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しおりを挟む絶妙な焼き加減のバタートーストに、ハムエッグ。添えられたサラダは彩りもよく、室内には芳醇なコーヒーの香りが漂う。
目覚めてから軽く身支度を整え終えた征一郎は、こんなに洒落た朝飯は食ったことがねえなと頭を掻きながら、しかし当然ながら食事は味も見た目もいい方がいいに決まっているので、ありがたくいただくことにする。
向かい合って食べ始めると、ちびが妙に思い詰めた表情で「あの……」と切り出した。
「せ 征一郎……、おれも征一郎の役に立ちたい……!今日は一緒に連れていって」
「……って言われてもな……」
征一郎の組は、黒神会の中でも、他組の荒事を委託で受けるという、少々特殊な仕事をしている。
征一郎の戦闘力と統率力を最大限活かしている、と言えば聞こえはいいが、要するに汚れ役を買って出ているようなものだ。
ただ、進路を考える年齢になったときに、正業に就くことも考えられなかったが、株や金貸し、風俗、ドラッグ、賭博などの所謂ヤクザらしいシノギはやりたいとは思えなかった。
どうするか、と思っていたところ、征一郎に「用心棒でもやったら?」と言ってくれた男がいた。
数年を実家で共に過ごした彼は、今でも相棒のような存在である。
その一言で、やるべきことが見えた。自分が黒神会内のドンパチを引き受けることによって、抑止力になれると思ったのである。
高校卒業後、『自分の忠義は芳秀ではなく征一郎にある』と言ってくれた篠崎と、高校時代に自分を慕ってくれていた仲間で、芳秀に許可をもらい、組を立ち上げた。
つまり、『征一郎の仕事の役に立つ』には、ケンカができることが大前提なのだ。
征一郎はちびに、それをかいつまんで話して聞かせた。
「俺はホムンクルスってのがどんなもんかよく知らねえが……お前はなんか戦闘に参加できるような能力とかあんのか?」
「……………………」
神妙な表情で黙りこんだちびは、すぐにさっと椅子を降りると、周りに何もない場所にてくてくと歩いていく。
もしや格闘技の型でも披露するつもりか、あの小さい体にバトルモードのようなものが搭載されているのだろうか。
固唾をのんで見守る征一郎の前で、真剣な表情のちびは、じわじわと踵同士の距離を伸ばしていく。
やがて百八十度開いた脚がフローリングと平行になり、そのままぺたんと上体を伏せた。
次の展開を待つ征一郎をそのままの姿勢で見上げて、ぽそりと一言。
「からだ……やわらかい……」
格闘家(ではないが)は柔軟さが大事なので、征一郎もそれなりに体は柔らかいがここまでではない。
素直に「すげえな」という賞賛が口をついたものの。
「留守番頼んだぞ」
それ以上のことを言ってやることはできなかった。
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