階段下の物置き令嬢と呪われた公爵

LinK.

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呪いとは一体何だろう…?

考えていたクロエは部屋に呪いと書かれている本があることを思い出す。

( 上の段にある本は呪いや怖い話が多かったわよね… )

しかし、いくら探しても呪いの本は無かった。

「どうして…?あんなにいっぱいあったというのに…」

「どうかなさいましたか?」

丁度いいところに来たアビゲイルに聞いてもわからなかった。

「客室にそのような不気味な本は置きませんよ」

だが、クロエは確かに見た。ここに絶対あった。
あの時薄気味悪く思って表紙しか見なかった事が悔やまれる。

( もしかしてこれも呪いだというの…? )

クロエは綺麗になった家具を見て考えた。

塗装が剥げたと思った家具。汚れていたと思った本の背表紙。黒かった食事。暗い表情だった使用人達。

黒いと思っていたものがそうではなくて、変わった事に誰も気が付かなかった。呪い以外に何があるというのか。

綺麗になるようにと願えって拭けばオルフェウスの顔も綺麗になるかもしれない。

クロエは急いでオルフェウスのいる執務室に向かい、濡れた布でオルフェウスの顔を拭いてみる。

( 綺麗になりますように。呪いが解けますように )

いくら拭いてもオルフェウスの顔は変わらない。

「気は済んだか…?」

それよりもオルフェウスを怒らせてしまったようだ。


( 私にはなんの力も無いのね… )

落ち込むクロエだったが、翌朝にオルフェウスの顔をみて歓喜する。

( 目の位置が左右対称になっているわ! )

母の言う通り、強く願えば言葉に力が宿るのだ。
オルフェウスの顔を毎日拭き、最初は不機嫌になっていたオルフェウスだったが今ではクロエの好きにさせている。
一生懸命なクロエの顔を間近に見て、満更でもなかった。


少しずつ顔の形が変わっているのだが、今まで同様に誰も気が付かない。
肝心のオルフェウスは鏡も見ないし自分の顔を触ることもしなくなったので、この変化を知っているのはクロエだけ。
それに、肌は爛れたままだった。

喜ぶクロエだったが、誰も変化に気が付かないということは呪いがまだ働いているという証拠。

まだ解決はしていない。



「楽しいのか?」

ある日、オルフェウスは自分の顔を拭くクロエに尋ねた。

「楽しい、のかもしれませんね」

「こんな顔を見ても気持ち悪いだけだろう…」

今にも泣き出しそうな、辛く悲しい顔をするオルフェウスを見てクロエは心が傷んだ。

「オルフェウス様、もし呪いが解けたら…。その時は私を娶ってくださいますか?」

「何を言っているんだ!これは決して解けない呪いなんだぞ!」

突然のクロエの告白にオルフェウスは驚き固まったが、すぐに立ち上がって後ずさる。

クロエはそっと立ち上がってゆっくりと近付いて震えるオルフェウスの手を両手で包み込み、その手をオルフェウスの顔に持っていく。

「これは…!」

薄っすらとだが、鼻の出っ張りを感じられた。

「そんな…。まさか…?」

驚愕するオルフェウスにクロエは優しく微笑む。

「呪いは必ず解けると言いましたでしょう?」


何度も顔を触って確かめるオルフェウスだったが、肌は未だに爛れたまま。零れ落ちそうな頬の皮を触って浮上した気持ちが沈んだ。

「良くなっているように思えるが呪いはまだ解けていない。たとえこの肌が治ろうとも、短命の呪いが解けるとは限らないだろう。それに、もし醜いままの顔だったらどうする?それでも私と添い遂げたいと思うはずがない…」

「オルフェウス様のお顔がどんなものでも構いません。私は優しいあなたをお慕いしているのです。呪いは私が必ず解いてみせるので、私を信じていただけませんか?」

「だが…」

俯いて自分と目を合わせてくれないオルフェウスにクロエは遠慮がちに尋ねる。

「私のことはお嫌いでしょうか…?」

「そ、そんな事はない!私だって…!」

強く否定するオルフェウスは勢いのままクロエに近付いた。
泣かせたかもしれないとクロエの顔を覗き込む。

目が合って、泣いていないと安堵した時にはもう遅かった。
クロエの顔がすぐ目の前にあると気付いた時には唇に柔らかい感触。

「本当は今すぐにでも嫁ぎたいのです」

耳元でそう囁やき、顔を真っ赤にしたクロエは走り去っていく。

まさかクロエが醜い自分のことを…?

オルフェウスは暫くその場から動けなかった。



執務室に戻ったオルフェウスはぼんやりと何処かを眺めていた。

「トーマス…」

「はい、どうなさいましたか?」

「私は優しい人間か?」

「えぇ、オルフェウス様はとても優しくて立派な主人でございます。使用人達も皆感謝しておりますよ」

「そうか…」

何故いきなりそんなことを聞くのかとトーマスは首を傾げるが、オルフェウスはそれ以上何も話さないので仕事に集中した。


「トーマス…」

十分ほど経っただろうか。オルフェウスが再びトーマスに呼びかける。

「はい、何でしょうか?」

「私の顔は醜く爛れているだろう?」

「それは…」

肯定も否定もできないトーマスだったが、オルフェウスは気にした素振りも見せずに何処かを嬉しそうに見つめている。

「こんな顔でも良いそうだ」

トーマスはクロエのことだと察し、顔が蕩けそうなほど綻んだ。

「そうですか、喜ばしいことですね」

「呪いは必ず解けると…。信じてくれと言われたんだ」

口づけを思い出したのだろう。オルフェウスは自分の唇を撫でていた。

「そうですか…」

トーマスの目には涙が溢れ、オルフェウスに背を向けて涙をハンカチで拭う。


「私にできることは何だろうか…?」

「クロエ様を大事になさってください」

全てを諦めて生きてきたオルフェウスが未来に向かって動き出そうとしている姿を見て、トーマスの涙は止まらなかった。

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