木村先輩と僕

青埜澄

文字の大きさ
8 / 12

7話 夢のつづき

しおりを挟む
 日曜日の昼下がり。
隆がやって来たのは、母が仕事に出ていて僕ひとりきりのタイミングだった。
「へえ、慎の部屋って感じ」
 隆は部屋に上がるとそんな感想をもらした。どういう感じなのかは聞けなかったけど、たぶん片付いてる方だと思う。昨日念入りに掃除したし。
 テレビゲームをしながら、僕たちはたわいもない話をして笑いあった。前より自然に会話ができている気がした。隆の隣にいるとなんとなく、呼吸がゆっくりになる。

 しばらくしてゲームに飽きたのか、隆は「ちょっと休憩」と言って僕のベッドに腰を下ろした。
僕も一緒になって横に腰を下ろしたその瞬間、心臓がドクンと音を立てた。
あの夢が──隆に後ろから抱きしめられた、あの夜の夢がまぶたの裏に蘇る。
「あのさ、この前……隆、夢に出てきた」
 ぽろっと口をついて出た瞬間、心臓が跳ねた。
なに言ってんだ僕……そんなこと言わなきゃいいのに、言ってしまってから焦る。
「えー、なにそれ。どんな夢?」
 隆は興味津々って顔で、のんびりした口調で訊いてくる。
「……ぎゅって、されてた」
 しばらく沈黙が流れた。
うわ、終わった。絶対変なヤツだと思われた。頭が真っ白になって無難な嘘が思いつかず、黙ってしまうよりはと正直に言ってみたものの……消えてしまいたい……。
「どんな感じで?」
「……バックハグ、みたいな……」
 視線を落としたまま言うと、ベッドがぎしっと軋んだ。
次の瞬間、背中にふわりとあたたかいものがふれた。
「こう?」
 隆の腕がゆっくりと僕の体を後ろから包む。
声にならない音が喉の奥から漏れた。まるで夢の続きにいるみたいだった。やさしい温度と、柔らかくてくすぐったい匂いと、耳元に近い呼吸の音。
心臓が、すごい速さで脈打ってる。
「……かわいい」
 隆がぽつりと呟いた。
くすぐったい。その言葉が薄い膜となって僕の体をふわりと包んだ。
「……ねえ、隆はいつも僕のこと、そういうふうに言ってくれるけど。それって、僕のこと……どう思ってるの?」
 自分で聞いておきながら、心臓がどくんと跳ねた。何かを期待してしまった自分に気づいて、息を飲む。
「ちいかわみたい」
 隆の返事は、少し間をおいて、そんな言葉だった。
「えっ、人間ですらないじゃん……」
 前も聞いたような言葉に思わず素で突っ込んだ。「なんだよ、それ」そう思った気持ちがほんの少しだけ、声に混じる。
でも隆は楽しそうに笑って、
「ぎゅってしたくなる」
 そう言って、抱きしめる腕の力を強めた。
「……っ、痛っ、痛い痛いッ!」
 僕は勢いよく隆の腕から逃れる。隆は「えー、そんなに?」と肩をすくめて笑った。
僕もつられて笑いながら、でも心臓がまだバクバクしてるのをごまかすように、わざと大げさに肩をさすった。
「慎は細いから力入れるとすぐ痛がるよな」
「隆が力強すぎるんだよ……ゴリラかと思った」
「ひど!」
 軽口を叩き合いながらも、目が合うと僕らは、ふいに視線をそらした。

 テレビ画面の中で、放置されたゲームのキャラクターが退屈そうに足を踏み鳴らしている。
隆が「あー、もう一回やる?」と何でもないみたいな口調で言った。
「うん……」
 僕も即答するけど、コントローラーを握る指先が微妙に汗ばんでいた。さっきよりも少しだけ隆の方に近づいて座ってみる。
 ゲームが始まって、キャラクターたちが騒がしく動き出す。いつも通りの対戦モード。
 でも、さっきまで僕を抱きしめていた腕がすぐ横にある。隆に近い方の腕がそれを意識する。チリチリと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

猫と王子と恋ちぐら

真霜ナオ
BL
高校一年生の橙(かぶち)は、とある理由から過呼吸になることを防ぐために、無音のヘッドホンを装着して過ごしていた。 ある時、電車内で音漏れ警察と呼ばれる中年男性に絡まれた橙は、過呼吸を起こしてしまう。 パニック状態の橙を助けてくれたのは、クラスで王子と呼ばれている千蔵(ちくら)だった。 『そうやっておまえが俺を甘やかしたりするから』 小さな秘密を持つ黒髪王子×過呼吸持ち金髪の高校生BLです。

きらきらしてる君が好き

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
冴えない一般人である齋藤達也«さいとうたつや»は、夢を見た。それは幼い頃、友人であった柊湊«ひいらぎみなと»と交わした約束の夢。 「一緒にアイドルになろう」 早々に夢を諦めていた達也は感傷的な思いを抱きながら、友人の樋口凪«ひぐちなぎ»にアイドルのライブへと誘われ、奏«そう»というアイドルの握手会に参加する。 「ったつやくん……!?」 アイドルである奏の口から飛び出したのは、彼が知るはずもない自分の名前で── 青春BLカップ参加作品です。

坂木兄弟が家にやってきました。

風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。 ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。

雪色のラブレター

hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。 そばにいられればいい。 想いは口にすることなく消えるはずだった。 高校卒業まであと三か月。 幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。 そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。 そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。 翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

処理中です...