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17:ミリエッタ・ジュレミー、マリア・サンダース、人呼んで「アガリスタ包囲網」<バッキローニ侯爵代理夫人・キャシーの母視点>
しおりを挟む「申し訳ありませんな、夫人。
急な話で」
「いえ…あの娘がなにか…?」
キャシーがラミル公爵と会っていた頃、しばらく王城に滞在しているキャシーの母、バッキローニ侯爵代理夫人はリンガル子爵に内密の話があると手紙を受け取り、訪問を受けていた。
「いやいや、キャシー嬢にはなんら問題はありません。
王妃教育はほぼ終わっているというのは過言ではなく、正当な評価なんだと思った次第ですよ」
近衛騎士としてリンガルはキャシーの母に、偽らざるマリナーレ王国でのキャシーの評価を伝えた。
とはいえ、アガリスタという男尊女卑の国で育ったキャシーに対し、国王陛下と婚約が噂されるや、「最低の王妃が、最高の王妃を連れてきたかもしれない」という吟遊詩人の歌までできるのは予想外だが。
しかも、マリナーレからアガリスタ王国に嫁入りしたことで、耐え忍ぶ人生を送ると思われた、キャシー母の評判も良い…これに関しては嫁入り先のノウゼン伯爵やその父母がかなり配慮してくれたため、地獄とは思えない幸せな暮らしだったが、王都の茶会や夜会でマリナーレ出身を揶揄する連中がいたため、そこだけは頭の痛い問題だった。
もちろん、持ち前の魔力の強さで、相手の不幸を願うくらいのことはしたが…それをノウゼン伯爵家の義母からアガリスタとしては男性に媚びない女性の扱いはだいたいこんなものと言われて、マリナーレに戻るのを虎視眈々と狙っていたらしい。
「そうですか…では、私に何か…?」
「はい…実は…」
リンガルはそう言って件のアガリスタ国王からの手紙を見せた。
その瞬間、キャシー母の顔が曇り、次第に怒りの表情を作った。
「これは…」
まぁ、怒るだろうなとリンガルも思って見せたのだが、流石に表情が変わりすぎだ、と気付かれないよう苦笑する。
「はい…端的に言えば、キャシー嬢を返せ、という脅迫ですね。
こちらにきてあれよあれよと国王陛下の婚約者になり、評判は上々、対してアガリスタに行った姫様の王妃教育がすすまないとの情報もあり、アガリスタ国王としても焦っているのでしょう」
「本当どうしょうもない国だわ…」
頭を抱えてしまったキャシーの母にリンガルは「ちなみに」と続けた。
「実はアガリスタのミリエッタ・ジュレミー公爵令嬢と、マリア・サンダース侯爵令嬢にもご相談はしているのですが…」
それを聞き、キャシーの母はハッと顔をあげる。
顔に曇りは一切なかった。
「…まぁ、頼もしい援軍ね。
お二人の反応は?」
嬉しそうにキャシー母はリンガルに笑いかけた。
リンガルはそれを見て悟る。
「…ご想像に難くないかと」
「まぁ、そうよね。
王妃様…いえ、マリア様は言わば王家の良心…家庭内野党になることも辞さなかったし、ミリエッタ様は一筋縄ではいかない大商会の商会長。
さらに、ミリエッタ様の姉で、マリア様の義妹であるメリー・サンダース侯爵夫人もいれば流石のアガリスタ国王も口出しできない完璧な布陣ね」
「…」
リンガルは、なるほどと思った。
アガリスタは男尊女卑の国とのイメージだが、それを利用して、男性を矢面に立たせ、裏から支えるように見えて操っている優秀な女性もいるのだと、そして王妃が離縁して大商会の商会長とともにマリナーレで活動を始めたことで、アガリスタ王家の悪い部分が出てきたのだ、と。
「…リンガル子爵様。
この手紙について、国王陛下に…できればマリア様かミリエッタ様を交えて、謁見を申し込みます」
あの馬鹿王子の婚約者として過ごした無駄な数年を、再度味合わせないため、キャシーの母は決心した。
リンガルもそれを汲み取り、「ぜひ、こちらからもお願い致します」と言って、その部屋を辞した。
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