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11:ここで一度、婚約破棄からの流れを振り返りましょう
しおりを挟むそのまま、私は王妃様の苦労が偲ばれる文章に目を走らせると、最後の一文があまりに衝撃的なことが記され、一度は見なかったことにしようとしてしまい、二度見したがそれを見て思わず苦笑しているお母様を見たあと、さらに三度見までしてしまった。
「は?」
その様子にお母様は諦めと呆れが含まれた苦笑を浮かべた。
「…どゆこと?」
末尾の一文、それは「無事離縁が成立したので、ミリエッタと共にマリナーレに向かいます」。
両親によって決められた政略結婚が貴族の結婚では主流のアガリスタでは、妻を蔑ろにして姦通を繰り返す夫や嫁姑問題で離縁したい場合に、教会の中に極秘で離縁を相談できる部署があり、離縁妥当の判断が出なければ調査は表にはでない。
また訴えたあとは自己責任になるが、離縁妥当の判断が出れば訴えられた側は訴えた側への交渉が禁じられ、街中で離縁した妻に引き取られた息子に声をかけただけで逮捕された男性がいる。
制度を整備したのは、周りが王家至上主義で苦労が多かった王妃様だが、まさかその制度を自分が使って離縁するとは…いや、もしかして自分が離縁するために整備したのかな?
そのあと届いたミリエッタ・ジュレミー様からの手紙も参考にするとどうやら王妃様は実家の侯爵家に戻り、マリア・サンダース侯爵令嬢としてミリエッタ商会の商品開発広告分野の顧問としてマリナーレ王国でのミリエッタ商会の拡販に務めるらしい。
…ミリエッタ様も王妃様改めマリア様も商売するのにマリナーレに来るとか、急遽とはいえ仮にも国王陛下の婚約者になった私の名前使う気満々なんじゃない?
とりあえず、陛下と同世代の令嬢たちは主に高位貴族同士で結婚しており、残っている未婚の令嬢もミリエッタ様のようにお仕事をしていたり貴族家の唯一の跡取りとして婿探しをしていて急に出てきた国王陛下に興味がない、さらに平民の間ではなぜかアガリスタは極端な王家至上主義であると知られておりそんな王太子から婚約解消された私の存在はマリナーレの平民からも概ね好意的に受け入れられている。
不思議な話で、男女の権利の差に敏感なマリナーレ王国は、圧政を引く国王より善政を引く女王という感覚があるらしく、アガリスタの女性は「男尊女卑の中頑張る女性」という目で最初は見られ、その後は本人に振る舞いで本人を見るという、移民も受け入れられやすい土壌がある。
まぁ、私を逮捕した行政官のような貴族至上主義、国粋主義的な貴族はいるにはいるのは確かだけども。
例えばマリナーレの伯爵令嬢だった私が陛下に婚約解消されて(いや、一度会っただけだけど、マリナーレの国王陛下はそんなことしないとは思うけど、仮にされたとして)、アガリスタに逃げたら(最も逃げる先として男尊女卑の酷いアガリスタには多分行かないけど、仮に行ったとして)、多分アガリスタ王国は難民として平民並みの扱いしかしないだろう。
マリナーレは逃げてきたノウゼン伯爵一家を、夫人の実家の子爵家で当主が病を得たとはいえ、子爵代理として受け入れた上、アガリスタで王妃教育を受けた私を評価して、子爵家を陞爵して王妃にしてくださるなど、アガリスタの常識とはなんなのかというくらい先進的な国だと思う。
閑話休題。
とはいえ、アガリスタの王妃教育受けた私ですら先進的だと思うんだから、マリナーレはかなり先進的な国だ。
とりあえず私が婚約解消されてから起こったのは、
白雪姫様が王太子殿下の婚約者になった
白雪姫様の王妃教育がうまくいかず王妃殿下が教育係を降りる
白雪姫様の教育があまりに低レベルで結婚式伸び伸び
結婚式ができないことをアガリスタ国王陛下と王太子殿下から王妃様に苦情が入る
王妃様マジギレ
王妃様教会に離縁を申し出
王妃様ミリエッタ商会入り
王妃様、お母様に手紙
王妃様、ミリエッタ様がマリナーレに来る意向を固める
…というところか。
いや、王妃様悪くない、絶対悪くない…。
白雪姫様に一目惚れしたからと甘やかす王太子殿下と、その王太子殿下を甘やかして王妃様を責めるアガリスタ国王陛下が悪い、間違いなく。
多分、アガリスタ国王陛下は慌ててると思う。
なにしろ王太子殿下にも甘いのは勿論のこと、実は王妃様にゾッコンでもある。
…前世にあったなぁ、バスルームに口紅でメモ残して家から出ていくヒット曲。
まぁ、王太后様はすでに鬼籍に入って久しいけども。
だけど息子が振った元婚約者のところに行くのはギルティなんよ。
いやまあ、多分あのまま王宮入ってたら、国王陛下・王太子殿下vs王妃様・王太子妃(これ私)になってたでしょうけど。
王太子殿下には何も感じてないし、王妃教育の講師である王妃様の方が思い入れがあるし、ほとんど関わりのなかった国王陛下なんて言わずもがな。
一つ懸念があるとすると、どうやら黙ってこちらに来そうだから、国家間の話し合いが拗れると戦争やらなにやらが起きちゃうことかな。
「流石にそれは、まずいか…」
「どうかした? キャシー?」
考えていたことが口に出ていたらしく、お母様が不思議そうな顔をした。
「いえ…このお手紙を見る限り、王妃様の離縁も家出も、国王陛下の意には沿っていないので、マリナーレに王妃様が来たら、マリナーレとアガリスタの国益を損なうのではと…」
「それを気にできるか…やはり君は王妃の器だな」
「!?」
二人しかいないはずの茶会に、明らかにお母様の声ではない声がしたので、私はビクッとなる。
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