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16:クーデターの立役者
しおりを挟む陛下が図書館に入ってきたことに気づかなかった、これは私(と同じく気づかなかった侍女たち含めて)が悪い、それは認める。
ただ、いきなり私たちに話しかけた上、その発言内容は反則ではないかと思うわけですよ、ええ。
「陛下の…叔父様…?」
そう言って私は目の前の老紳士を見たが、彼は柔和な微笑みを絶やさず、眉だけ下げて困り顔を作っているだけだった。
「早いの、エドワード。
仕事はいいのか?」
「図書館に婚約者が向かったと聞いたので、共に読書でもしようと来たまでです。
そうしたら、叔父上が婚約者と戯れていると聞きまして、急いで参上したまでです」
「あの…あ、えと、私、陛下の婚約者になりましたキャシー…」
「キャシー・バッキローニ侯爵令嬢、元アガリスタ王国のノウゼン伯爵家の令嬢で王太子の婚約者だったが婚約を解消、両親と共に母の実家に子爵代理令嬢として入ったが、そこをマリナーレ国王・エドワード3世に見初められ、国王の婚約者となる、とこんなところかな?」
すらすらと老紳士が私の情報を出した。
「…ご存じだったのですね。
はい、キャシー・バッキローニと申します、えと…」
「そうか、自己紹介がまだだったな。
私はレスリー・ラミル、国王陛下に引っ張り出された二代前の国王の弟じゃ。
元は隠居しとったのだが、相談役として現役復帰をした。
いやはや、エドワードも人使いが荒いわい」
「いやいや、私を国王などにしたのはあなたでしょう」
なんと。
落胤扱いされていた陛下を国王に押し上げたのはこの方なのか。
「確かに、君の母が産後の肥立の悪さで亡くなり、君も死産ということにして乳母になる予定だった女性を連れ、私の家のメイドと共に君を育てたのは、虎視眈々と王妃と国母を狙っていた前王妃に対するクーデターを起こすつもりであったことは認めよう。
そして、私はすでにこの年、君の父も前王妃の苛烈な性格にやられて満身創痍、そして君の父と前王妃の間に生まれたあの娘も、もはや王族には似つかわしくない性質を持っておる…保護しておいた君以外に、王を任せるに値する王族はおらん。
君は私の養子になっているから王族ではあるしな」
んー…なんか重い話になってきた。
というか、陛下の父と前王妃の子供って、白雪姫様だよね…「王族に似つかわしくない性質」って、そんなに言い切れるほど前王妃と国に血縁ができるの嫌なのかなぁ。
それにしても、命を落とした前国王陛下の最初の妃様の忘形見を大切に育ててくれたのが、この大叔父様は…感謝しかないですね。
「それを言われると弱いが…いやいや叔父上。
一応王族とはいえ、結婚すらしていない叔父上の縁戚だからと養子に来た私は怪しいことこの上ない存在ですが?
匿われるように育ててもらったおかげで、前王妃をクーデターで追放した上で前国王の直系の王子である私が即位できたのはマリナーレとしてはよかったとはいえ、世が世なら叔父上は王位の簒奪者ですよ?」
「バカなことを言いなさんな。
あの前王妃が存在せず、また前国王が病に倒れなければお前は私の大公位の後継者だっただけじゃよ。
まぁ、あの前王妃がいなければお前は王太子だっただろうがな」
なるほど、件の前王妃がいなければ陛下は王太子になった上で国王、前王妃がいて前国王陛下が病にならなければ白雪姫様が女王でエドワード陛下は大公、そして前国王陛下が病を得たから王太子にならずに国王位…しかも後ろ盾は大公のラミル閣下と。
考えてみれば、エドワード陛下が国王になる可能性はかなり高かったわけだ。
まぁ…もし前王妃が存在しなければ白雪姫様をアガリスタ王太子が見初めず、私はあのままアガリスタの王妃になってたかもしれないけど…あー、なんかやなこと思い出した。
アガリスタ王国での日々が全て悪いことばかりかというと決してそうではないけれど、こと王妃マリア様絡み以外で王家が関係することはだいたい嫌な思い出しかない。
むしろ婚約解消に関してはこれ以上ない解放感があったなぁ…あれが一番いい思い出かも…。
「どうかしたかね、バッキローニ嬢。
何やら難しい顔をしとるが」
「いえ…エドワード陛下が国王になって、よかったなと…あと、アガリスタ王国であった少し嫌なことを思い出しまして」
「そうか。
あの国は古来からの男尊女卑の国だからな。
マリナーレは王妃が亡くなったあとに、前王妃でもチャンスを奪わない国だからな。
君の出身がアガリスタの伯爵家だったのは確かだが、マリナーレで実績のなかった君をエドワードの婚約者にできた上、貴族国民から受け入れられたのも、その国民性であると私はおもっておる」
なるほど。
お母様の新しいもの好きと懐の深さは、マリナーレ生まれだからこそってことか。
後で聞いた話だけど、貴族達は前王妃との繋がりを持たないように白雪姫様の婚約者として自身の息子を差し出したがらず、ほとんどの者は早めに婚姻を結んだらしい。
前王妃様、嫌われてますね…。
そんなわけで陛下とラミル閣下がクーデターを起こした頃には、適齢の令嬢が全くおらず、そこにアガリスタから結婚適齢期、王妃教育を受けてる私が来たから、こっそり人柄を調査されていたらしい。
バッキローニ侯爵家でこれを知っていたのは当主夫妻である義伯父様・伯母様、代理夫妻こと元ノウゼン伯爵夫妻の4人だけで、使用人はもとより行政官にも知らされていなかったらしい。
なるほど、それでアガリスタからの移民でポッと出の私達一家を怪しんでいた行政官は、王家が呼び出したと聞いて怪しい一家が不法移民だと思ったわけか。
伯母様とも上手くいってなさそうだったしなぁ、あの行政官。
兎にも角にも、私は概ねマリナーレ王国では好意的に受け入れられているらしい。
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