鎖でつないで、ここにとどめて

青埜澄

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11話

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 ドライブの間、ノラはまるで子どものようにはしゃいでいた。
 飛行機が見えると「飛行機!」と指さし、大きなビルが現れれば「でっかいビル!」と目を輝かせて報告してくる。まるで観光バスのようだと靖一は思った。
「うるさいな」と口では言いながらも、その無邪気な様子にどこか気が緩んでいくのを感じた。自分まで童心に引き戻されるような、不思議な高揚感が胸の奥でくすぶっていた。
 海まではまだ距離があった。昼時が近づき、「何か食べたいもんあるか?」と尋ねると、ノラは即座に答えた。

「寿司食べたい。回る寿司」

 回転寿司の店に入り、カウンターに座ると、ノラは朝食を抜いていたせいか次々に皿を重ねていった。
 靖一が十皿ほどで箸を置いた頃、ノラの前にまだイクラ、マグロ、サーモン、エビ、アナゴが並べられており、既に十皿以上が積み上がっていた。
「ちょっと待ってね」と慌てるように言うノラに、靖一は「ゆっくり食べればいいだろ」と返した。
 その一言にノラは素直に頷いて笑った。

「あ……水なくなった」
「入口の方にあるぞ。淹れてこいよ」

 ノラは黙って靖一の顔を見つめた。じっとなにかを訴えるような目に靖一は前髪を掻き揚げるふりをして目線をそらした。

「……なんだよ。自分で淹れてこいって」
「だって、俺今、待たせてるし」

 そう言って、まだ寿司を口に運びながら見上げてくる。──ずるいやつだな。
 呆れながらも靖一はノラのコップを手に取り、水を汲みに立った。戻ってコップを差し出すと、ノラは満面の笑みを浮かべて「ありがとう。執事みたい」と茶化した。

「言っとくが、こういうのは今日だけだ」

 そう告げると、ノラは「わかってるよ」と嬉しそうに言った。

***

 店を出たあと、コンビニに立ち寄って、コーヒーとオレンジジュース、それからクッキーを買った。
車に戻ると、助手席のノラが「これ、もう食べていい?」と袋を覗きながら言う。

「いいけど、海見ながら食べるんじゃなかったか?」
「そのつもりだったんだけど、今食べたくなっちゃって……でも、車の中にこぼしたらどうする?」
「『全部舐めとれ』って言う」

 冗談のつもりだったが、ノラはなぜか嬉しそうに口元を綻ばせた。

「ばか、嬉しそうにするなよ」
「だって、今日の靖一、ずっと優しいからさ。なんか、久々にその感じだなって思って」
「……どっちがいいんだよ」
「どっちも」

 笑ってそう答えるノラの顔が、あまりにも素直でまっすぐで、靖一の心のどこかがやわらかく溶けていくようだった。

***

 海に着くと、ノラは助手席のドアを開け、黙って車を降りた。
 それまでの無邪気さが嘘のように、一言も発さずに波打ち際へ向かう。潮風にさらされて柔らかく揺れる髪、その向こうにある横顔は、どこか遠くを見ているようだった。
陽射しを浴びた頬のラインが淡く光って、笑ってもいないのに、どこか微笑んでいるように見える。
静かで、触れたら壊れてしまいそうで、まるで硝子細工のように美しかった。
 靖一は、胸の奥をそっと掻きむしられるような気持ちで、その横顔を見つめていた。

「俺が死ぬ時は、海で死にたいな。波に流されて、遠くまで行けそう」

 ふとノラの口からこぼれたその言葉に、怒りとも悲しみともつかない感情が胸の奥に押し寄せて、喉の奥が詰まった。靖一が何も返せずにいると、それを察したように、ノラは続けた。

「海ってさ、空とつながって見えるよね。ほんとにどこかで空とつながってるんじゃないかな」

 わざと軽く言うその調子が、逆に哀しくて、靖一は「そうかもな」とだけ答えた。
そして二人で、並んで浜辺を歩いた。

***

 車に戻り、「じゃあ、もう帰るか?」と口を開こうとしたとき、ノラが横からそっと囁いた。

「ねえ、靖一。ラブホテル行かない?」
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