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(๑><๑) ハーシア49歳♡
01:夫、旅立つ
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1週間前ハーシアの夫でありセシル伯爵家の前当主ファクター・セシルが亡くなった。
教会での葬送。
そして埋葬も終わり未亡人になりたてのハーシアは主のいなくなった書斎に足を踏み入れた。
★~★
婚約をしたのは16歳の時。
馴れ初めは15歳のデヴュタントで警備についていたファクターの一目惚れ。
是が非でもと頭を下げられて婚約を結ぶことになった。
3年の婚約期間を経て19歳でファクターに嫁ぎ結婚生活は30年。
騎士だったファクターは辺境伯の娘の元に婿入りをした第3王子直属の隊に所属していて、有事があれば呼び出しがあり、遠い地まで出ずっぱり。
ファクターは火魔法の使い手でもあったため重宝されたのだろう。
1年のうち2、3か月王都の屋敷で過ごせばいいほうで3年帰れなかった事もある。
そんな生活だからか終ぞ子供に恵まれず、ハーシアの双子の妹ユリアの子サーシスを次期当主として養子に迎えたのが結婚12年目。今から18年前だ。
「母親は君の妹なんだ。君と同じ血が流れていると思えばいい。大丈夫。きっと愛せる」
ユリアとハーシアは姉妹だからと仲が良かったかと言えばそうでもない。
しかし貴族である以上、家名を後世に残す事は大事な事で自分たちに子が出来なかったのだから受け入れる他に術がなかった。
縁もゆかりもない子供でも良かったのだが、しがない子爵家に嫁いだユリアは3人の子供がいてサーシスは末っ子。継ぐ家もないし、家を出る時に渡せる財産も少ない。
双方の両親も、そして第3王子の口利きもあってサーシスを養子に迎えたのだった。
10歳になっていたサーシスがそれまで伯父、伯母と呼んでいたファクターとハーシアを親として受け入れてくれるか。悩んだものだったが心配は杞憂に終わった。
サーシスはハーシアに対し他人行儀に見えた。
実の母の姉なのだから仕方がない。
時間を掛ければとハーシアは優しく接したおかげか、15歳になる頃には当主教育も終盤で立場を受け入れると同時にハーシアの事も「母上」と呼ぶようになった。
サーシスを迎え入れて3年目。
ファクターは例の如く遠い戦地に向かったが、負傷して帰ってきた。
呪いの毒矢に足を射られ、歩くことが出来なくなっただけでなく全身の皮膚にはおどろおどろしい紋様が刻まれ、常に痛みがファクターを襲う。
ハーシアには治癒をさせることは出来ないが、毒をそれ以上広げたり、病状を悪化させたりするのを妨げる働きのある魔力があり、ファクターが15年も生きて居られたのはハーシアの魔力のおかげでもある。
サーシスが20歳になり爵位も譲って最期の日までを夫婦2人で過ごしていた。
「もし、次の世で君とまた夫婦で居られるのなら何処にも行かず、ずっと君の傍にいるよ」
「まぁ。殿下がお困りになりましてよ?」
亡くなる前日、意識も途切れ始め付きっきりになったハーシアの手を震える手で握り、ファクターが涙を流した事を思い出し小さく笑うと、もう一度部屋の中を見回した。
ファクターが亡くなって1週間。
サーシスが「この家は売りに出す」と言っていたが、言葉通り本が整然と並べられていた書架は無くなり部屋には最後の荷物となった執務机だけが残されていた。
以後ハーシアの住まう家は相続をした別邸。
王都のはずれに位置していて、これからは1人ぼっち。
形見としては色々と渡されてはいるが、家が売られる事で思い出が消えるような気がして寂しくも感じた。
こんなに早く家具などを買い取りに出さなくてもいいのにと思いつつも執務机の天板を撫で、在りし日の夫を真似て椅子に腰を下ろした。
引き出しを引いてみるが中身は空っぽ。
この立派な執務机も売りに出すのかと思うとサーシスはファクターを父と受け入れていなかったのか。とも思う。同時に最近は代々引き継がれた来た物よりも心機一転で全てを入れ替えるとも聞くので、そんなものかとも思ってみる。
「あら?」
違和感を感じ、さっき戻した引き出しをまた引いてみる。
「底が浅いのかしら?」
4段ある引き出しを引いたり戻したり。指を置いて確認をしてみたが上から3段目の引き出しだけ底が浅かった。
気になったハーシアは引き出しを抜いて底を覗き込んだ。
「何かしら。突起が」
他の引き出しも同じように抜いてみたが突起はなかった。
「変ね。もしかしてカラクリかしら?」
来年50になると言うのにハーシアは幼子の頃に戻ったような高揚感を感じ、何とかして謎を解き明かそうと引き出しと睨めっこ。
突起を押し込んでみると引き出しの底がカタンと浮いた。
「やったわ!」
隠されていた場所には手紙が数通。
ハーシアはその封筒の幾つかに実家の家紋が透けて見えたので婚約時代に交わした手紙を大事に持っていてくれたのだと思い、開いてみた。
懐かしい手紙だと便せんを取り出し、読むのが恥ずかしくなる明らかな恋文の文字に目を走らせて直ぐに気がついた。
「この手紙…」
30年以上前のこと。
記憶の相違はあるだろうし、文面の全てを忘れたものだって多いけれど明らかに違うものがある。
封筒には差出人の名前がないが、便せんの文末にはあった。
妹、ユリアの名前が。
教会での葬送。
そして埋葬も終わり未亡人になりたてのハーシアは主のいなくなった書斎に足を踏み入れた。
★~★
婚約をしたのは16歳の時。
馴れ初めは15歳のデヴュタントで警備についていたファクターの一目惚れ。
是が非でもと頭を下げられて婚約を結ぶことになった。
3年の婚約期間を経て19歳でファクターに嫁ぎ結婚生活は30年。
騎士だったファクターは辺境伯の娘の元に婿入りをした第3王子直属の隊に所属していて、有事があれば呼び出しがあり、遠い地まで出ずっぱり。
ファクターは火魔法の使い手でもあったため重宝されたのだろう。
1年のうち2、3か月王都の屋敷で過ごせばいいほうで3年帰れなかった事もある。
そんな生活だからか終ぞ子供に恵まれず、ハーシアの双子の妹ユリアの子サーシスを次期当主として養子に迎えたのが結婚12年目。今から18年前だ。
「母親は君の妹なんだ。君と同じ血が流れていると思えばいい。大丈夫。きっと愛せる」
ユリアとハーシアは姉妹だからと仲が良かったかと言えばそうでもない。
しかし貴族である以上、家名を後世に残す事は大事な事で自分たちに子が出来なかったのだから受け入れる他に術がなかった。
縁もゆかりもない子供でも良かったのだが、しがない子爵家に嫁いだユリアは3人の子供がいてサーシスは末っ子。継ぐ家もないし、家を出る時に渡せる財産も少ない。
双方の両親も、そして第3王子の口利きもあってサーシスを養子に迎えたのだった。
10歳になっていたサーシスがそれまで伯父、伯母と呼んでいたファクターとハーシアを親として受け入れてくれるか。悩んだものだったが心配は杞憂に終わった。
サーシスはハーシアに対し他人行儀に見えた。
実の母の姉なのだから仕方がない。
時間を掛ければとハーシアは優しく接したおかげか、15歳になる頃には当主教育も終盤で立場を受け入れると同時にハーシアの事も「母上」と呼ぶようになった。
サーシスを迎え入れて3年目。
ファクターは例の如く遠い戦地に向かったが、負傷して帰ってきた。
呪いの毒矢に足を射られ、歩くことが出来なくなっただけでなく全身の皮膚にはおどろおどろしい紋様が刻まれ、常に痛みがファクターを襲う。
ハーシアには治癒をさせることは出来ないが、毒をそれ以上広げたり、病状を悪化させたりするのを妨げる働きのある魔力があり、ファクターが15年も生きて居られたのはハーシアの魔力のおかげでもある。
サーシスが20歳になり爵位も譲って最期の日までを夫婦2人で過ごしていた。
「もし、次の世で君とまた夫婦で居られるのなら何処にも行かず、ずっと君の傍にいるよ」
「まぁ。殿下がお困りになりましてよ?」
亡くなる前日、意識も途切れ始め付きっきりになったハーシアの手を震える手で握り、ファクターが涙を流した事を思い出し小さく笑うと、もう一度部屋の中を見回した。
ファクターが亡くなって1週間。
サーシスが「この家は売りに出す」と言っていたが、言葉通り本が整然と並べられていた書架は無くなり部屋には最後の荷物となった執務机だけが残されていた。
以後ハーシアの住まう家は相続をした別邸。
王都のはずれに位置していて、これからは1人ぼっち。
形見としては色々と渡されてはいるが、家が売られる事で思い出が消えるような気がして寂しくも感じた。
こんなに早く家具などを買い取りに出さなくてもいいのにと思いつつも執務机の天板を撫で、在りし日の夫を真似て椅子に腰を下ろした。
引き出しを引いてみるが中身は空っぽ。
この立派な執務机も売りに出すのかと思うとサーシスはファクターを父と受け入れていなかったのか。とも思う。同時に最近は代々引き継がれた来た物よりも心機一転で全てを入れ替えるとも聞くので、そんなものかとも思ってみる。
「あら?」
違和感を感じ、さっき戻した引き出しをまた引いてみる。
「底が浅いのかしら?」
4段ある引き出しを引いたり戻したり。指を置いて確認をしてみたが上から3段目の引き出しだけ底が浅かった。
気になったハーシアは引き出しを抜いて底を覗き込んだ。
「何かしら。突起が」
他の引き出しも同じように抜いてみたが突起はなかった。
「変ね。もしかしてカラクリかしら?」
来年50になると言うのにハーシアは幼子の頃に戻ったような高揚感を感じ、何とかして謎を解き明かそうと引き出しと睨めっこ。
突起を押し込んでみると引き出しの底がカタンと浮いた。
「やったわ!」
隠されていた場所には手紙が数通。
ハーシアはその封筒の幾つかに実家の家紋が透けて見えたので婚約時代に交わした手紙を大事に持っていてくれたのだと思い、開いてみた。
懐かしい手紙だと便せんを取り出し、読むのが恥ずかしくなる明らかな恋文の文字に目を走らせて直ぐに気がついた。
「この手紙…」
30年以上前のこと。
記憶の相違はあるだろうし、文面の全てを忘れたものだって多いけれど明らかに違うものがある。
封筒には差出人の名前がないが、便せんの文末にはあった。
妹、ユリアの名前が。
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