拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です

LinK.

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第十一話

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始めに異変に気が付いたのは財務を担当するアルジャン。

国庫金が凄い勢いで無くなっていく。
このままでは立ち行かなくなる。

アルジャンは急いで原因を突き止め、アレキサンダー王に報告する。

「何故だ?」と聞かれ、王妃ロザリアと聖女マリーの散財が原因だと伝えた。

「何を馬鹿なことを…、今までと何ら変わりは無いではないか。マリー一人が増えた所で問題も無かろう。それに、ロザリアはマリーの為に購入する品数を減らしたと言っていたぞ?よもや己の失態を隠そうと、二人に責任を押し付けているのではあるまいな…」

アレキサンダーに鋭い目つきで睨まれ、アルジャンは何も言えなくなってしまう。


本当のことを言えるはずもなかった。

アルジャンが調べると、ロザリアは勝手に買い物をする商会を変えていた。

「以前の商会に戻して欲しい」と言っても
「生家のお抱えの商会だから」と返される。

何故こんなにも掛かる金額が違うのかと以前の商会について調査すると
クリスティーナに言われて、見た目が派手な物をロザリアに持って行っていた事がわかった。

豪奢なのは見た目だけ。
宝石は精妙に作られた擬い物で、ドレスは肌触りの良い、シルクにも見えるような布を使って作られた物だった。

アルジャンはこの事実を墓まで持って行くと誓った。

ロザリアが喜んで身に着けていた物は擬い物。
それなら安く手に入るから、これからもそこで購入して欲しい。

こんな事を言ってしまったら、自分の首が飛んでしまう。

過去と現在のロザリアが使った金額を提示すればアレキサンダーも理解するだろうが、その理由、上手い言い訳は思い付かなかった。


アルジャンは食費や人件費などを少しずつ削って、なんとかやり過ごそうと試みる。
しかし、城に勤める人が多いとはいえ、毎週のように散財するロザリア達の使う金額を補えるほどにはならなかった。


アルジャンは悩んだ末、再度アレキサンダーに報告する。

「無いのならある所から取れば良いではないか」

アレキサンダーは税収を増やすように命じた。

平民は3%増しで、貴族は5%増しと税率が引き上げられる。


給料を減らされた使用人達
収入は変わらないのに税率が上がってしまい、生活水準を落とすしかない下級貴族達
解雇されたりタダ働き同然に働かされるようになり、かろうじて生きていける平民達

聖女が居れば国は豊かになっていくのではなかったのか?
これでは話が違うじゃないか!

不満を募らせていく。


これで自分の首を落とさなくてすむとアルジャンがホッとしたのは束の間。

今度はウィルフレッドの散財が始まってしまった。

自分の美貌を保つことに命を懸けていると言っても過言ではないウィルフレッド。
使用していた化粧水が無くなってしまったので、ロザリアの呼ぶ商会で化粧水を購入する。

その際に商人から他にも美容に良い物があると勧められて、全て買い占めたのだ。

肌を白くするクリーム。
髪を綺麗にする整髪剤。
野菜の代わりになるお茶。
太らなくなる錠剤。

世の中にはこんなに便利な物があったのか。
以前の商会では何も教えてくれないから知らなかった。

早速購入した商品を使ったウィルフレッドは
「肌と髪が綺麗になった気がする。僕の魅力が一段と増してしまった…」と、
鏡に映る自分をうっとりと見ていた。

お茶と錠剤は就寝前に飲むようになり、よく眠れるし朝の寝覚めも良い。
良い買い物をしたと喜んでいた。


「恐れながら…」と、再びアレキサンダーに報告するアルジャン。

ウィルフレッドの話を聞いたアレキサンダーは言った。

「騎士の数を半分に減らせば良い。戦争がない時代にあれ程の騎士は要らないだろう」

「国の為に騎士は必要です!お考え直しください!」と騎士団長が懇願するも、アレキサンダーは一喝し、地下牢に連れて行くよう命じる。

「王は私だ。私の言う事は絶対だろう?」

突然解雇された騎士達は憤慨したが、団長が捕らえられた事を知って、何も言えずに城を去っていく。

騎士の誇りを捨てられずに剣を置くことができない騎士達だったが、新たに雇ってくれる貴族は何処にも居ない。

彼らはそれぞれ他国へと散り散りに向かった。
ある者は国の騎士として、ある者は傭兵として、ある者は落ちぶれて盗賊になって、今でも剣を握っている。


そして、次に異変に気付いたのはロザリアとマリーだった。

「ロザリア様、なんだかお茶会に来る人の数が減って気がするの」

「そうね…。私達の招待を断るだなんて、なんて無礼なんでしょう。私がアレキサンダー様に言っておくわ」

ロザリアはアレキサンダーに泣き落として頼み込み
王妃の開催するお茶会の招待を断ると罰則を与えると言われた貴族達は、招待状が来ないようにと祈るようになる。

王家の赤い蝋印が押された招待状は『赤紙』と呼ばれるようになり、赤紙が届いてしまった貴族達は必死になってドレスや装飾品の準備をする。

そう何度も新しくドレスを買えない貴族達は仕方なく同じ物を着回したり、仲の良い者同士で交換してお茶会に参加するのだが…
それに気付いたマリーが失言してしまった。

「どうして同じドレスを着るの?あなたが着ているドレスは前にも見たわ。せっかく私がお友達になってあげたのに…」

誰の所為だと思っているんだ。
王城に行くドレスを毎週のように買えるわけないじゃないか。
ただでさえ税率が上がって、収入が減って困っているのに…


貴族達も、城で働く使用人達も、平民達も

(嫉妬に狂う悪女で良いから、クリスティーナ様に戻って来て欲しい……)

誰もがそう思っていた。


「皆の好きなようにさせろ」と言うアレキサンダー。
あれもこれもと散財するウィルフレッドにロザリアとマリー。

アルジャンは減っていくお金を見ながら、必死になって駆け回っていた。
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