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7話 夢のつづき
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日曜日の昼下がり。
隆がやって来たのは、母が仕事に出ていて僕ひとりきりのタイミングだった。
「へえ、慎の部屋って感じ」
隆は部屋に上がるとそんな感想をもらした。どういう感じなのかは聞けなかったけど、たぶん片付いてる方だと思う。昨日念入りに掃除したし。
テレビゲームをしながら、僕たちはたわいもない話をして笑いあった。前より自然に会話ができている気がした。隆の隣にいるとなんとなく、呼吸がゆっくりになる。
しばらくしてゲームに飽きたのか、隆は「ちょっと休憩」と言って僕のベッドに腰を下ろした。
僕も一緒になって横に腰を下ろしたその瞬間、心臓がドクンと音を立てた。
あの夢が──隆に後ろから抱きしめられた、あの夜の夢がまぶたの裏に蘇る。
「あのさ、この前……隆、夢に出てきた」
ぽろっと口をついて出た瞬間、心臓が跳ねた。
なに言ってんだ僕……そんなこと言わなきゃいいのに、言ってしまってから焦る。
「えー、なにそれ。どんな夢?」
隆は興味津々って顔で、のんびりした口調で訊いてくる。
「……ぎゅって、されてた」
しばらく沈黙が流れた。
うわ、終わった。絶対変なヤツだと思われた。頭が真っ白になって無難な嘘が思いつかず、黙ってしまうよりはと正直に言ってみたものの……消えてしまいたい……。
「どんな感じで?」
「……バックハグ、みたいな……」
視線を落としたまま言うと、ベッドがぎしっと軋んだ。
次の瞬間、背中にふわりとあたたかいものがふれた。
「こう?」
隆の腕がゆっくりと僕の体を後ろから包む。
声にならない音が喉の奥から漏れた。まるで夢の続きにいるみたいだった。やさしい温度と、柔らかくてくすぐったい匂いと、耳元に近い呼吸の音。
心臓が、すごい速さで脈打ってる。
「……かわいい」
隆がぽつりと呟いた。
くすぐったい。その言葉が薄い膜となって僕の体をふわりと包んだ。
「……ねえ、隆はいつも僕のこと、そういうふうに言ってくれるけど。それって、僕のこと……どう思ってるの?」
自分で聞いておきながら、心臓がどくんと跳ねた。何かを期待してしまった自分に気づいて、息を飲む。
「ちいかわみたい」
隆の返事は、少し間をおいて、そんな言葉だった。
「えっ、人間ですらないじゃん……」
前も聞いたような言葉に思わず素で突っ込んだ。「なんだよ、それ」そう思った気持ちがほんの少しだけ、声に混じる。
でも隆は楽しそうに笑って、
「ぎゅってしたくなる」
そう言って、抱きしめる腕の力を強めた。
「……っ、痛っ、痛い痛いッ!」
僕は勢いよく隆の腕から逃れる。隆は「えー、そんなに?」と肩をすくめて笑った。
僕もつられて笑いながら、でも心臓がまだバクバクしてるのをごまかすように、わざと大げさに肩をさすった。
「慎は細いから力入れるとすぐ痛がるよな」
「隆が力強すぎるんだよ……ゴリラかと思った」
「ひど!」
軽口を叩き合いながらも、目が合うと僕らは、ふいに視線をそらした。
テレビ画面の中で、放置されたゲームのキャラクターが退屈そうに足を踏み鳴らしている。
隆が「あー、もう一回やる?」と何でもないみたいな口調で言った。
「うん……」
僕も即答するけど、コントローラーを握る指先が微妙に汗ばんでいた。さっきよりも少しだけ隆の方に近づいて座ってみる。
ゲームが始まって、キャラクターたちが騒がしく動き出す。いつも通りの対戦モード。
でも、さっきまで僕を抱きしめていた腕がすぐ横にある。隆に近い方の腕がそれを意識する。チリチリと。
隆がやって来たのは、母が仕事に出ていて僕ひとりきりのタイミングだった。
「へえ、慎の部屋って感じ」
隆は部屋に上がるとそんな感想をもらした。どういう感じなのかは聞けなかったけど、たぶん片付いてる方だと思う。昨日念入りに掃除したし。
テレビゲームをしながら、僕たちはたわいもない話をして笑いあった。前より自然に会話ができている気がした。隆の隣にいるとなんとなく、呼吸がゆっくりになる。
しばらくしてゲームに飽きたのか、隆は「ちょっと休憩」と言って僕のベッドに腰を下ろした。
僕も一緒になって横に腰を下ろしたその瞬間、心臓がドクンと音を立てた。
あの夢が──隆に後ろから抱きしめられた、あの夜の夢がまぶたの裏に蘇る。
「あのさ、この前……隆、夢に出てきた」
ぽろっと口をついて出た瞬間、心臓が跳ねた。
なに言ってんだ僕……そんなこと言わなきゃいいのに、言ってしまってから焦る。
「えー、なにそれ。どんな夢?」
隆は興味津々って顔で、のんびりした口調で訊いてくる。
「……ぎゅって、されてた」
しばらく沈黙が流れた。
うわ、終わった。絶対変なヤツだと思われた。頭が真っ白になって無難な嘘が思いつかず、黙ってしまうよりはと正直に言ってみたものの……消えてしまいたい……。
「どんな感じで?」
「……バックハグ、みたいな……」
視線を落としたまま言うと、ベッドがぎしっと軋んだ。
次の瞬間、背中にふわりとあたたかいものがふれた。
「こう?」
隆の腕がゆっくりと僕の体を後ろから包む。
声にならない音が喉の奥から漏れた。まるで夢の続きにいるみたいだった。やさしい温度と、柔らかくてくすぐったい匂いと、耳元に近い呼吸の音。
心臓が、すごい速さで脈打ってる。
「……かわいい」
隆がぽつりと呟いた。
くすぐったい。その言葉が薄い膜となって僕の体をふわりと包んだ。
「……ねえ、隆はいつも僕のこと、そういうふうに言ってくれるけど。それって、僕のこと……どう思ってるの?」
自分で聞いておきながら、心臓がどくんと跳ねた。何かを期待してしまった自分に気づいて、息を飲む。
「ちいかわみたい」
隆の返事は、少し間をおいて、そんな言葉だった。
「えっ、人間ですらないじゃん……」
前も聞いたような言葉に思わず素で突っ込んだ。「なんだよ、それ」そう思った気持ちがほんの少しだけ、声に混じる。
でも隆は楽しそうに笑って、
「ぎゅってしたくなる」
そう言って、抱きしめる腕の力を強めた。
「……っ、痛っ、痛い痛いッ!」
僕は勢いよく隆の腕から逃れる。隆は「えー、そんなに?」と肩をすくめて笑った。
僕もつられて笑いながら、でも心臓がまだバクバクしてるのをごまかすように、わざと大げさに肩をさすった。
「慎は細いから力入れるとすぐ痛がるよな」
「隆が力強すぎるんだよ……ゴリラかと思った」
「ひど!」
軽口を叩き合いながらも、目が合うと僕らは、ふいに視線をそらした。
テレビ画面の中で、放置されたゲームのキャラクターが退屈そうに足を踏み鳴らしている。
隆が「あー、もう一回やる?」と何でもないみたいな口調で言った。
「うん……」
僕も即答するけど、コントローラーを握る指先が微妙に汗ばんでいた。さっきよりも少しだけ隆の方に近づいて座ってみる。
ゲームが始まって、キャラクターたちが騒がしく動き出す。いつも通りの対戦モード。
でも、さっきまで僕を抱きしめていた腕がすぐ横にある。隆に近い方の腕がそれを意識する。チリチリと。
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