けなげなホムンクルスは優しい極道に愛されたい

イワキヒロチカ

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 思わず口から洩れた引導に、ちびが『ですよね……』という切ない表情で膝を抱えてしまったので、征一郎は焦った。
「あッ……ああ、いや……。他にはどんなことが得意なんだ?」
「他?他には……掃除とか、洗濯とか、料理とか……」
 指折り数えられた特技に、征一郎は頭を抱えたくなった。
 全て嫁スキルに偏っている。
「芳秀さんがいいお嫁さんになれって」
 想像が正しかったことが無駄に証明されて、いよいよ頭を抱えた。
「あのおっさんはほんとろくなことしねえな……」
 こんな少年を良妻に仕込んで、あの男は何がしたいのか。

「あと夜のお楽しみも頑張るね!」

 何やら自信と期待の漲る瞳で宣言されるが、そちらを頑張ってもらう予定はない。
 ちびが征一郎に好意を寄せているのは、芳秀の洗脳のせいだ。
 この少年とは先日会ったのが初めてで、本当の意味で征一郎が好きなわけではないだろう。
 本気の恋ならば征一郎も相手を問わず、応えるかどうかはともかく本気で応じるが、もともと遊びの相手は作らない主義だ。

「……それは本当に好きな相手ができた時のためにとっとけ」

「征一郎……」
 自分を大事にしろとちびに言い聞かせ、中断してしまっていた朝食を再開する。
 食べることに関心が移ってしまった征一郎は、ストイックさに感銘を受けるちびに…無駄なフラグを立ててしまっていることに、まったく気付かなかった。


 出掛けに玄関で「お弁当……」と保冷バッグを渡され複雑な気持ちにはなったものの、ここは拒否するところではなかろうと素直に受け取って礼を言った。
 靴を履いていると、下がった視界に入った、ちびの素足が目につく。

「お前…買った服どうした?篠崎が置いていかなかったか」

 有名なファストファッション店の紙袋が、リビングの隅の方に置いてあったのが見えた気がする。
 気に入らなかったのかと気遣うと、ちびは心もとない表情でふるふると首を横に振った。
「あの……なんだかもったいなくて」
「お前以外着る奴いないんだから着ねえ方がもったいねえだろ」
「う……うん……でも」
 歯切れが悪いちびに、遠慮はするなと言葉を重ねようとしたところ。

「征一郎のシャツ着てると一人の時も寂しくないから……つい……」

 一人で留守番するアニマルが一気に脳裏にイメージされて、涙腺に甚大なダメージを受けた。
 だが、『うちのホムンクルスが寂しがるから今日はお休み』などと部下に連絡を入れるわけにもいかない。
 玄関ドアに縋り、涙をこらえる。
「なるべく……早く帰る……」
「あッ……で、でも大丈夫だから…!征一郎はお仕事で怪我しないように気を付けて…!」
 心配をかけていることがわかっているのだろう。
 健気な言葉に胸を締め付けられる。

 ……本日も著しく集中力を欠きそうな予感である。
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