けなげなホムンクルスは優しい極道に愛されたい

イワキヒロチカ

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「神導さんはどうして今のお仕事をしてるんですか?」
 ケーキを食べる手を止め、ちびが訊ねると、月華は肩を竦めてやれやれといった表情になった。
「ま、確かにエレガントな僕に極道なんて野卑で野蛮で下品な稼業は似合わないと思うよ」
「………………」
 褒められた稼業ではないのは確かだが、その世界で荒稼ぎしている月華にそこまで言われるのは釈然としないものがある。
 しかしもちろん征一郎のジト目など気にする男ではない。
「うちのメインの資金源は投資なんだけど、僕にはコネクションが世界中にあるし、美しいしパーフェクトな頭脳を持ってるから金も情報も山ほど転がり込んでくるわけ。黒神会はヤクザらしく一番金稼いだ奴が天辺だから、一番若くて美しくて頭がよくて美しい僕が直参中ナンバーワンになるんだ」
「美しい重複してんぞ」
「大事なところだから何度も言ったの」

 実際、この才覚があれば表社会でいくらでも富や名声をほしいままにできるだろうに、月華はあくまで裏の道を歩く。
 それにはきっと、芳秀が月華を家に連れてくることになった原因と関係があるのだろうが、征一郎は詳しい話を本人から聞いたことはない。
 月華は偽悪的に振舞うところはあるが、基本的に仲間のために命を張れる男だ。だから安心して背中を預けることができる。その事実だけで十分だと思っていた。

「つまり普段は薄っぺらい美学の上に張りぼての『男』張り付けてふんぞり返ってる組長クラスの小汚いおっさんどもが、心底見下すような優男でネコの僕に頭下げなきゃなんないんだよ?奴らのあの悔しそうな醜い顔!もー笑いが止まらないよね!堅気の世界では味わえないだろうからさ、これは!」

 あーはっはっは!と無駄に楽しそうに笑う月華を見ていると、少しだけ不安にもなるが。
「…要するにこいつは極道になるべくしてなったっつーことだ」
 この様子を見ていると、本人は似合わないと言っているが天職なのではないかと思う。
 ちびは興味深そうに頷いた。


「そうだ、もう一つお土産があるんだ。土岐川」

 月華がすっと差し出した手に、見計らっていたかのように大きめの紙袋が手渡される。
 黒いスーツを纏う、征一郎を超える長身に整った顔立ち。月華の片腕兼ボディーガード兼執事の土岐川である。
 当然のように月華と共にやってきたので、一緒に座ってはどうかと勧めたが断られ、今まで部屋の隅の方に背景のように立っていた。
 土岐川は、役目を果たすとまた元の位置に戻って微動だにしない。
 変わった奴だなと思っていると、ちびは月華から渡された袋の中身を出して目を輝かせた。
「これは……」

「征一郎の学ラン」

「おい」
 月華の口から放たれた衝撃すぎる真実に、征一郎は思わず突っ込んだ。
「何でお前がそんなもん持ってんだよ!十年も前のもんじゃねえか!」
「いつかマニアに高値で売りつけようと思って☆」
 てへっと可愛く星など飛ばしながら言っていても、内容は全く可愛くない。
「お前にはどんなニッチなマニアに出会う人生設計が!?自分で言うのもなんだがそんなもん買う奇特な輩がどこに」
 つっかかっている征一郎の袖がちょんちょんと引かれて、振り返ると学ランをぎゅっと抱いたちびがやけに真剣な表情で見上げていた。

「か……買います!」

 身近にいたーーーーーーーー!
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