けなげなホムンクルスは優しい極道に愛されたい

イワキヒロチカ

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「あっ……でもおれ、お金持ってなかった……」
 急にしゅんとなったちびを安心させるように「大丈夫」と微笑んだ月華は、征一郎へと向き直る。
「もちろん買ってあげるんだよね?二億くらいでどう?」
 腹の立つくらい綺麗な笑顔で二本の指を示されて、ビシッと青筋が立った。
「馬鹿か!?もともと俺のもんなんだから金なんざ払うわけねえだろ!盗人が猛々しすぎるわ!」
「冗談だよ。お土産だからそれはちび太にあげる」
 まったく油断も隙もない、ろくでもない身内である。

 月華に何度も礼を言ったちびは、大事そうに着古した征一郎の制服を抱えている。
 そんなにありがたがるようなものでもないような気がするのだが、総長の学ラン的なあれだろうか。
 征一郎の母校にそのような伝統のアイテムはなかったが、あったとしても受け継ぎたくはない。
 不思議に思っていると、月華が不穏な一言を付け加えた。

「僕は使ってないから安心して」

「 心 配 し て ね え よ 」

 一体何に使うというのか。
 せめて「着ていない」と言ってほしい。


 この短い時間で、月華はいたくちびを気に入ったようだ。
 後ろから腕を回して、抱き寄せた頭にぐりぐりと頬ずりをしている。
「あーもうちび太小さくて素直でいい子でかわいー。このまま持って帰りたい」
「おい」
 月華から妙な本気を感じて思わず突っ込むと、ちらりと含みのある視線が向けられた。

「何?なんか文句あるの?僕なら在宅なことも多いから征一郎よりずっと一緒にいてあげられる上に、資金も潤沢でいっぱいいい思いもさせてあげられるし、ちび太にもいい話だと思うんだけど?」

 畳みかけられてぐっと詰まる。
 実際、月華とちびを会わせたのは、征一郎にもしものことがあった時に託せる相手だからという目論見があった。
 そもそも、危険の多い自分の傍にはいない方がいいと考えていたのだから、こんな風に言ってもらえるのは渡りに船のはずだ。

「(…………の、はずなんだが、何か……)」

「どうかな?」
「あ……で でもおれは……」
 腕を解いた月華に正面から迫られたちびは、じりじりと征一郎の方まで後退して来ると、人見知りの子のように縋り付いてきた。
 その小さな体から、いっしょにいたい、いさせてほしい、そんな切実で健気な想いが伝わってきて、思わずぎゅっと抱きしめる。

「…………ふーん?」

 この展開をこそ見たかったとでも言いたげににやにやとこちらを眺める月華が目障りで、ヤケクソのように怒鳴った。
「何だよ、言いたいことがあるならはっきり言え!」
「べっつにー」

 月華の掌の上で転がされている気がするが、仕方がないだろう。
 本人が望むならともかく、引きはがしてまで持っていって欲しいと言えないほどには、この少年との生活を快適に感じてしまっているのだから。
 これだから、健気なアニマルは近くに置きたくなかったのに。

 だからな月華。今のところ情が移っただけだから、その近所の見合いババァ的な視線はやめろ!
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