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第十二話
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イディオの王城でアルジャンが駆け回っている頃、フォーリュのターナー領ではクリスティーナが駆け回っていた。
畑を一緒に耕したり、父ジェームズと今後の計画を練ったり、母アメリアと売り物用の刺繍をしたり…
休む暇なんてなかった。
今日も領民達と畑を耕していると、強い日差しに当てられてフラッとよろけてしまう。
鍬が重たく感じた。持ち上げたいのに、手に力が入らない。
するとすっと影が差し、誰かがクリスティーナの握っている鍬を取り上げた。見上げると、王都で別れたウィルが鍬を持っている。
「俺がやるからクリスは休んでろよ。顔色が悪い」
「大丈夫よ。まだ届いた肥料も撒いていないの。早く苗を植えて作物を育てないといけないのよ」
鍬を取り返そうとするとウィルがそっと肩を押して、クリスティーナは尻餅をついてしまった。
立ち上がれないクリスティーナをウィルが抱き上げて、木の根本まで連れて行く。
領民に頼んで水を一杯もらい、クリスティーナに差し出した。
「良いから休んでおけ。俺がクリスの分もやっておくから。な?」
クリスティーナは木陰で休みながら、鍬を思いっきり振るうウィルの姿を見つめていた。
いつも大変な時に現れて助けてくれる。
巫山戯てばかりいるのに、盗賊や狼にも負けない位に強い。
今だって難なく畑を耕している。
ずるい……
強いのに優しい性格も
たまに見せる真剣な表情も
簡単に自分を抱き上げる力強さも
気になってしょうがない。
ひと仕事終えたウィルが戻って来て、クリスティーナの隣に腰掛けた。
「ありがとう。また助けられたわ」
「こんなのどうってことないよ」
ウィルがクリスティーナの頭をガシガシと撫でて言うから「子供扱いしないで!」と、手を振り払った。
「まだ子供じゃないか」
ウィルに言われて、クリスティーナは心がズキッと傷んだ。
「もうすぐ成人を迎えるわ。ウィルとは4つしか離れていないもの」
「それでも…」と、ウィルが真面目な顔をして言う。
「クリスはまだ子供だ。もっと周りに甘えろよ。自分ひとりで全部やろうとするな。いつか体を壊すぞ」
「私は大丈夫よ」
クリスティーナがそう返すと、ウィルは畑を見ながら「親の問題だな…」と呟いた。
「違うわ!お父様もお母様も、私を大事に育ててくれたわ!立派に宰相を務めて領民達からも慕われているし、ちゃんと私を愛してくれているの!ウィルに何がわかるのよ!」
クリスティーナは立ち上がって叫んだ。
「あの二人はクリスを愛していると思う。でも、優れた領主と優れた両親は違うんだよ。俺がクリスの親だったら、絶対に盗賊とは戦わせない。剣術は教えても、馬車の中に縛ってでも入れるね」
「勝手なこと言わないで!私がやりたいって言ったから許可を出してくれたの!」
座ったままだったウィルが立ち上がって、クリスティーナを見下ろして言った。
「それでも、危険な目にあっても止めなかった。見守る事と何もしない事は違うんだよ」
「止めて…。そんな事言わないで……」
クリスティーナはそれ以上聞きたくなくて走った。
体力も限界だったから、途中で躓いて両手を付いてしまう。
「クリスティーナ、そんな所で何をしているんだい?」
前から歩いてきたジェームズに声をかけられて、転んでしまったと笑って言って立ち上がろうとするが、上手く立てなかった。
ジェームズが慌てて駆け寄ってクリスティーナを抱き上げて、家まで連れて行ってくれた。
「クリスティーナを抱き上げるなんていつぶりだろうね。こんなに大きくなったんだね」
嬉しそうに話すジェームズ。
家に帰るとアメリアが「大丈夫?痛かったわね」と言って、両手にできた擦り傷の手当てをしてくれた。
(私は二人に愛されている。それ以上に何が必要なの?)
クリスティーナは両親の愛情を噛み締めて眠りについた。
ジェームズに抱き上げられた時とは違う、ウィルの感触を思い出して顔が熱くなる。
汗に混ざって仄かに香る煙草の匂いは、不快に感じなかった。
でも……
あんなに酷いことを言う人だとは思わなかった。
気になると思ったのは気の迷いだ。
忘れよう…。
日頃の疲れが祟ったのか、その日の夜から発熱し、暫く安静するように言われたクリスティーナ。
毎日アメリアが看病してくれて
ぼんやりとする意識の中、大きくて優しい手が自分を撫でてくれて
ジェームズが様子を見に来てくれたんだと安心して眠った。
クリスティーナが起き上がれるようになるまで3日、立って歩けるようになるまでは1週間かかった。
すぐに領民達の手伝いをしに行こうと着替えたクリスティーナをジェームズが止める。
「クリスティーナは病み上がりなんだから、まだ休んでいなさい。来週からまた手伝ってくれるかな?」
「私はもう大丈夫よ」と言うと、今度はアメリアが引き止めた。
「ウィルが手伝ってくれているから大丈夫よ。クリスティーナは私と室内にいましょうね」
二人に押し切られてそのまま屋敷で過ごすクリスティーナは、何かしなくてはと、掃除や家の修繕をしようとするも
アメリアにやんわりと止められて、一緒にお茶をしたり話すだけの何もしない日を過ごす事になる。
(こんな風にお母様と過ごすなんて初めてだわ)
最初は落ち着かない様子のクリスティーナだったが、時間が経つに連れて慣れてきたのか
アメリアの話を聞くだけだったのが次第に自分からも話すようになり
時折ジェームズが参加して、3人で話すようになる。
今までも仲が良かった3人だが、話す内容は王家から課せられた教育の話や今回の移住の計画だった。
クリスティーナが熱を出して寝込んだお陰で、こうして家族揃って色んな話が出来るようになり
家族の距離が縮まった様な気がして、クリスティーナは嬉しかった。
畑を一緒に耕したり、父ジェームズと今後の計画を練ったり、母アメリアと売り物用の刺繍をしたり…
休む暇なんてなかった。
今日も領民達と畑を耕していると、強い日差しに当てられてフラッとよろけてしまう。
鍬が重たく感じた。持ち上げたいのに、手に力が入らない。
するとすっと影が差し、誰かがクリスティーナの握っている鍬を取り上げた。見上げると、王都で別れたウィルが鍬を持っている。
「俺がやるからクリスは休んでろよ。顔色が悪い」
「大丈夫よ。まだ届いた肥料も撒いていないの。早く苗を植えて作物を育てないといけないのよ」
鍬を取り返そうとするとウィルがそっと肩を押して、クリスティーナは尻餅をついてしまった。
立ち上がれないクリスティーナをウィルが抱き上げて、木の根本まで連れて行く。
領民に頼んで水を一杯もらい、クリスティーナに差し出した。
「良いから休んでおけ。俺がクリスの分もやっておくから。な?」
クリスティーナは木陰で休みながら、鍬を思いっきり振るうウィルの姿を見つめていた。
いつも大変な時に現れて助けてくれる。
巫山戯てばかりいるのに、盗賊や狼にも負けない位に強い。
今だって難なく畑を耕している。
ずるい……
強いのに優しい性格も
たまに見せる真剣な表情も
簡単に自分を抱き上げる力強さも
気になってしょうがない。
ひと仕事終えたウィルが戻って来て、クリスティーナの隣に腰掛けた。
「ありがとう。また助けられたわ」
「こんなのどうってことないよ」
ウィルがクリスティーナの頭をガシガシと撫でて言うから「子供扱いしないで!」と、手を振り払った。
「まだ子供じゃないか」
ウィルに言われて、クリスティーナは心がズキッと傷んだ。
「もうすぐ成人を迎えるわ。ウィルとは4つしか離れていないもの」
「それでも…」と、ウィルが真面目な顔をして言う。
「クリスはまだ子供だ。もっと周りに甘えろよ。自分ひとりで全部やろうとするな。いつか体を壊すぞ」
「私は大丈夫よ」
クリスティーナがそう返すと、ウィルは畑を見ながら「親の問題だな…」と呟いた。
「違うわ!お父様もお母様も、私を大事に育ててくれたわ!立派に宰相を務めて領民達からも慕われているし、ちゃんと私を愛してくれているの!ウィルに何がわかるのよ!」
クリスティーナは立ち上がって叫んだ。
「あの二人はクリスを愛していると思う。でも、優れた領主と優れた両親は違うんだよ。俺がクリスの親だったら、絶対に盗賊とは戦わせない。剣術は教えても、馬車の中に縛ってでも入れるね」
「勝手なこと言わないで!私がやりたいって言ったから許可を出してくれたの!」
座ったままだったウィルが立ち上がって、クリスティーナを見下ろして言った。
「それでも、危険な目にあっても止めなかった。見守る事と何もしない事は違うんだよ」
「止めて…。そんな事言わないで……」
クリスティーナはそれ以上聞きたくなくて走った。
体力も限界だったから、途中で躓いて両手を付いてしまう。
「クリスティーナ、そんな所で何をしているんだい?」
前から歩いてきたジェームズに声をかけられて、転んでしまったと笑って言って立ち上がろうとするが、上手く立てなかった。
ジェームズが慌てて駆け寄ってクリスティーナを抱き上げて、家まで連れて行ってくれた。
「クリスティーナを抱き上げるなんていつぶりだろうね。こんなに大きくなったんだね」
嬉しそうに話すジェームズ。
家に帰るとアメリアが「大丈夫?痛かったわね」と言って、両手にできた擦り傷の手当てをしてくれた。
(私は二人に愛されている。それ以上に何が必要なの?)
クリスティーナは両親の愛情を噛み締めて眠りについた。
ジェームズに抱き上げられた時とは違う、ウィルの感触を思い出して顔が熱くなる。
汗に混ざって仄かに香る煙草の匂いは、不快に感じなかった。
でも……
あんなに酷いことを言う人だとは思わなかった。
気になると思ったのは気の迷いだ。
忘れよう…。
日頃の疲れが祟ったのか、その日の夜から発熱し、暫く安静するように言われたクリスティーナ。
毎日アメリアが看病してくれて
ぼんやりとする意識の中、大きくて優しい手が自分を撫でてくれて
ジェームズが様子を見に来てくれたんだと安心して眠った。
クリスティーナが起き上がれるようになるまで3日、立って歩けるようになるまでは1週間かかった。
すぐに領民達の手伝いをしに行こうと着替えたクリスティーナをジェームズが止める。
「クリスティーナは病み上がりなんだから、まだ休んでいなさい。来週からまた手伝ってくれるかな?」
「私はもう大丈夫よ」と言うと、今度はアメリアが引き止めた。
「ウィルが手伝ってくれているから大丈夫よ。クリスティーナは私と室内にいましょうね」
二人に押し切られてそのまま屋敷で過ごすクリスティーナは、何かしなくてはと、掃除や家の修繕をしようとするも
アメリアにやんわりと止められて、一緒にお茶をしたり話すだけの何もしない日を過ごす事になる。
(こんな風にお母様と過ごすなんて初めてだわ)
最初は落ち着かない様子のクリスティーナだったが、時間が経つに連れて慣れてきたのか
アメリアの話を聞くだけだったのが次第に自分からも話すようになり
時折ジェームズが参加して、3人で話すようになる。
今までも仲が良かった3人だが、話す内容は王家から課せられた教育の話や今回の移住の計画だった。
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家族の距離が縮まった様な気がして、クリスティーナは嬉しかった。
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