けなげなホムンクルスは優しい極道に愛されたい

イワキヒロチカ

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■都内某所 征一郎宅 リビング 月華帰宅後

「……あいつがうるさくして悪かったな。疲れてねえか」
 ちびのため、という建前ではあったものの、月華を招いたのは征一郎の勝手な判断である。
 月華はあの通り奔放な性格だ。大人しい少年のストレスになっていないかと少し心配だったが、ちびは「ううん」と首を振った。
「おれ人と話すの好きだし、神導さんいい人だったから、楽しかった」
「……ならいいけどよ」
「神導さんって芳秀さんとノリが似てるから話しやすいし」
「……そうか?月華に言ったらきっとすげえ嫌がるなそれ」

 軽く返したが、黒神会では、金儲けの才能がありすぎる月華こそが、芳秀の実子なのではないかというまことしやかな噂もある。
 征一郎からすると大変素晴らしい噂ではあるのだが、当事者に確認したところ、残念ながらそんな事実はないようだ。
 月華は「会長の遺伝子が少しでも混じってるなんて事実があったら僕なら自殺するね!」と宣言していた。気持ちはわかるが、半分受け継いでしまっている征一郎の気持ちも少しは考えて欲しい。
 そんな噂があるくらいなので、ちびが月華に抱いた印象は的外れなものではないが、それが話しやすさに繋がるというのは少しどうかと思う。
 自由すぎる二人から、いらない影響を受けていないといいのだが。

「征一郎」

 呼ばれて振り返ると、学ランが、否、大分サイズの大きい学ランに着られているちびが「似合う?」とキラキラした瞳で見上げている。
 この場合似合うとは一体どういう状態を指すのか。
 似合っているのかどうかはわからないが、否定するところでもないかと、一応頷いておく。
「征一郎、第二ボタン誰にもあげなかったの?」
「ほっとけ」
 要らんことをよく知っているなと苦笑した。
 都市伝説的な慣習だ。卒業式の日、特に欲しがる後輩などは現れなかった。
「……お前にやるよ」
「おれがもらってもいいの?」
「要らなくなったら学ランごとすぐ捨てていいからな」
「ううん……ずっと大事にする……!ありがとう征一郎…!」
 何が嬉しいのか、大層喜んでいるちびを複雑な気持ちで眺める。

「(ニッチなマニア……か……)」

 理解はできないが存在はしていたようだ。

「っとに、まさかそんなもんを回収してとっとくとはな。月華の奴何を考えてるんだか」
 つい文句を口にすると、ちびは微かに瞳を翳らせた。
「どうかしたのか?」
「あの……神導さんは征一郎と仲良くて羨ましいなって……」
「そうか?仲がいいとかそんな風に考えたことはなかったが…あいつとは五年くらい家族同然で一緒に住んでたし、今は組も協力関係で相棒みてーなもんだから確かに関わりは深いかもな」
「……うん」

「けど、それならお前だって、今はここに住んでるし家族と変わんねえだろ」

「え…」
 ちびは虚を突かれたような顔をしたが、彼がそんな風に考えたことこそ、征一郎には不思議だ。
 月華とは、風呂に入ったことも同じベッドで寝たこともない。
 ちびの方がずっと近い距離で生活しているというのに。
「正直な話、さっきあいつに誘われた時、断ってくれて嬉しかったぜ」
「征一郎…………」
 突然ぎゅっと腰に抱きつかれ、どうしたと頭を撫でてやる。
「……征一郎、お風呂一緒に入る」
「あ?お前は突然だな。……今日はもう出かける予定ねえから別にいいぞ」

 あの時咄嗟に、月華のもとへ行って欲しくないと思った気持ちこそが、自分の偽らざる本音なのだろう。
 不安材料は多いが、ちびがそう望み、自分もまた望んでいるというのであれば、一緒にいる方がいいのではないか。
 ほんとに、健気なイキモノには弱いんだっつってんだろ、と内心苦笑しながら、懸命に縋り付いてくるちびの頭を撫でた。
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