幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

文字の大きさ
29 / 58

29

しおりを挟む
 「俺はな?ティナ。結婚式の時、ティナのドレス姿を見るのが楽しみなんだ」
 「私の、ドレス姿?」
 「あぁ」

 本心が惜しげもなく出て行くが、恥ずかしさは感じない。
 何でも暴露してしまいそうだ。

 「とても似合うだろう。可愛いと思う」
 「そうかな」
 「あぁ」

 ティナは顔を赤くし、視線を下にずらした。
 そして俯きながらも、会話を続ける。

 「私に合うドレス、あるのかな」

 自身の胸元に手を置き、不安げに言う。
 サイズ的に、大きな胸が収まるかどうか、心配しているのだろう。

 「街に行けば、きっとあるさ。無いなら仕立てて貰おう。その時は、一緒に買いに行こうな?」
 「うん。うん!一緒に行こうね!」
 「あぁ。約束だ」
 「うん!約束!」

 普段の俺なら、ここまで話を進めるのに、三ヶ月はかかるだろうな。
 いや、もっとかもしれん。
 母のスキルに感謝だな。

 若干、操られている様な、もしくは仕組まれている様な、そんな感覚を感じる。
 だが、ティナとの関係を、大きく前進させる事ができたのだ。
 そこに母の意思が絡んでいようとも、もはや関係無かった。

 俺の本心は止まらない。

 「ティナの花嫁姿、か。そんな姿を見たら、俺は」

 甘いセリフが口を出ようとする。
 流石にそれはと、止めようとした。
 だが、抵抗することは叶わず、スルリと喉を通っていく。

 「きっと、ティナの事を、もっと好きになるんだろうな」
 「もっと?」
 「あぁ」

 俺は、この時点で自分の危機を悟った。
 この『慈愛』スキルが切れたら、恥ずかしさが込み上げて、恥死してしまうのではないかと。

 しかし、どうせなら、やりきってしまおう。

 そう覚悟した。

 あやふやだった物を、確かな物にする為に、俺は口を開いた。

 「ティナ」

 俺の呼びかけに、ティナは目を合わす。

 「どうしたの?」

 真剣な眼差しに、ティナは不思議そうに見つめ返した。
 俺は、覚悟を決めて言った。

 「今まで、ハッキリと言った事が無かったが、改めて言う」
 「うん」

 俺の改まった態度と緊張が、彼女にも伝わり、ティナは表情を硬くした。

 「俺は、ティナの事が一番好きだ。これからも、ずっと大事にする」
 「うん」

 嬉しそうに微笑むティナ。

 「今までは、『許嫁』として接していたが、これからは婚約者として、その時を待ちたい」

 「カイル」

 次の言葉に対して、流石に喉が詰まった。
 いつかは言わなければならない言葉。
 言うなら今しかない。

 行け!
 言ってしまえ!

 羞恥と格闘し、俺のことを潤んだ瞳で見つめるティナに向けて、言った。

 「俺と、結婚して欲しい」

 言った!言ったぞ!

 俺は自分の口で、正式に求婚した。

 今までは、互いの両親が結託して決めていた『許嫁』という関係。
 決して嫌だった訳ではないが、周囲に流されていただけの自分に対して、いつかケジメをつけたかった。
 その想いが、背中を押してくれたんだろう。

 「嬉しい」

 そう言うとティナは、自身の顔を両手で覆い、泣き出した。

 「嬉しいよ。でも」

 でも?

 喜んで受け入れて貰えると思っていたが、彼女の口から出た否定の言葉に、背中がヒヤッとする。
 まさかの『お断り』をされるのか。
 そんな不安を抱いた。

 その続きを、ティナは顔を上げ、話し始める。

 「本当に私でいいの?」

 俺はホッと胸を撫で下ろす。

 良いに決まってるじゃないか。
 そうでなければ、プロポーズなどしないぞ?

 「あぁ、ティナが良い」

 フフッ。
 短くて簡潔。
 完璧な返答だ。

 その筈なのに、ティナは続ける。

 「私、ドジだよ?」
 「知ってる」
 「私、動くのも早くないよ?」
 「知ってる」

 幼馴染だぞ?
 そんなのは、とっくに知ってるさ。

 「話すのも、ゆっくりだし」
 「知ってるよ」

 それ、自覚あったのか。

 「それにーー」

 ティナは言いにくそうに顔を顰める。
 一番懸念している事。
 それを言葉にして伝えて良いのか、迷ったのだ。
 だが、ティナも素直に本心を話した。

 「私のスキル。きっと、ずっとカイルに迷惑かけちゃう」
 「そうだな」
 「うぅ」

 申し訳なさそうなティナ。
 今のは、少し意地悪だったか。

 「安心しろ、もう慣れてる。慣れているからこそ、対処法も色々学んだ。これからもティナの事は、俺が守っていける。そう考えたら、俺以外、ティナの伴侶は務まらないだろ?」

 俺の問いに、ティナは確かめる様に問い返した。

 「カイルは、本当に、それで良いの?」

 俺は小さく頷く。

 「ティナの側に居られるなら、喜んでな」
 「カイル~」

 ティナは俺に、正面から抱きついた。
 俺も彼女に両手を回し、軽く抱きしめる。

 「私、カイルが好き。優しいカイルが大好き」
 「そうか」

 「いつも私を見ていてくれて、ありがとう。これからも見ていて欲しい」
 「あぁ。そうする」

 「ずっと。ずっと、隣に居て欲しいの」
 「そばに居る。何があろうと」

 ティナの温もり、柔らかさ、良い匂い。
 そして好意を示す言葉。
 それらを五感で感じ、彼女を愛しく想う。

 「カイル」

 ティナが俺の名を呼び、見つめ合う。

 良い雰囲気だ。
 初キスを迎えてもおかしくない。

 だが、グッと堪える。

 「どうした?」

 抱き寄せた体を離し、俺は冷静に聞いた。
 彼女の目は、何かを決意した様に真摯的だった。

 「少し屈んでくれる?」
 「ん?あぁ」

 意図は分からないが、言われた通り屈んだ。
 すると、ティナは次のお願いをする。

 「良いって言うまで、目を閉じてくれる?」

 何で目を?
 今は閉じる必要性がないだろう?

 「何がしたいんだ?意味がーー」
 「いいから、言う通りにして?」

 強い口調で促され、従うしかなかった。

 「仕方ないな」

 俺は目を閉じた。

 まったく、何がしたいんだ。
 意図がわからないな。

 俺は鈍いのかもしれない。
 この時点で察する人もいるだろうに、ティナの行動が意味する事を、察知出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...