鎖でつないで、ここにとどめて

青埜澄

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12話

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「で、ここで一体なにがしたいんだ?」

 靖一はラブホテルの一室、大きなベッドの縁に腰掛けながら腕時計を外した。

「エッチだよ。ラブホテルだもん」

 ノラは小悪魔っぽく笑った。つやのある唇と細められた目が、まるで挑発しているようだった。その笑みに飲み込まれそうになる。靖一は平静を装うため、わざと冷たく言い返した。

「……そうじゃなくて、家でもできるだろ?」
「家じゃできないことやるんだよ」

 ノラは立ったまま、真っ直ぐな声で言った。

「今日は俺が主導権握って、靖一は何も考えないで気持ちよくなってもらうだけ。どう?」
「どうって……」

 そんなことを考えていたのか、と思う。自分のことを「気持ちよくさせたい」なんて言われるのは、どこかむず痒くて、同時に胸の奥がざらつく。

「気持ちはありがたいけど、俺は……相手を支配してるって感覚がないと駄目なんだ。誰かにされるって状況だと、どうしても……勃たない。というか、気持ち悪くなる」
「そっか。……わかった。じゃあ主導権は靖一に譲るよ」

 あっさりと折れるノラに、逆に動揺する。優しさなのか、それとも駆け引きなのか。靖一は言葉を濁しながら立ち上がった。

「ああ……先にシャワー浴びてくる」

 シャワーを浴びながら、靖一はぼんやりと考えていた。ノラの気持ちを無下にしたくはない。だが、自分の嗜好もまた、否定できない。どうすれば──。

 体を拭きながら部屋を見渡すと、ベッドサイドに「コスチュームレンタル」の案内が目に入った。数分後、彼はある一点に目を留め、「これだ」と確信した。

 ノラがシャワーから上がると、靖一は小さな袋を手渡した。

「ほら、これ着ろよ」

 ノラが袋の中を覗くと、中から出てきたのはレースのついた黒いメイド服だった。

「やだよ……これ、女物じゃん……」

 眉をひそめながらも、ノラは服をまじまじと見つめた。その様子がいつになく慎重で、ちょっと面白い。

「それ着るなら、今日はノラに主導権渡してやる。どうだ?」

 言葉を聞いて、ノラの動きが一瞬止まった。そして数秒の沈黙ののち、小さな声で言った。

「……じゃあ、着る」

 現れたノラは、想像以上に似合っていた。肩をすぼめ、頬を赤く染めながら「ほら、やっぱ変だよ」と言ったが、靖一はそれを見るなり、明確な反応を覚えた。

 ノラの方も、それに気づいたらしい。

「……靖一が、なにもできないようにしていい?」
「……ああ」

 返事を聞くと、ノラは備え付けの手錠を手に取り、ベッドのフレームに靖一の片手を繋げた。もう片方も軽く拘束され、身動きが少しだけ制限される。

「これで……逃げられない」

 ノラはメイド服の裾をひるがえし、靖一の上に跨るようにしてしゃがんだ。
 そして両手を使って、靖一の胸元に顔を近づける。

「……ずっとこうしてみたかった」

 そう囁くと、乳首に唇を寄せ、軽く吸い、舌で撫でる。

「……く、っ……」

 くすぐったさに思わず声が漏れる。けれどその姿があまりにも健気で、真剣で、靖一の身体はむしろ熱を帯びていく。

「ちょっと硬くなってきた……可愛い」

 ノラの声に、今度は心臓が跳ねた。
 指が下腹部へと滑り込み、そこにも熱い触れ方で触れてくる。上と下、同時に快感を与えられて、さすがに靖一も息が乱れ始めた。

「……っ、ノラ……」

 呼ぶとノラは顔を上げる。瞳の奥にまっすぐな愛情と欲望が入り混じっていた。
 靖一は舌を突き出し、合図をした。ノラがそこに自分の舌を絡める。湿った音が重なり、息が漏れ、熱が、部屋に充満していく。

「‥‥ん…ふ、っ……ぅん……」

 甘ったるく、粘り気のある口づけの最中、靖一はふいに手錠の鍵を抜き取り、片方だけを外した。

「えっ……?」

 驚いたノラに、靖一は反対の手で頭を掴み、ぐっと自分の下へ押し倒した。
 いつもの癖のように静かに、でも確実に力を込めて身体を支配する。

「ノラ。……主導権、返してもらうぞ」

 そう低く囁いて、ベッドのスイッチを消した。部屋がほんのりと赤く染まる。
 これから先は、ノラの身体がどこまで耐えられるか──それを試す時間だ。

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