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第五章 囚われの姫と紅の槍

29話 覇王と愚王

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 コルクと同じ色の髪と瞳をした王様がぼく達の事を見ると、ジラルドの方を見て止まった。
そうして信じられないような顔するけどしょうがない気がする……、商王からしたら処刑して死んだ筈の人物が目の前にいるのだから驚くのは当然だ。
コルクも彼の姿を見て口を一瞬開きはしたが、途中で無表情になり置物のようになってしまう。

「商王クラウズ様、この度は貴重なお時間を頂き誠にありがとうございます」
「良い、これも我が国と其方の国の為に必要な事だ、それよりもこの者達は何だ?儂の記憶では貴殿の同行者はゴスペル殿だけだった筈なのだが……」
「彼等とは場内で出会ったのですが……、それに関して大事な話があります」
「大事な話だと……、我が娘との正式な婚約以上に大切な物があるのか?」
「はい……、こちらにいる白い髪の青年ですが、我が国の第一王子である可能性がありますので一度父上に報告する為に本国へ直ぐにでも帰還したい為にこの度の婚約を破棄させて頂きたいと思います」

 ヴィーニ王子がそう言うと、クラウズ王は玉座を叩いて立ち上がる。
その顔には焦りと怒りの感情が色濃く表れていて、彼に余裕が無い事が一目で分かる程だ。

「貴公、それはどういう事だっ!幾らストラフィリアの王子であれどあのような条件を出した後に婚約を破棄だとっ!」
「はい破棄致します、実はこの度の婚約に関しては始めから乗り気ではありませんでした、幾ら成人したとはいえ、私はまだ十歳という未熟な身です……、そのような者がいくら賠償の為とは言え強引にトレーディアスの王女を娶るのは早過ぎると判断致しました」
「それと第一王子が何の関係があるっ!婚約を破棄された場合儂の国はどうなるっ!国民の命はどうなるっ!貴殿の国に侵略されたら滅ぼされるだけなのだぞっ!それにストラフィリアにも少なからず大きな被害が出る事だろう……、ヴィーニ王子は二つの大国の未来を考えた行動をするべきではないのか?」
「その事に関しては、私が父上を説得致します……」
「ほぅ、貴殿の言葉を信じろと?仮に信じたとしよう、その場合ヴィーニ王子はどのように説得するつもりだ?」

 これはぼく達が聞いて良い内容なのだろうか。
仮に全てを聞いてしまったとして口封じの為に殺されるとかもあるかもしれないから、今の内に何とかしてダート達を助ける方法を考えた方が良いかもしれない……、そう思っていると背中から『何かあったら俺があいつらを助けるから、お前は大人しくしてろ』というダリアの囁く声が聞こえる。
どうやら既に眼を覚ましていて、さっきの話を聞いていたらしい。

「はい、まずは対話での説得を行いますが、それが上手く行かない場合は……」
「場合はどうするのだ?」
「父上にはお隠れになって頂き、私が新たな『覇王 ヴィーニ・ストラフィリア』とならせて頂きます」

 お隠れになるって、何処かに隠居するって事だろうか。
それで第二王子が新たな王位に就くって言われても説得力がない気がする。

「……貴殿は、自分が何を言っているのか分かっているのか?いや、分かっていないのだろうな、成人したとは言えやはりまだ心は子供なのだろうよ。その言葉を五大国の王の前で言う事の重大性を理解していないと見える」
「いえ、その言葉の意味を私はしっかりと理解しております、それに今の私なら可能です……、何故ならゴスペルに命令する権限を父上から正式に譲渡されていますので」
「それは貴殿の力では無くその者が強いだけではないか……、他人の能力を自分の物と勘違いするのは止める事だな」
「王となる以上は、配下を上手く使う事も必要な事でそれは私の力そのものです」
「愚かなものよ、ヴォルフガングがその事を聞いたら頭を抱えるぞ?王とは国を守り民を守るものだ、そのような強権を振るえば国民の不満が溜まり、圧倒的な武力を持って国を守り他国を恐れさせる覇王という存在から、何れ守るべき物から討たれる愚王へと成り下がるだろうよ」

 クラウズ王は呆れた顔をしてヴィーニ王子を見ると、今度は諭すような声で彼に語り掛ける。

「ヴォルフガングが何故貴殿を後継者に選んだのかは理解が出来ぬが故に頭が痛くなるが……、先達として教えてやろう、貴殿が反乱を起こして覇王の座に就いたとしても、強き者が正しいとされるストラフィリアの国民は新たな王を歓迎するだろう、だが貴公は政には口を出すのを止め……、摂政として『第一王女 ミュラッカ·ミエッカ·ヴォルフガング』に国を任せるが良い、貴殿が長く王としてありたいのならな」
「……ご忠告痛み入ります」
「だが貴殿の覚悟は理解した、この件はヴィーニ王子が責任を持って対処するがいい」
「良いのですか?」

 ヴィーニ王子が驚いた顔をしてクラウズ王を見るけど、多分この人はこれから王になるかもしれない彼に道を示そうとしたのかもしれない。
現にさっきまでの余裕が無い雰囲気とは違い、今は優しい顔をしているから間違いないと思う。

「良い……、さぁ行くが良いヴィーニ王子よ、貴殿のやるべきことをやるがいい」
「はい、ありがとうございます!、では失礼致しますっ!……ゴスペルこの者達を連れてストラフィリアへ戻りますよ」
「……わかりました」

 ……今何て言った?ぼく達を連れて帰ると言わなかったか。
それは困る、ミントを助けに来たのにそれが出来なくなるのは駄目だ。

「……ヴィーニ王子よ、それは許可出来ぬな」
「それはどういう事ですか?」
「彼等の顔を見るまで忘れておったのだが、実はこの者達は儂の娘が招いた客人なのだよ……」
「第一王子かもしれない彼もですか?」
「その通りだ、彼等は娘の大事な友人でな?貴殿との婚約を祝いに来てくれたのだが、このような事になってしまった以上は詫びの一つもせねば面子が経たぬという事よ……、分かってくれるな?ヴィーニ王子」

 クラウズ王は笑顔をヴィーニ王子へ向けるが、その眼は笑っていない。
まるで断ったら命の保証をしないとでも言いたげだ。

「分かりました。ゴスペル、急いでストラフィリアに帰国致します」
「……わかりました」
「この度は私の我が儘を聞いて頂き誠にありがとうございました、ではクラウズ王私はこれで失礼致します」
「こちらこそ土産の一つも持たせてやりたいがこの通り客人を持て成さねばならぬが故申し訳ない、せめて道中の安全を祈らせて貰おう」
「……ありがとうございます」

……ヴィーニ王子はクラウズ王に向かって頭を下げると早足で謁見の間を出て行くすれ違い様に彼の顔を見たけどその顔はまるで『自分の思い通りにならなかった事』に関して納得が行かないような悔し気な顔をしていた。
そんな彼を見送ると、クラウズ王が立ち上がりぼく達の方へと歩いてくると『確か君はジラルドと言ったかな、何故生きているのか分からないのだが丁度良い、大事な話をしようじゃないか』と笑顔で語り掛けるのだった。
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