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第八話
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勉強に剣術、自国や他国の礼儀作法。
ウィルフレッドの世話ができるようにと、使用人の真似事も覚えさせられるクリスティーナ。
忙しさに追われる毎日だったが、王族との絡みさえ無ければ楽しくやっていた。
だが、クリスティーナはどうしても彼らが好きになれない。
剣術の稽古をしていると…
「私達を護るために励みなさい」
「女性なのに殿方を打ち負かすだなんて、なんて野蛮なんでしょう」
「僕は争い事は嫌いなんだ。僕の顔に傷でもついたら、この国の損失だよ。僕の代わりに力をつけるんだ」
順にアレキサンダー、ロザリア、ウィルフレッドの言葉だ。
クリスティーナは聞き流して稽古を続ける。
政務の勉強をしていると…
「ウィルフレッドを補佐するために励みなさい」
「女性なのに政に手を出すだなんて、恥を知りなさい」
「僕は美しい物にしか興味がないんだ。君が代わりに全部やってくれるよね」
クリスティーナは聞き流して勉強を続ける。
礼儀作法の授業中…
「他国の使者の相手はクリスティーナに任せようか」
「いくら礼儀作法ができても、相手の心がわからないと意味がないんですよ」
「僕には礼儀作法なんて必要ないよ。僕のやることが全ての見本だからね」
クリスティーナは聞き流していたが……
内心ではものすごくイライラしていた。
最初は出来なくても、滅気ずに努力をするクリスティーナに絆されて、教師たちは自分の持てる全ての知識と技術を授けた。
皆から「もう教えることはない」と言わせるほどに、常に努力を怠らなかった。王族の為ではない。自分自身の為だ。
毎月行われるウィルフレッドとクリスティーナのお茶会
幼い頃は「ブス」と言われて会話が無かった二人だったが、成長するに従ってウィルフレッドはクリスティーナを貶す発言はしなくなった。
その代わり、ウィルフレッドは自分の美しさの秘訣や自慢話をするようになる。
いつもウィルフレッドが話すだけでお茶会が終わるのだが、今日は違った。
「クリスティーナに僕の仕事をしてもらおうと思っているんだ」
ウィルフレッドはそう言って紙の束をクリスティーナに差し出す。
「これは私が見てもいい物ではないと思うのですが…」
クリスティーナがそう言って書類を返そうとすると、ウィルフレッドは満面の笑みで答えた。
「僕が良いと言ったら良いんだよ」
本当にこの王子は面倒くさい。
自分がやりたくない仕事を押し付けているだけじゃないか。このことが露見してしまったら、公爵令嬢に過ぎないクリスティーナはただでは済まされない。
クリスティーナは顔には出さずに微笑みを貼り付けてウィルフレッドを見る。
ウィルフレッド「やれやれ」と大袈裟なため息を吐いた。
「わかったよ。その代わりに君の願いを一つ叶えてあげよう。あぁ、僕よりも美しくなりたいと思っても、それは叶えてあげられないからね。他の物なら聞こうじゃないか」
クリスティーナの願い事は、この事が露見しても咎められないようにして欲しいというものだった。
この日、屋敷に戻ったクリスティーナが部屋に戻って一人になった瞬間に、荒れに荒れたのは言うまでもない。
それからというもの、ウィルフレッドはクリスティーナに仕事や面倒事を押し付ける代わりに、クリスティーナの願いを叶えるという約束をするようになる。
「僕は優しい王子だからね。可哀想な君の願いを叶えてあげるんだよ。だから、君も僕の頼みを聞いてくれるよね?」
クリスティーナは少しずつ…
どこまで許されるのか。何だったら出来るのか。
そんな事を探りながらウィルフレッドの頼みを請け負い、自分の願いを聞いて貰うようになっていく。
そんなある日、ウィルフレッドは一冊の本をクリスティーナに差し出した。
「この国に聖女が居たんだ。聖女は心優しい女性で、彼女が幸せを感じるだけでこの国は豊かになっていたらしいよ。力が強い聖女は傷を癒やすことも出来たそうだ」
嬉しそうに話すウィルフレッドの口は止まらない。
「なんでも、ある日突然現れるそうだよ。その見た目は可憐で、一輪の花を思わせる程らしい。まぁ、僕よりも劣るだろうけどね。君はどう思う?」
「どう思うとは…?」
突然尋ねられたクリスティーナは理解できずに聞き返した。
「だからさ、僕の伴侶は聖女のような女性だと思うんだよね。まぁ、妥協して君でも良いけどさ」
「左様ですか…」と、クリスティーナは微笑んで答える。
「その本をよく読んで、僕のために聖女を見つけてよ」
ウィルフレッドはそう言って、鼻歌を歌いながら何処かへ行ってしまった。
残されたクリスティーナは古ぼけた本を開いて読み込んだ。
今までの王子妃教育のどの授業にも聖女など出てこなかったというのに。
一体全体、何処から聖女が出てきたんだろう?
何度読み直しても、本の信憑性は全く無かった。独自で調べてもそのような文献は無く、あるのはウィルフレッドに渡された一冊の本だけ。
数日後、ウィルフレッドに呼び出されたクリスティーナは尋ねた。
「聖女はこの国に実在したのでしょうか?調べても何も見つからなかったのですが…」
ウィルフレッドは満面の笑みで答える。
「この本に書いてあるじゃないか。あぁ、もしかして嫉妬しているのかい?大丈夫。聖女を側室にして君を正妃にするよ。だから安心して聖女を探してほしい」
「いえ、この本は間違っているのではないでしょうか?もしくは作り物では…?」
クリスティーナが聞き流して尋ねると、ウィルフレッドの表情は急に曇った。
「これは母上の物だ。代々王妃にしか読むことのできない本だから、君が知らないのは当然だろう?少し勉強ができるからと言って、何でも知っている気になるのは良くないよ」
「申し訳ございません」と謝るクリスティーナを見てウィルフレッドは頷き、
「僕のために聖女を見つけてくれるよね?代わりに君の願いを一つ叶えてあげよう。考えておくように」
そう言い残してウィルフレッドは何処かへ行ってしまった。
(可憐な聖女ね…。いくら歴代の王妃様しか読めない本があるからと言って、聖女は実在していないわ。この本は作り物よ。でも…、これは使えるわね)
クリスティーナはその日、夜遅くまで机に向かってああでもないこうでもないと、紙に何かを書いては消し、ある計画を企てたのだった。
翌日…
「お父様、お話したいことがございます」
クリスティーナはジェームズに熱く訴えた。
「熱心に王城で教育を受けているから、クリスティーナはウィルフレッド王子を好いているのかと思っていたよ」
ジェームズに言われて固まってしまうクリスティーナだったが、微笑むだけに留まった。
「その後のことは私に任せなさい」
ジェームズは手紙を何通も書き、すぐに彼方此方に送った。
使用人達を集めて話し合い、
領民達を纏める代表達を集めて話し合い、
手紙の返事が届く頃には、下準備は全て整っていた。
ウィルフレッドの世話ができるようにと、使用人の真似事も覚えさせられるクリスティーナ。
忙しさに追われる毎日だったが、王族との絡みさえ無ければ楽しくやっていた。
だが、クリスティーナはどうしても彼らが好きになれない。
剣術の稽古をしていると…
「私達を護るために励みなさい」
「女性なのに殿方を打ち負かすだなんて、なんて野蛮なんでしょう」
「僕は争い事は嫌いなんだ。僕の顔に傷でもついたら、この国の損失だよ。僕の代わりに力をつけるんだ」
順にアレキサンダー、ロザリア、ウィルフレッドの言葉だ。
クリスティーナは聞き流して稽古を続ける。
政務の勉強をしていると…
「ウィルフレッドを補佐するために励みなさい」
「女性なのに政に手を出すだなんて、恥を知りなさい」
「僕は美しい物にしか興味がないんだ。君が代わりに全部やってくれるよね」
クリスティーナは聞き流して勉強を続ける。
礼儀作法の授業中…
「他国の使者の相手はクリスティーナに任せようか」
「いくら礼儀作法ができても、相手の心がわからないと意味がないんですよ」
「僕には礼儀作法なんて必要ないよ。僕のやることが全ての見本だからね」
クリスティーナは聞き流していたが……
内心ではものすごくイライラしていた。
最初は出来なくても、滅気ずに努力をするクリスティーナに絆されて、教師たちは自分の持てる全ての知識と技術を授けた。
皆から「もう教えることはない」と言わせるほどに、常に努力を怠らなかった。王族の為ではない。自分自身の為だ。
毎月行われるウィルフレッドとクリスティーナのお茶会
幼い頃は「ブス」と言われて会話が無かった二人だったが、成長するに従ってウィルフレッドはクリスティーナを貶す発言はしなくなった。
その代わり、ウィルフレッドは自分の美しさの秘訣や自慢話をするようになる。
いつもウィルフレッドが話すだけでお茶会が終わるのだが、今日は違った。
「クリスティーナに僕の仕事をしてもらおうと思っているんだ」
ウィルフレッドはそう言って紙の束をクリスティーナに差し出す。
「これは私が見てもいい物ではないと思うのですが…」
クリスティーナがそう言って書類を返そうとすると、ウィルフレッドは満面の笑みで答えた。
「僕が良いと言ったら良いんだよ」
本当にこの王子は面倒くさい。
自分がやりたくない仕事を押し付けているだけじゃないか。このことが露見してしまったら、公爵令嬢に過ぎないクリスティーナはただでは済まされない。
クリスティーナは顔には出さずに微笑みを貼り付けてウィルフレッドを見る。
ウィルフレッド「やれやれ」と大袈裟なため息を吐いた。
「わかったよ。その代わりに君の願いを一つ叶えてあげよう。あぁ、僕よりも美しくなりたいと思っても、それは叶えてあげられないからね。他の物なら聞こうじゃないか」
クリスティーナの願い事は、この事が露見しても咎められないようにして欲しいというものだった。
この日、屋敷に戻ったクリスティーナが部屋に戻って一人になった瞬間に、荒れに荒れたのは言うまでもない。
それからというもの、ウィルフレッドはクリスティーナに仕事や面倒事を押し付ける代わりに、クリスティーナの願いを叶えるという約束をするようになる。
「僕は優しい王子だからね。可哀想な君の願いを叶えてあげるんだよ。だから、君も僕の頼みを聞いてくれるよね?」
クリスティーナは少しずつ…
どこまで許されるのか。何だったら出来るのか。
そんな事を探りながらウィルフレッドの頼みを請け負い、自分の願いを聞いて貰うようになっていく。
そんなある日、ウィルフレッドは一冊の本をクリスティーナに差し出した。
「この国に聖女が居たんだ。聖女は心優しい女性で、彼女が幸せを感じるだけでこの国は豊かになっていたらしいよ。力が強い聖女は傷を癒やすことも出来たそうだ」
嬉しそうに話すウィルフレッドの口は止まらない。
「なんでも、ある日突然現れるそうだよ。その見た目は可憐で、一輪の花を思わせる程らしい。まぁ、僕よりも劣るだろうけどね。君はどう思う?」
「どう思うとは…?」
突然尋ねられたクリスティーナは理解できずに聞き返した。
「だからさ、僕の伴侶は聖女のような女性だと思うんだよね。まぁ、妥協して君でも良いけどさ」
「左様ですか…」と、クリスティーナは微笑んで答える。
「その本をよく読んで、僕のために聖女を見つけてよ」
ウィルフレッドはそう言って、鼻歌を歌いながら何処かへ行ってしまった。
残されたクリスティーナは古ぼけた本を開いて読み込んだ。
今までの王子妃教育のどの授業にも聖女など出てこなかったというのに。
一体全体、何処から聖女が出てきたんだろう?
何度読み直しても、本の信憑性は全く無かった。独自で調べてもそのような文献は無く、あるのはウィルフレッドに渡された一冊の本だけ。
数日後、ウィルフレッドに呼び出されたクリスティーナは尋ねた。
「聖女はこの国に実在したのでしょうか?調べても何も見つからなかったのですが…」
ウィルフレッドは満面の笑みで答える。
「この本に書いてあるじゃないか。あぁ、もしかして嫉妬しているのかい?大丈夫。聖女を側室にして君を正妃にするよ。だから安心して聖女を探してほしい」
「いえ、この本は間違っているのではないでしょうか?もしくは作り物では…?」
クリスティーナが聞き流して尋ねると、ウィルフレッドの表情は急に曇った。
「これは母上の物だ。代々王妃にしか読むことのできない本だから、君が知らないのは当然だろう?少し勉強ができるからと言って、何でも知っている気になるのは良くないよ」
「申し訳ございません」と謝るクリスティーナを見てウィルフレッドは頷き、
「僕のために聖女を見つけてくれるよね?代わりに君の願いを一つ叶えてあげよう。考えておくように」
そう言い残してウィルフレッドは何処かへ行ってしまった。
(可憐な聖女ね…。いくら歴代の王妃様しか読めない本があるからと言って、聖女は実在していないわ。この本は作り物よ。でも…、これは使えるわね)
クリスティーナはその日、夜遅くまで机に向かってああでもないこうでもないと、紙に何かを書いては消し、ある計画を企てたのだった。
翌日…
「お父様、お話したいことがございます」
クリスティーナはジェームズに熱く訴えた。
「熱心に王城で教育を受けているから、クリスティーナはウィルフレッド王子を好いているのかと思っていたよ」
ジェームズに言われて固まってしまうクリスティーナだったが、微笑むだけに留まった。
「その後のことは私に任せなさい」
ジェームズは手紙を何通も書き、すぐに彼方此方に送った。
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