生徒会長・七原京の珈琲と推理 学園専門殺人犯Xからの手紙

須崎正太郎

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第十三話 十月二十九日――秋の夕暮れ、推理の果て

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 家に帰り、外出したことを報告すると、両親からは「なにを考えているんだ」とさんざん叱責された。

 怪我も治っていないのに、またXから狙われるかもしれないのに。ごもっともである。返す言葉がない。

 それでも高千穂翠が同行してくれたことを話すと、母親は少し安心した顔を見せたが、父親はいっそう怒り、

「一緒にいるときにまた狙われたらどうする。今度は翠ちゃんがやられるかもしれないんだぞ。そこまで考えたのか」

 と指摘された。
 まったくである。
 ぐうの音も出ない。

 ただ、高千穂翠の力がいまの僕には必要だった。彼女が淹れてくれたコーヒーがあれば、彼女が隣にいてくれたら、僕は推理力を存分に発揮することができる。そして事件を必ず解決できる。確信があった。高千穂翠が僕には必要なのだ。

 とはいえ、両親の心配ももっともなので、僕は翌日も学校を休んだ。
 だが、足の痛みはほとんど引いていた。
 その上、昼休みの時間帯に、ウグ先輩から、

『里村君から、会ってもいいという連絡が来たよ。午後四時に里村君の家に集まらないかい。副会長も連れていくよ。佐久間君にも声をかけておこうか?』

 そんな連絡が来た。
 僕はちょっと考えて、返事を送った。

『そうしましょう。副会長と佐久間君の件も、よろしくお願いします』

 笑顔の顔文字が返ってきた。



 ウグ先輩から里村君の住所が送られてきたので、タクシーを使って移動したが、彼の家は安曇学園のほぼ裏手にあった。四階建ての、それもエレベーターのないアパートの四階だったので、少し不安だったが、足が痛むことはなく、上りきることができた。

 里村君と僕は、話したことがない。
 高千穂翠もそうらしい。佐久間君は去年、同じクラスだったらしいが、親しくはなかったとのことだ。

 つまり、ある程度、接点があったのはウグ先輩だけだった。
 この人、本当に顔が広いな。

 里村君の家は、2LDKの平凡な家で、両親は共働きで不在だった。そこへ僕ら四人はドヤドヤと乗り込んで、挨拶もそこそこに、

「里村君、ずばり聞くけれど」

 すぐに話題を切り出した。

「永谷先生が殺されたとき、君は猿田君と、もうひとり。誰と一緒にいたんだ?」

「……友達だよ」

 里村君は、僕から目を背けながら答えた。

「友達だろうね。それはそうだ。その友達は誰なのかと聞きたいんだ」

「聞かれると思ったけれどな。友達としか言いたくないよ。言っておくがXとは無関係だぜ。本当に無関係だ」

「はっはっは、無関係かどうかは、名前を聞かないと分からないじゃないか。教えておくれよ、里村君。私に免じてさあ」

「そう言われても、その友達に迷惑がかかるかもしれないし……」

 これじゃ話にもなんにもならない。
 なんのために僕らと会ったんだ、と言いたくなる。
 そのときだ。「ちょっと失礼」と言った高千穂翠が、カバンからマグボトルを取り出して、フタを開けると僕に差し出してきた。ホットコーヒーだ。それも高千穂翠が淹れてくれたものだ。香りで分かる。僕はグイッと一口飲んで、

「里村君。君には迷いがあると僕は見た」

「なに?」

「本当になにもかも突っぱねる気なら、僕らと会うはずがない。今後の動きをどうするべきか、里村君自身も迷っている。怯えていると言ってもいいかもしれない。じゃあ、なにに怯えているのか? Xか? 違う、君はきっと、警察に怯えている」

「いや、それは……」

「僕の推理を聞いてくれないか。永谷先生の事件が起きたあの日、君と親友の猿田君は、安曇学園の前で友達と待ち合わせをしていた。それも校外の友達だ。あの外部犯と報道された人物は、まさに君たちの友達だったんだ。

 ところが、君たちが校外の友達と会ったまさにそのころ、永谷先生の殺人事件が発生した。しかもそのタイミングで君たちは、偶然にも安曇学園から出ていってしまった。まるで逃げるように。実際には、先生の殺害とはなんら関係がなかったのだけれど」

 一気呵成に推理をまくし立てる。

「か、会長。相変わらず、すごいですね。コーヒーが入ると」

「まるでヤクだね。さすがの私も少し不安になってきたよ」

「すみません。副会長の作ってくれたコーヒーを飲むと、特に頭が回ります」

「ありがとう、かな? 褒め言葉だよね、それ」

「もちろん」

「なんなんだ、お前ら……」

 里村君は呆れ顔になった。
 だがやがて、ふーっと大きく息を吐くと、負けたとばかりに手を挙げて、

「そうだよ。ほとんど生徒会長の言うとおりだ。あの日、オレと猿田ともうひとり、オレの友達《ツレ》は学校の前で会う約束をしていた。ところがオレと猿田がちょっとだけ待ち合わせ時間に遅れたんだ。友達は短気だからさあ、しびれを切らして、校内に入ってきやがったんだ。バカだろ? 他校のくせに学校の中に入ってくるなって言いたいよ。まあ、入ったといっても校舎の入り口までだったけどな」

「外部犯とされる人物が防犯カメラに写ったのは、そのときのことだね?」

「そうだ。そのせいでオレと猿田と友達は、校門のあたりで軽くケンカみたいになってさ、友達は『せっかく会いにきたのに』って怒って、ひとりで学校の外に出ていったんだ。まあまあそんなことでケンカはやめようぜ、しょうもない……ってなって、オレと猿田も、あとを追って学校から出たんだよな。その直後に、殺人事件が起きたってわけだ。事件を知ったのは翌日だったけれどな」

「じ、じゃあ、猿田君も里村君も、事件とはまったく無関係、なんですね?」

 佐久間君が震える声で聞いた。
 里村君は、うなずいて、

「そうだよ。けれど、他校の生徒を校舎内に入れたってなったら、面倒くさいだろ。ただでさえオレと猿田は、髪型の校則違反が多くて先生に睨まれてるからな。しばらく黙っておいたんだが、そこへあの防犯カメラの外部犯騒ぎだろ。オレも猿田も、オレの友達もやべえってなってさ。特にオレの友達なんて泣いちゃってさ。自分はXだと思われてる、捕まる捕まる、警察が怖いって怯えたんだよ。だからオレたちは、とにかく黙っておこう、真面目に学校生活送っておこうってなったんだ」

「泣いたのかい? その友達が?」

「里村君。その友達って、彼女だろう?」

 僕が言うと、里村君はちょっと照れたように笑って、

「はは、本当にすげえな、生徒会長は。実はそうなんだ。恥ずかしいから友達、友達って言っていたけれどな、実は他校にいるオレの彼女なんだ。猿田が見てみたいって言うからさ、それじゃ会わせてやろう、それで三人で遊ぶかってなったんだ」

「やっぱりそうか。うちのクラスの陰山恋奈さんが、前に言っていたんだ。里村君のほうは最近、他校に彼女ができたって。ただの男友達なら、そこまでかばうのは考えにくい。彼女だろうと思ったんだ。テレビじゃ、ズボンを穿いていたから外部犯は男だと言っていたけれど」

「ああ、彼女、スカートが嫌いな子なんだよ。だから制服もパンツスタイルなんだ」

「そうか、そうだよね。ズボンのほうが好きな子もいるよね。そうか……」

 高千穂翠が、僕の隣で何度もうなずく。

「自分の彼女が泣いているんだ。なんとしても守らなきゃいけないでしょ。そんなわけでオレと猿田は黙ってたんだけど。……でも、猿田が殺されて。オレ、Xは許せないけれど、じゃあなんでXが猿田を殺したのか、ホント、わけが分からなくなって。もうこうなったら、動かないほうがいいのかもしれねえって、彼女とも話して、当分引きこもっておくことにしたんだよ。オレが隠れていたのはそういうわけだ。……これでいいですかね、鵜久森先輩」

「うむうむ。なるほどね。ありがとう。これで事件の謎がひとつ解明されたよ。なあ、会長」

「ええ。Xとは無関係だったことが、関係があるように見えてしまった。それが混乱のもとだったんです。Xも手紙で否定していましたけれどね」

「生徒会長。ここまで来たら、お前、Xの正体が分かってるんだろう? 教えてくれよ。Xを捕まえないと、猿田も浮かばれねえよ。猿田はなんであんな、ティッシュで息さえできないような、えぐい殺され方をされなきゃならなかったんだ」

「Xの正体は、まだ……。あとひとつ、確証がない。ただ、猿田君がどうして、あんな殺され方をしたのかは分かる。あれは犯行時刻をごまかすためなんだ」

「犯行時刻?」

「ああ。猿田君がXによって地面に貼りつけられ、ティッシュを鼻に詰められたのは間違いない。だが、そうされた時間が分からない。登校した直後にXにやられたんだと思うけれど、確証がない。午前七時四十分かもしれないし、午前八時十分かもしれない。あるいは一時間目が終わった直後かもしれない。

 ただ、あの方法はXも怖かったと思う。ティッシュで鼻を詰めて殺すという方法は不安定だからね。もしかしたら死なないかもしれない。猿田君が死なないうちに、誰かが屋上にやってきて、猿田君を発見したら大変だ。

 だからXは、朝、ティッシュを猿田君の鼻に詰めたあと、屋上に出るドアをテープで貼りつけておいたんだよ。猿田君の遺体が発見されたとき、僕も犯行現場を見たけれど、ドアにテープの痕がついていた。あれはドアに強力粘着テープを貼って、開かないようにしておいたんだろうね。ついでにそのとき、貼ったテープの上に『修理中、開けるな』みたいな貼り紙でも貼っておけば、仮に誰かが屋上ドアの前に来たって、テープを剥がそうとはしないだろう。

 そのあとXは昼休みにでも、そっと屋上にやってきて、ドアのテープと貼り紙を外してまた屋上に出る。そして猿田君が死んでいるのを確認したら、テープはそのへんに放り出し、作っておいた手紙を屋上に置き、『修理中、開けるな』の貼り紙だけは回収して、ビリビリに破いて捨ててしまう。こんな貼り紙程度なら、学校のゴミ箱から見つかっても大したことはないからね。ああ、もちろん、すべての作業は指紋がつかないようにビニール手袋をつけてやったんだろう」

「そのビニール手袋はどこに行ったんだ? それとXは猿田と登校したときに、雨合羽を着ていたよな?」

「確かに、その合羽も行方不明だねえ。事件直後に警察が校内を捜査したときは、手袋も合羽も見当たらなかった。会長、第一の事件では血まみれ、第二の事件では雨で濡れた合羽とビニール手袋だ。いくら折りたたんだとしても、隠すのはちょっと難しいんじゃないかい?」

「それなんですがね。……ひとつだけ考えがあるんですが、まだ証拠が足りません。これについてはいったんまだ、保留としておいて、猿田君の事件に戻りましょう。そう、Xは昼休みあたりに屋上に着て、間違いなく猿田君が死んでいるのを確認し、現場の後始末をするとその場を去りました。それで……」

 僕はさらに言葉を継ぐと、

「あとは掃除時間に、生徒に猿田君の遺体を発見させれば計画通り、という寸法だ。猿田君はいつ、屋上に貼り付けられたのか。ティッシュを鼻に載せられたのはいつか。呼吸困難で死んだのはいつか。午前中のどこかだろうとは推測できますが、はっきりとした犯行時刻は分からない。……犯行時刻が分からないから、あのとき学校にいた誰かが犯人なのは間違いないけれど、誰が犯人なのかは分からないわけだ。

 Xの思考パターンはすべてこれだ。安曇学園の生徒が怪しい。限りなく怪しい。そして怪しんでほしい。自分は生徒だと手紙で言ってるくらいだからな。犯人は安曇学園の生徒だと思ってほしい。けれど自分が逮捕されるのだけは嫌だ。そういう思考回路なんだ」

「な、なんなんだい、その考え方。Xは安曇学園のみんなに、どんな恨みがあるんだい。どんな育ち方をしたら、そんな摩訶不思議な思考をするんだい。全然、分からないよ」

「だからXも言っているんですよ。これはもう、共感力とか想像力の問題だって」

 僕は大きく息を吐いて、

「Xだけの考えがあるんです。永谷先生への恨み、猿田君への恨み、さらに恨みを超えた感情があって、そのなにかを原動力に動いている。僕が襲撃されたのも、きっと僕がそのなにかにとって邪魔になったからです。それがなにかさえ分かれば、Xの正体を完全に見抜くことができるんですが」

 そのときだった。
 場の空気を切り裂くように、ウグ先輩のスマホが鳴った。
 先輩はさっさっさと流れるような動きでスマホを捜査し、液晶を眺め、一瞬、眉間にしわを寄せた。

「どうしたんですか?」

「学校にいる友達から知らせが来たよ。またXの手紙だ」

 その場にいた全員の顔が、凍りついた。
 ウグ先輩が、スマホを僕ら全員に見せてくれる。

 先輩のスマホに、友達が送ってきたというXからの手紙の画像が映っている。ウグ先輩に送る前に教師や警察に連絡してくれ、と言いたいが、生徒たちも不安でいっぱいなんだと思った。学校の中に殺人犯がいるかもしれない現状、ウグ先輩のように、事件発生時のアリバイが明らかで、人望もあるひとにまず連絡がいくのも心理として当然だ。先輩のスマホに映っているXからの手紙は、

『どうだ、どうだ。生徒会長も、もう学校に来なくなった。やられた、やられた、生徒会長もやられてしまった! もうおしまいだ! 会長だけじゃ終わらない! 誰も彼もが血まみれだ! 最初に殺された永谷のように、背中は裂かれ、腹はぶち抜かれ、四十二本のカッターナイフで滅多刺しだ!

 ああ、これで犠牲者は何人になったと思いますか? Xももう、こんなことをしたくはありません。しかしいまのあなた方を見ていると、殺さざるをえないのです。もう動くのをおやめなさい。

 生徒諸君、あとはただ、押し黙って、日々を勉学のためのみに費やしなさい。私を捕まえるなんて、そんな考えはおよしなさい。あとは警察でもお任せなさい。安曇学園専門殺人犯Xは、心からそれを望んでいるのだから!!』

 激烈なテンションで書き殴られた手紙。
 パソコンで書かれた文章なのに、Xの異様な内面が、文面全体に醸し出されている。

『そしてこの事件の犯人である私は、生徒諸君がまったく動かなくなれば、最後の目的を遂げたことを知るのです。なぜなら、この私が犯行を繰り返した最大の理由、それは諸君の未来を奪うことにある。友情を永遠に消滅させることにある。

 諸君。Xの正体をお分かりかな。分からないだろう。隣にいる僕かもしれない、後ろにいる私かもしれない、Aかもしれない、Bかもしれない、Cかもしれない、いいやXだ、殺人犯Xだ。大笑いである。まさか諸君、自分の友達や、クラスメイトや、先輩や後輩や、部活動仲間、恋人、片思いのあのひとならば、Xではないとお思いだろうか。

 Xである。みんなにXの可能性がある。Xはどこにでもいる。怖がりたまえ。生徒の誰もがXの可能性があるのだ。恐怖したまえ。そしてそしてそしてそして、友情を断ちたまえ。誰にも心を許すな。誰もが殺人犯かもしれないと思え。一生、思え。三年生はまもなく卒業、逃げ切ることができるだろう。だが安曇学園から離れても、あなたはもう友達とは会うことができない。なぜならその友人は殺人犯かもしれないから。会うな、会うな、一生会うな。安曇学園の人間とはもう会うな。Xかもしれない人間とは会うな。すべての友情はXが終わらせる。すべての人間関係はXが終わらせた。

 生徒諸君。君たちの繋がりは、永遠にXが断ち切ったのだ!』

「X、八通目の手紙、か」

 ウグ先輩はため息をついて、

「解決しない限り、このお手紙地獄はずっと続くんだろうね。三年生は間もなく卒業、逃げ切ることができるって、そりゃそうだけどさ。嫌だよ、こんな気分で学校を卒業するのは」

「会長。Xは誰なの。証拠はないの?」

 高千穂翠が、切れ長の瞳で僕を見つめてくる。
 僕はくちびるを噛みしめた。Xの正体。あと一歩、というところでつかめない。なにか、見逃したところはないだろうかと、事件のことを思い出そうとして、

「そうだ、佐久間君。生徒会の記録と一緒に、Xのこと、記録していたよね。あれ、どこに置いてある?」

「え。……はあ、それなら、生徒会室にあります、けれど」

「佐久間よ、一年生のときから思っていたんだけれど、なんで同学年のやつにも敬語なんだよ。普通にしゃべれよ、普通に」

「いいじゃないか、里村君。それが佐久間君なんだから。それよりもXの記録、生徒会室にあるって?」

「は、はあ。記録というか、手紙の画像をプリントアウトして、順番に並べただけですが」

「構わないよ。それをいまから見に行こう」

「いまから? 会長、足は大丈夫なの?」

 副会長に驚かれたが、僕はとにかく事件解決に向けて動きたかった。

「Xを許せないんだ。八通目の手紙なんて、こんなにはしゃぎ回って」

 さっきの鵜久森先輩の言葉も原動力となった。
 先輩を悲しい気持ちで卒業させるわけにはいかない。
 Xの思い通りにさせてたまるかと、僕はそう思うのだ。

「行こう。学校の生徒会室へ」



 僕ら四人。
 つまり僕、高千穂翠、ウグ先輩、佐久間君の四人は安曇学園に向かった。
 幸いというか、里村君の家は学校のすぐ裏だったので、五分とかからずに到着することができた。

「Xの手紙を順番にまとめたものが、このクリアファイルの中にあります。ここに、あの、さっき見つかったという八通目の手紙も印刷して、く、加えましょうか?」

「うん、頼むよ」

 午後五時半。
 安曇学園の生徒会室には、秋の夕暮れの光が射し込む。
 佐久間君は、ウグ先輩からXの手紙、八通目の画像を生徒会室のパソコンに送ってもらうと、その画像をプリントアウトした。

「で、できました」

 僕は佐久間君から、Xの手紙の画像を印刷したものを貰った。
 なるほど、手紙の画像が順番に並べてある。



・1通目 九月二十三日 【この学校の人間である私が、安曇学園専門殺人犯Xの私が、永谷を殺しました。】

・2通目 十月三日 【実に大騒ぎになりました。次から次へと警察、警察、また警察。あんなにパトカーが校門の前に十台もやってきて。殺人事件なんだから当然ですがね。】

・3通目 十月七日 【いま私はたまらなく幸せです。永谷が死に、学園に平和が訪れた!】

・4通目 十月八日 【昨日のニュースをご覧になりましたか、みなさん。見ていないのならネットでもなんでも確認するがいいでしょう。】

・5通目 十月八日 【昨日のニュースを見たのですか、みんな見ましたか。あんなのは出鱈目です、私はまったくあずかり知らぬことです。知らない。】

・6通目 十月八日 【私は本当にどこからでも現れて、ひとを殺すつもりです。殺すべき人間をバァーッとやります。】

・7通目 十月二十一日 【私は間違いなく学校関係者です。ずっとそうです。今回の事件もそうです、猿田来夢は死に値する人間でした、だから殺した、殺してやった】

・8通目 十月二十九日 【どうだ、どうだ。生徒会長も、もう学校に来なくなった。やられた、やられた、生徒会長もやられてしまった! もうおしまいだ! 会長だけじゃ終わらない! 誰も彼もが血まみれだ!】



 どれも見覚えのある文面だ。
 この中の二通目、パトカーについて記した部分が、Xの命取りのひとつとなった。カッターナイフが美術室から盗まれたものと見せかけて、実はただ隠しただけだったことが分かった。

 つまり。
 生徒会の面々で行った、あの事件の時間検証は意味をなさなくなった。
 あのときは、犯行は教師の仕業かもしれないと思っていたが、違う。Xも自分で言っているが、犯人は学生なのだ。

 その上で、Xの正体を考えねばならない。
 動機。犯行可能な立場。証拠。どこかに必ず、穴があるはずだ。

「会長。いま淹れたよ」

 高千穂翠が声をかけてきた。
 いいコーヒーの香りだ。生徒会室のケトルでコーヒーを淹れてくれたらしい。

「コーヒーの粉も淹れる道具も、持ってきていてよかった」

「ありがとう。副会長のコーヒーを飲めば、百人力だ」

「鵜久森先輩と、佐久間君は?」

「ん、サンキュー。じゃあ戴こうかな」

「はあ、だったら、ぼくもいただきます。ありがとうございます」

 高千穂翠からコーヒーを貰う、ウグ先輩と佐久間君。
 僕はそんなふたりを、じいっと見つめて、さらに佐久間君が用意してくれたXの手紙の画像をじっと見つめ、コーヒーを口に入れる。

 頭がすっと冴えてきた。Xの手紙が、佐久間君が並べた画像が、これまでに知った事実が、頭の中で何度も何度も回転を始めて――九月二十日から始まった手紙の数々、この手紙はなんのためにあったのか。なにを訴えたいのか。いやそもそも文章だけじゃない、どこかにXがXであるなによりの証拠、Xにしかできないなにかはないか、そう思いながらファイルを何度も何度も、穴が開くほど見つめ回して、



「……っ……!!」



 ぞくりときた。
 唐突に僕は、ある疑問にたどり着いた。
 Xの文章ばかりに目がいっていて、気が付かなかった。

 そもそもどうしてこれは。
 あのときあのひとは、なぜあんな言葉を口にして。

 まさか、まさか、まさか。
 まさか……。

「会長、分かったの? Xの正体が」

 高千穂翠が、じっと僕を見つめてくる。
 僕は、十秒間、無言のまま。頭の中で考えを整理した。恐ろしい勢いで脳が回った。やがて、すべての謎と自分の思考が符合して、間違いあるまいという結論に達した。達成の喜びなんか無かった。ただ雷鳴にも似た、形容しがたいエネルギーのようなものが背筋を貫いていた。

「会長。誰なんだい、Xは。まさか私たちの知っている人間かい?」

「残念ながら、そういうことになります」

 僕がそう言った瞬間、生徒会室に緊迫の空気が作られた。
 夕陽がいっそう眩しく、部屋中を照らす。黄金にも似た秋の気配を感じながら、僕はくちびるを動かした。

「この一連の事件を巻き起こした、学園専門殺人犯X。その正体は――」
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