育を受けられる時に部屋の片隅に置いて頂くだけでもかまいません!」

 必死に頭を下げながら言い募る。

 可能な限り高位貴族の御令嬢方を観察して自学してきたが、所詮は付け焼き刃…基礎がわからない私が応用を学ぶなどままごとにしかならないのだ。

 今後王太子であるレオナルド殿下に忠誠を捧げたいこと、末端でもいいから彼の側で仕えられる宮仕えになりたいことをアンジェリーナ様に切々と訴え、宮仕えにふさわしい立ち居振舞いを学ばせて貰えることになった。

「ぐわぁ、疲れた~前世でもこんなに必死に勉強したことなかったのに」

 毎朝と夕方のレオナルド殿下の侍女見習いと普通の学園での授業、夜間でのアンジェリーナ様のレッスンと自ら望んで今の状況を作り出しているけれど、自室へ戻ると力尽きる毎日だ。

 社畜時代も真っ青なルーティーンをこなしていたある日……事件はおきた。

「あなた、ユリアーゼ嬢よね?」

 受けるべき授業を全て消化し、レオナルド殿下が戻られる前に、部屋の掃除やベッドメイキングなどをこなすべく男子寮へと向かう途中、五名の女子生徒が通路を塞ぐようにして並んでいた。

 私が着けている緋色のリボンとは違う緑色のリボンがブラウスの首元に巻かれているため、二学年上の先輩なのだろう。

 レオナルド殿下も緑色のネクタイを使用している。

 よく見れば青いリボンの生徒も居るようだ。

 今年最終学年となる三年生が緑色、二年が青色、そして一年生が緋色なので目の前にいらっしゃるのは全て先輩方だ。

「はい、ユリアーゼ・アゼリアと申します」

 聞かれたためとりあえず答えると、瞬く間に周囲を取り囲まれてしまった。

 「わたくし達貴女にお話があるの、同行してくれるわよね?」

 口ではこちらの同意を求めているものの、前後左右をがっちりと固められてしまっては逃げようがない。 

「これから夕方のお支度がございますのでご要件がお有りなのであれば今お伺い致します」
  
 そう告げれば、それまで浮かべていた薄ら笑いが消え失せてしまった。

「たかだか子爵令嬢のくせにフローラル・メティア侯爵令嬢のお誘いを断るとは身の程知らずのようね」

 周りにいた取り巻きと思われる御令嬢方がまくし立てる。

 フローラル・メティア侯爵令嬢はたしかレオナルド殿下の婚約者候補として名前が上がっている人物だった気がする。
 
 亡くなってしまった婚約者の代わりとなるかも知れない人物、それはこれからもレオナルド殿下のお側でお仕えしたければ、仲良くしておかなければならない人物でもある。

 ここで候補者とはいえ未来の王太子妃候補と揉めるのは得策ではないだろう。

「……わかりました、ご同行致します」

「はじめからそうすればよろしいのよ」

  

 
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