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18:王城の違和感<アガリスタ王国王太子視点>
しおりを挟む一方アガリスタでは。
王太子は白雪姫の王妃教育が上手く行ってないらしいと聞き及んでいた。
しかも最近、母である王妃を見かけない…王太子に激甘な父上と違って、キャシーを気にかけ王太子に小言が多かったため、王太子は王妃を見かけないのは幸甚だと思ってはいるが。
しかし、王妃教育というのは王妃がやるはず…とそこで王太子は、あぁ、なるほど、白雪姫の王妃教育がうまくいかなかったから、不貞寝でもしてるのか、と不敬なことを考える。
なにしろ相手は隣国の王女だ。
きっと完璧で無敵な王女である白雪姫のマナーを見てマリナーレの格の高さを知ってショックを受けて、うまくいかないと王妃教育を投げ出したのだろう。
…とまぁそんなことを考えながらふと今日はその母上の王子教育の日だったななどと思う。
王太子自身が小言を言われないよう、最近めっきり少なくなった王妃と顔を合わせなければならない義務の日なわけだが、最初は週に一度だった王子教育も月に二度になり、最近は月に一度になっており、しかも前回は理由なくサボった挙句白雪姫といちゃついていたこともあり、親子であるはずの二人が、他に誰もいない中で顔を合わせるのは2ヶ月ぶりになる。
ちなみに今日、白雪姫はアガリスタ史の家庭教師が来る日で、アガリスタ出身ではない白雪姫に最低限かつ唯一必要と王太子が認めさせられた勉強の日であるため、白雪姫とは過ごせない。
そのため、特にやることも思い浮かばなかった王太子は王子教育を受けることを思いたち、王妃の部屋に向かう。
「…?」
しかし、侍従を従えて部屋に向かうが、王妃がいない。
「…マイク、母上は?」
王太子が侍従のマイクを振り返り尋ねると、彼は不思議そうな顔をする。
王太子が失礼なやつだ、などと思う間もなく、マイクは「王妃様ですか? いらっしゃいませんよ?」と事も無げに答えた。
「は?
今日は王子教育の日だろう。
緊急の案件でもあるのか?」
「…いえ、そういうわけでは」
「だったらなぜ母上はいない?
私が王子教育を受けにきたというのに」
少しイラついて声を荒げると、マイクは口籠る。
これでは埒が開かないとおもい、舌打ちをした後で吐き捨てる。
「お前では話にならん。
宰相を呼んでこい」
「は、はい!」
全く、使えない侍従というのは困りものだ…王太子は頭を抱えた。
程なくマイクが宰相の侯爵を連れて部屋に入ってきた。
王太子は当初、誰が入ってきたのか分からなかった…宰相はそれほど窶れているのは一目瞭然だ。
「殿下、お呼びとのことですが…」
ひどく疲れた声で宰相が口を開く。
「あ、ああ、すまないな宰相…いや、だいぶ疲れているところ重ねてすまない。
今日は王子教育の日のはずだが、母上がいらっしゃらない。
行方を知らんかと思ってな」
それを聞いた途端、宰相の目に一瞬怒りの感情を浮かべたが、すぐに呆れたような口調になった。
「王妃様は、王城にはいらっしゃいません。
ご実家のサンダース侯爵ならご存じかもしれませんがな」
「は?
里帰りか?
病気でも患ったか?」
あの、責任感の塊の王妃が、病気でもないのに里帰りするなど考えにくいが…そう思いながら王太子が聞き返すと、宰相はさらに疲れたような顔で頭を抱えた。
「王妃様は、陛下と離縁なさいました」
「…宰相、それはなんの冗談だ?
母上が離縁?
そんなまさか…」
この国の価値観として、王家に嫁ぐことはこの上ない誉であり、離縁など不敬として処罰して然るべしという貴族すらいる。
「…信じられないとおっしゃるなら、陛下にお尋ねされては?
では、私は王妃様が担当されていた仕事をやらねばなりませんので」
「あ、ああ…」
宰相はそう言ってさっさと踵を返していった。
「ワシは認めとらん!
マリアが教会の連中とグルになって、勝手をしておるだけだ!」
王太子が離縁の件を聞きに来ると、アガリスタ国王陛下は、不機嫌そうに当たり散らした。
ちなみに、王妃の侍女と護衛以下サンダース侯爵家から派遣されていた使用人も揃って引き上げられ、王城の使用人は
2/3ほどの人数になっていた。
一応、国王と王太子につく侍従は減ってはいないが、特に侯爵家が斡旋を得意としている料理人とメイドを中心にかなりの数が減っている。
そういえば最近、廊下を掃除するメイドの服装が前より質素になっていたな、などと王太子は思い出す。
それもそのはず、以前は、王家の目に触れるからと良家の令嬢を集めていた王城の清掃を担当するハウスメイドや洗濯をするランドリーメイドは、人数を減らしたことで王族や客をもてなすパーラーメイドに回され、清掃や洗濯は経験の長い平民出身の下女がこなすようになり、国王や王太子の目にも触れるようになった、というわけである。
つまりは人手不足である。
しかも、貴族家は子息はともかく、隣国の前王妃の呪いのせいで子女が不足していて、高位貴族家の嫡男がこぞって子爵令嬢と婚約を結び、次男以降にはまだ人数が揃っている男爵令嬢と婚約する状況で、空前の男爵令嬢ブームといわれている。
その中でも爵位でしか人を見られない公爵家が嫡男こそ子爵令嬢と婚約できたものの、次男が男爵令嬢との婚約を嫌がり、勝手に婚約破棄したために家から追放されるという事件もあった。
彼は平民落ちした後、娼館に金を持たずに行って「俺は公爵家の次男だ、ツケにしろ」と宣い、ツケはできないと言った娼婦に怪我をさせ、それを聞いた娼館の主人(街の元締めの弟で、武道の心得あり)から、男娼になるかこの場で殺されるか選べと凄まれても、「俺に手を出したら公爵家が黙っていない」と吐き捨て逃げようとしたが、すぐり捕まり、しかも男娼にできるような性格でもなかったため、娼館の地下にある牢にぶち込み、娼館主は領主の伯爵経由で公爵家に連絡するもそんな男は知らないとけんもほろろに言われたらしい。
その後は、翌日川の下で発見されるまで暴行されたようで、男性機能が潰れているという痛ましいが誰もが自業自得と思う姿で無縁仏として処理されたらしい。
ちなみに彼から婚約破棄された男爵令嬢は、伯爵家の嫡男に嫁ぎ、幸せに暮らしている。
閑話休題。
とまぁ、そんな状況で、婚約破棄は殺人の次に重い刑罰を科される犯罪と指定され、婚約者選びは慎重を極めるようになった。
そんな中、従来は結婚に箔をつけるために王城の使用人として行儀見習いをするような貴族家の令嬢には、黙っていても良縁が転がり込むという状況で、誰も応募しない中で、サンダース侯爵家が輿入れと王妃の安全を守るために送り込んだ使用人がいなくなり、少ない使用人をやりくりしている。
ちなみに、サンダース侯爵家に引き上げられた使用人は、別の貴族家に派遣され、同じく行儀見習いの減った貴族家で重宝されている。
つまり、致命的な人手不足なのは王城だけで、他の貴族家はサンダース侯爵家のおかげで人手はなんとかなっている。
結果として、王妃が離縁したことでサンダース侯爵家の痛手はほとんどなく、むしろ大きなプラスになった。
長年にわたる王家至上主義、高位貴族第一主義から脱却できなかったアガリスタ王家は、人手不足という形になって歪みが襲ってきた。
それに気づかないのはその至上主義に乗せられ、甘えていたこの親子のみである。
「はぁ…お前がキャシー嬢と婚約解消してから何もうまくいかん…そうなれば、だ」
アガリスタ国王はふと目の前を見た。
「お前、キャシー嬢を連れ戻せ」
「…は?」
「キャシー嬢を連れ戻せば、それを出汁にマリアを連れ戻そう、そうだ、それがいい」
一人でアガリスタ国王はつぶやく。
「父上、では白雪姫は…」
急に盛り上がり始めた父に、王太子は不安そうに聞く。
王妃教育が進んでいるとは言え、ほぼ教育が終わっているキャシーが戻ってくれば、白雪姫との結婚がなくなるのでは?と思うが、「あんなもの寵妃で充分だ」と吐き捨てられる。
「な、何を言っているのです?
彼女が王太子の婚約者でしょう!?」
「お前、それを本気で言っているのか?
あの姫の王妃教育は全く進んでおらんと言うのに?」
アガリスタ国王が鼻で笑う。
「は…?
白雪姫の王妃教育は恙無く進んでいるのでは?」
「なんの冗談だ?
最高の教師だったマリアがいないのに、なぜ王妃教育が進んでいると?
そもそもあの姫は、マリアの王妃教育がわからないと貴様に泣きついた後、5歳児向けの初等教育をする教師から教育を再度始めて、ようやく学院初等科の勉強が終わるところだ。
王妃教育が始まるまででもあと数年はかかる。
貴様はその間、王太子に甘んじるつもりか?」
さすがの王太子も開いた口が塞がらなかった。
「貴様が王位につくには、せめてキャシー嬢を連れ戻して正妃とし、あの姫は寵妃にして、王国の仕事が回るようにしろ!
王家としてせめてそのくらいは当たり前だ!
私がいいたいのはそれだけだ!」
そう言うが早いか、王太子は国王執務室から追い出された。
「なんだ、父上は…白雪姫の王妃教育をスタートすれば良いだけの話ではないか…しかし、キャシーか…」
王太子はふと婚約解消をあっさり受け入れた時のキャシーを思い出す。
なかなかに可憐な美人ではあった…高位貴族家に娘がおらず、仕方がないとは言え伯爵家からの婚約者とはいえ、ほとんど会うこともなく、王太子は顔すら曖昧にしか覚えていない婚約者だった。
幾度となく王妃マリアに諌められたが、どのみち結婚すれば嫌でも顔を合わせるからと会わずに過ごしていたのを後悔させられた。
婚約解消してすぐに隣国マリナーレの母の実家で子爵代理になる元ノウゼン伯爵について国を渡り、そのままマリナーレ国王に見初められたとか噂されているが、たかだか子爵、しかも代理である他国の貴族家から抜け出した令嬢が大国マリナーレの国王に見初められるなど、ありはしないと王太子は思っている。
とすれば…と王太子は、アガリスタ王国史の授業の終わった白雪姫にしばらく留守にすることを伝えて、旅支度を整え始めた。
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