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8話
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翌朝、重いまぶたを押し上げると、ぼんやりとした光がカーテン越しに射し込んでいた。
隣にはノラが眠っている。裸の肩を出したまま、毛布にくるまって、静かに寝息を立てていた。
靖一の視線が、その背中をゆっくりとなぞる。
赤黒く染まった痕──昨夜、自分が噛みついた跡が、皮膚の上に薄く残っていた。
指先を伸ばしかけて、靖一は手を止めた。
……ひどいことをした。
胸の奥が、ちり、と痛んだ。触れたノラの手は、少し冷たかった。
靖一はそっと毛布を引き上げて、ノラの体を優しくくるむ。もう一度その顔を見たくなった。けれど、見られなかった。
いつも通りの顔をして、いつも通りに着替えて、いつも通りに家を出た──つもりだった。
***
夕暮れが街を飲み込む頃、靖一は疲れた足取りで帰宅した。
部屋は、暗かった。
電気も、音も、気配もない。
「……ノラ?」
返事はなかった。玄関には靴があるのに部屋のどこを見回しても、彼の姿は見つからない。
──出かけたのか?
そう思った瞬間、背中に冷たいものが走った。
昨日のこと。あんなふうにして、それでも「大丈夫?」なんて心配してきた、あの声。
……あいつ、馬鹿だな。俺みたいなやつのこと心配して。
拳を握りしめ、靖一は天井を睨んだ。
気づけば、目に滲んだ涙が視界を曇らせていた。
「……チッ」
自分の弱さに腹が立った。
だが体は、もう動いていた。
外へ飛び出し、コンビニ、駅前のベンチ、夜の公園──ノラの姿を求めて闇の中を駆けた。
汗まみれのシャツに夜風が冷たく染みる。
ノラの姿を探し、何度も頭の中で名前を呼んだ。けれど、ノラはどこにもいなかった。
重い足取りで帰り着いた家の前、ふと、何かの気配に気づいて立ち止まった。
──玄関の前に、一つの影。
闇の中で、金色の瞳がこちらを見ている。 銀色の毛並みが、月明かりを受けてかすかに輝く。
それは、狼だった。
この辺りで目撃情報の相次いでいた“野生の狼”。──そのはずだった。だが、靖一は本能的に理解していた。
──ノラだ。
隣にはノラが眠っている。裸の肩を出したまま、毛布にくるまって、静かに寝息を立てていた。
靖一の視線が、その背中をゆっくりとなぞる。
赤黒く染まった痕──昨夜、自分が噛みついた跡が、皮膚の上に薄く残っていた。
指先を伸ばしかけて、靖一は手を止めた。
……ひどいことをした。
胸の奥が、ちり、と痛んだ。触れたノラの手は、少し冷たかった。
靖一はそっと毛布を引き上げて、ノラの体を優しくくるむ。もう一度その顔を見たくなった。けれど、見られなかった。
いつも通りの顔をして、いつも通りに着替えて、いつも通りに家を出た──つもりだった。
***
夕暮れが街を飲み込む頃、靖一は疲れた足取りで帰宅した。
部屋は、暗かった。
電気も、音も、気配もない。
「……ノラ?」
返事はなかった。玄関には靴があるのに部屋のどこを見回しても、彼の姿は見つからない。
──出かけたのか?
そう思った瞬間、背中に冷たいものが走った。
昨日のこと。あんなふうにして、それでも「大丈夫?」なんて心配してきた、あの声。
……あいつ、馬鹿だな。俺みたいなやつのこと心配して。
拳を握りしめ、靖一は天井を睨んだ。
気づけば、目に滲んだ涙が視界を曇らせていた。
「……チッ」
自分の弱さに腹が立った。
だが体は、もう動いていた。
外へ飛び出し、コンビニ、駅前のベンチ、夜の公園──ノラの姿を求めて闇の中を駆けた。
汗まみれのシャツに夜風が冷たく染みる。
ノラの姿を探し、何度も頭の中で名前を呼んだ。けれど、ノラはどこにもいなかった。
重い足取りで帰り着いた家の前、ふと、何かの気配に気づいて立ち止まった。
──玄関の前に、一つの影。
闇の中で、金色の瞳がこちらを見ている。 銀色の毛並みが、月明かりを受けてかすかに輝く。
それは、狼だった。
この辺りで目撃情報の相次いでいた“野生の狼”。──そのはずだった。だが、靖一は本能的に理解していた。
──ノラだ。
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