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10話
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「靖一、起きた?」
寝室に差し込む朝の光の中、やわらかな声に、靖一はゆっくりまぶたを開いた。視界の端にノラの顔がある。その気配が心地よくて、思わず脱力したように返事をする。
「……ああ、おはよう」
声はまだ寝ぼけていて、髪もぐしゃぐしゃだった。ノラはそれを見て、ふっと微笑んだようだった。
次の瞬間、ノラの体がふわりとベッドに飛び込んできて、勢い余って靖一の上に倒れ込んだ。驚く間もなく、その重みと温もりが胸元に広がる。
「昨日はごめん。あんなふうに逃げて」
恥ずかしそうに言うノラに、靖一も小さな声で応えた。
「いや、俺こそ……悪かった」
その言葉にノラは安心したように息をつき、続けた。
「靖一の言葉、聞いてたよ。ちゃんと。ありがと。……嬉しかった」
あの夜、ソファでぽつりぽつりと語った言葉のすべてが、ノラに届いていたらしい。言われると途端に身体がむず痒くなる。
ノラは少し体を起こしながら言った。
ノラは少し体勢を起こしながら言った。
「靖一はそのままでいいからさ。ちょっとだけ俺の話聞いてくれない?」
そして、ノラはぽつりぽつりと話し始めた。
「俺さ、たまに勝手に狼になっちゃうんだよね。昨日みたいに。
一応、前兆はあるんだけどさ。でも自分じゃ止められないんだ。体が急に冷えて、熱がバーッて上がって、そのまま変身しちゃう。……病院とか行ったことないし、よくわかんないけど、たぶんそういう体質なんだと思う」
小さい頃は、家から出るなって言われていた。見られたら大変だからって。だから友達もできなかったし、家の中ばっかりで過ごしていた。両親も早くに亡くなって、おばあちゃんと二人暮らしだったけど、そのおばあちゃんも何年か前に亡くなって──。
「それからは、ずっと一人だった」
ノラの話す一つ一つが、靖一の胸に突き刺さる。
「でもさ、俺、人が好きなんだ。声を聞くのも、話すのも好き。
この街って、ちょっと変わった人も多いからさ、俺のこと飼ってくれる人も何人かいたんだよ。靖一以外にもね」
ノラはあっけらかんとした笑顔でそう言ったが、その笑顔の奥にある痛みに、靖一は気づいていた。
「けっきょく、痛い目にも遭った。身体の傷も、そのときできたものだよ。狼だってバレて、追い出されそうになって、殺されかけたこともある。まあ、そりゃそうだよね」
靖一の脳裏に、ノラの胸元の火傷跡や、脇腹の大きな傷がよぎる。痛々しいものだった。
「でも、靖一は違った。狼でも、人でも、俺ってだけで、この家にいれてくれた。そんなの初めてだったんだ」
ノラの視線が、真っすぐに靖一をとらえる。
「昨日、靖一が言ってたじゃん。『ゲイで、サディストで、誰も愛せない』って。……でも、違うと思うな。前の二つはまあ……認めるとしても。
靖一はちゃんと人を愛せるよ。不器用でこわいくらいに真面目だから、自分じゃそう思えないかもしれないけど、俺はずっと、ちゃんと愛情を感じてた。だから──」
そして少しだけ、目を伏せてから顔を上げ、言った。
「だからさ、靖一に何も無理なことは望まないからまだもう少し、俺を飼っててくれない?」
その目はどこか不安げで、それでも決意を宿していた。
靖一はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと答えた。
「ああ」
それだけだった。けれど、それがすべてだった。
抱きしめようとしたその手は中途半端に止まりかけたが、ノラの方から勢いよく胸に飛び込んできてくれた。
その瞬間、靖一ははっきりと確信した。
──ああ、やっぱり、俺にはノラが必要だ。
「ノラ、今日休みなんだ。お前のしたいこと、しよう」
それが、今の靖一にできる精一杯だった。
「ほんと?」
ノラはガバッと起き上がり、目をきらきらと輝かせた。
「ならドライブがしたい!海まで連れてって!」
寝室に差し込む朝の光の中、やわらかな声に、靖一はゆっくりまぶたを開いた。視界の端にノラの顔がある。その気配が心地よくて、思わず脱力したように返事をする。
「……ああ、おはよう」
声はまだ寝ぼけていて、髪もぐしゃぐしゃだった。ノラはそれを見て、ふっと微笑んだようだった。
次の瞬間、ノラの体がふわりとベッドに飛び込んできて、勢い余って靖一の上に倒れ込んだ。驚く間もなく、その重みと温もりが胸元に広がる。
「昨日はごめん。あんなふうに逃げて」
恥ずかしそうに言うノラに、靖一も小さな声で応えた。
「いや、俺こそ……悪かった」
その言葉にノラは安心したように息をつき、続けた。
「靖一の言葉、聞いてたよ。ちゃんと。ありがと。……嬉しかった」
あの夜、ソファでぽつりぽつりと語った言葉のすべてが、ノラに届いていたらしい。言われると途端に身体がむず痒くなる。
ノラは少し体を起こしながら言った。
ノラは少し体勢を起こしながら言った。
「靖一はそのままでいいからさ。ちょっとだけ俺の話聞いてくれない?」
そして、ノラはぽつりぽつりと話し始めた。
「俺さ、たまに勝手に狼になっちゃうんだよね。昨日みたいに。
一応、前兆はあるんだけどさ。でも自分じゃ止められないんだ。体が急に冷えて、熱がバーッて上がって、そのまま変身しちゃう。……病院とか行ったことないし、よくわかんないけど、たぶんそういう体質なんだと思う」
小さい頃は、家から出るなって言われていた。見られたら大変だからって。だから友達もできなかったし、家の中ばっかりで過ごしていた。両親も早くに亡くなって、おばあちゃんと二人暮らしだったけど、そのおばあちゃんも何年か前に亡くなって──。
「それからは、ずっと一人だった」
ノラの話す一つ一つが、靖一の胸に突き刺さる。
「でもさ、俺、人が好きなんだ。声を聞くのも、話すのも好き。
この街って、ちょっと変わった人も多いからさ、俺のこと飼ってくれる人も何人かいたんだよ。靖一以外にもね」
ノラはあっけらかんとした笑顔でそう言ったが、その笑顔の奥にある痛みに、靖一は気づいていた。
「けっきょく、痛い目にも遭った。身体の傷も、そのときできたものだよ。狼だってバレて、追い出されそうになって、殺されかけたこともある。まあ、そりゃそうだよね」
靖一の脳裏に、ノラの胸元の火傷跡や、脇腹の大きな傷がよぎる。痛々しいものだった。
「でも、靖一は違った。狼でも、人でも、俺ってだけで、この家にいれてくれた。そんなの初めてだったんだ」
ノラの視線が、真っすぐに靖一をとらえる。
「昨日、靖一が言ってたじゃん。『ゲイで、サディストで、誰も愛せない』って。……でも、違うと思うな。前の二つはまあ……認めるとしても。
靖一はちゃんと人を愛せるよ。不器用でこわいくらいに真面目だから、自分じゃそう思えないかもしれないけど、俺はずっと、ちゃんと愛情を感じてた。だから──」
そして少しだけ、目を伏せてから顔を上げ、言った。
「だからさ、靖一に何も無理なことは望まないからまだもう少し、俺を飼っててくれない?」
その目はどこか不安げで、それでも決意を宿していた。
靖一はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと答えた。
「ああ」
それだけだった。けれど、それがすべてだった。
抱きしめようとしたその手は中途半端に止まりかけたが、ノラの方から勢いよく胸に飛び込んできてくれた。
その瞬間、靖一ははっきりと確信した。
──ああ、やっぱり、俺にはノラが必要だ。
「ノラ、今日休みなんだ。お前のしたいこと、しよう」
それが、今の靖一にできる精一杯だった。
「ほんと?」
ノラはガバッと起き上がり、目をきらきらと輝かせた。
「ならドライブがしたい!海まで連れてって!」
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