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24:元婚約者が騒いでいました。
しおりを挟む「キャシーに会わせろ!
キャシーに話をすればすべてわかっているはずだ!!!」
あーもう聞かないで済むと思ったんですけどねぇ、この傲慢な声。
私はたまたま王宮に来ていたご婦人方に紛れ、遠巻きに騒ぐ元婚約者を眺めていた。
なんだろう、聞き慣れたアガリスタ共通語なのに、意味がわからない…いや、内容を理解はしている、ただそれは私には受け入れられないことばかり。
触らぬ神に祟りなし。
一眼見たし、上に戻ろう、そう思った時だった。
「キャシー、キャシー!! 来てくれたんだな!」
呼ばれたら仕方ない。
私は心底嫌な顔で振り向くしかなかった…。
そしてそこにはまったくもってみたくない顔、そうアガリスタ王太子がいた。
私は大きく一つため息をついてから、彼に向き直る。
「ごきげんよう、アガリスタ王太子殿下。
私に何か?」
「こ、この状況で、『何か?』だと!?
俺を助ける以外何があるんだ!?」
城の護衛に捕まりながら横柄な態度を崩さず、元婚約者は私を睨んだ。
「お断りします。
私は今、マリナーレ国王陛下の婚約者ですわ。
治安を乱す方を解放?
ご冗談でしょう?」
「っ!!」
「きゃあ!!」
それは、私の油断だったのかもしれない。
私が彼を助けられない理由を述べると、彼の顔が変わった。
そして彼は騎士を振り払い、私の方に突進してきた。
私は彼にのしかかられて転んだ。
その時だった。
キン! キンキン…
私のドレスの脇あたりに短刀が落ちる。
「…キャー!」
エントランスの階段上にいた野次馬の次女の悲鳴がした。
「罪人がバッキローニ侯爵令嬢に刃を向けたぞ!」
騎士が叫ぶと、目にも止まらぬ早業で、私に距離を取らせて彼を拘束して、喚くのも構わず地下牢に連行していった。
(まずい、あれを…)
私はそのまま騎士団に連れて行かれ、二階に上がったところでとあることに思い当たったが、"それ"があるのはすでに阿鼻叫喚、右往左往の現場の最中。
テラスに戻っても、それが気がかりでお茶に集中できなかった。
<リンガル子爵視点>
「陛下、件の王太子に鎮静剤を与えてようやく静かにさせました」
「そうか。
まぁ、バッキローニ侯爵領で狼藉を働いたうえで、王城で騒ぎを起こしたんだ、しばらくは牢ぐらしさせよう。
あの短剣をどこで調達したかは?」
なんだろう、この違和感は…
自分の婚約者が襲われたというのに、目の前のこのマリナーレ国王陛下はなぜこんなに落ち着いているのか…。
そんな違和感を抱きながら、私は報告を続ける。
「不明です。
むしろ、あんな短剣は見たこともない、俺の持ち物ではない、の一点張り…」
それを聞いた瞬間、陛下の顔がふっと緩んだ。
「そうか、それは良かった」
良かった?
あの短剣は、今回の狼藉の証拠だ。
あのアガリスタ王太子がキャシー嬢を害そうとした証拠…それを自分のものではないという供述が、なぜ良いことになる…?
私の頭にはいくつもの?マークが出ている。
「陛下、それは…」
「失礼致します、陛下、キャシー様がお話があると申されております」
なぜそんなに落ち着いているかを問おうとした私を遮ったのは、渦中のキャシー嬢と、彼女が参加していた茶会を任せた騎士の1人の来訪だった。
「キャシー、よく来たね。
大変なことになって申し訳ないな」
「…いえ、私は大丈夫なのですが…その…あの」
なにやら、キャシー嬢が口籠る。
「ああ、"アレ"なら回収したよ。
すぐに渡せず、申し訳ないね」
その瞬間に、こわばっていた彼女の顔が少し緩んだ。
「…失礼ながら陛下、アレ、とは…?」
「あ、ああ…リンガル、"アレ"はね、彼女のものだよ」
アレ? 彼女のもの?
何もわからないというのが顔に出ていたのだろう、陛下がおかしそうに私に言った。
「珍しいね、リンガルがこんなにわからない顔をするのは…アレだよアレ、例の短剣だよ」
「は?」
目が点になるとはこのことだ。
どうやら、あの短剣はキャシー嬢のものだということらしい。
「あれはキャシーの懐刀だよ。
婚約した時に見せてもらったんだ。
だからあたかもそれがアガリスタ王太子が持っていて、それでキャシーを害そうとしたという流れになったのが都合が良くてね、利用させてもらったのさ」
しれっと陛下は、件の王太子からキャシー嬢を引き離すために、事故でキャシー嬢の持ち物の懐刀があの場に落ちたことを利用していたことを告白した。
私はそれを聞き、力が抜けた。
「ははは、リンガル、尋問が終わるまで君にも内密にしたくてね」
力なく壁に寄りかかった私に、陛下はさもおかしそうに話した。
なお、キャシー嬢も唖然としている。
「陛下…では私は罪には…」
「罪? なんの罪だい?
君は元婚約者に襲われた被害者だ…しかも二回も。
その結果、一度目は未遂に終わったが二回目は彼女を押し倒しているし、未遂に終わった1回目も君の養母と友人が誘拐までされている。
短剣だって偶然あのタイミングで…いや、例の王太子がぶつかった衝撃で君の袖から落ちただけだ。
立派な被害者、加害者である理由は一つもないよ?」
そう言って陛下は笑う。
「そうですか…」
そう聞くとキャシー嬢はほっとしたようにため息をついた。
それから数日、捕縛されていたアガリスタ王太子の保護者としてアガリスタ国王がマリナーレ王城に到着し、役者がそろうことになった。
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