21 / 104
21
しおりを挟む■都内某所 征一郎宅 リビング
「今日は時間あるからどこか出かけるか。お前もずっと家にいるんじゃ退屈だろ」
本日もホテルのラウンジのような朝食を有難くいただきつつ、そう提案をすると、ちびは「え……」と目を丸くした後、ぴかっと笑顔を輝かせた。
「いいの…?行きたい…!」
ちびが征一郎のもとへとやってきてもうすぐ一週間になろうとしているが、この少年が「外に行きたい」と訴えたことは一度もない。
恐らく芳秀の屋敷から出たことはなかったと思われるので、外に出るのが怖いのかという心配もあったが、この様子を見るとどうやら違うようだ。
遠慮していたのならばかわいそうなことをした。
稼業柄どんなところにでも行けるというわけではないが、できる限り好きなところに連れて行ってやりたい。
ここで暮らしていくにしても、社会との繋がりを持たせることはやはり大事だと征一郎は考えていた。
「お前はどこか行きたいところあるか?」
「…おれの行きたいところ?」
しばし思案していたちびは、思いついたらしくぱっと顔を上げた。
「征一郎のデートコース……!」
キラキラと期待に満ちた眼差しが突き刺さる。
今までデートにコースなどというものを用意したことはなく、背筋を嫌な汗が流れた。
しかし「そんなもんはねえ」と言える空気ではない。
内心困り果てながらも、了承するほかなかった。
食事と片付けを終えて、とりあえず着替えてこいと指示した征一郎は、ちびの姿が別室に消えるとおもむろにスマホを手に取った。
かけた相手は中々出ないが、しつこくコールし続けると『ちょっと、早朝から何?』という怒り心頭な声が応答する。
早朝といっても八時は回っている。自分と先方の間柄を考えれば、非常識というほどの時間ではないだろう。
「ああ月華、お前の方が詳しそうだから聞きたいんだけどよ、女子供が喜ぶデートスポットってどこだ?」
『はあぁ?デートプランくらい自分で考えてよ大人でしょ!?僕寝たの明け方なんだけど!』
ものすごい剣幕だが、月華はとにかく午前中は寝ていても起きていても機嫌が悪いので、慣れている征一郎は全く気にしない。
「バーだのホテルだのに連れてくわけに行かねえ相手なんだよ。いいから教えろ」
『あのさ、他に女の子をエスコートする場所思いつかないわけ!?』
「女に不満言われたことなんかねえぞ」
『最低!』
僕そういうサービス精神に欠けるお付き合い大っ嫌い!と叫びながらも、この後情報送るからと結んで一方的に電話は切れた。
これですぐに有益な情報が送られてくるだろう。
持つべきものはいい相棒だ。
今は怒っていても、後日ニヤニヤしながら「それで?初デートはどうだったの?」などと聞いてくるに違いない。
「征一郎、これでいい?」
その間にちょろちょろと戻ってきたちびは、おろしたてのロングパーカーを軽く翻して見せた。
褒めてやった方がいい気配を感じ、似合ってるぞと頭を撫でてやると、縁側の猫のようないい顔をする。
それに満足感を感じてしまった自分に、相変わらず「これでいいのか」という気分になるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる