貴方の妻にはなれなくて

cyaru

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(๑>؂<๑) ハーシア15歳♡

10:焦りと婚約

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「ねぇ、ハーシア」
「何」
「本ばっか読んでないで、出かけない?」
「何で?」

家から出ようとしないハーシアの元にはユリアが頻繁にやって来る。

引き籠もっている訳ではない。友人の茶会には出向いているし3日前も友人と歌劇を観てきた。
ユリアと出かける必要性がないので一緒に出掛けないし、今まで予定を伝え合ったことも無いのでお互いの予定を知らないだけ。


ユリアが焦っているのはデヴュタントも終わったので家には何軒かの釣書が持ち込まれているのも関係しているのだろう。

一番最初に持ち込まれたのはセシル家からだが保留になったまま。両親は受け入れる気はないようで昨日は男爵家からの釣書をハーシアに見せてきた。

ハーシアとしてはどうせなら西の国境に近い高位貴族の領地で代官職を担っている自領のない子爵家か男爵家が良いのではないかと思っているが、そんなに都合よく申し込みはやってこない。


「ねぇってば。話、聞いてる?」
「聞いてるわよ。出かけようって事でしょ?」
「そうよ。行こうよ」
「嫌よ。面倒だし。自分の友人を誘えばいいじゃない」
「それじゃダメなんだってば」
「なんでダメなの?姉妹じゃないとダメとかそんな決まりがある所、聞いたことないわ」
「いいじゃない!一緒に行ってくれたって!」


最後は声を大きく荒げて目に涙まで浮かべ、部屋から出て行くユリアにハーシアは「どうでもいい」と目で追う事もしない。

ユリアはものぐさな性格で、面倒事を嫌う。
きっと子爵家に嫁いだのも実家の伯爵家より爵位が下なので、少々強めに出れば従わせられると思ったのだろうし、先日の観劇の際にハーシアは友人からユリアがファクターと時折会っているようだと聞いた。

そんなにファクターと婚約をしたいのなら両親を説得すればいいだけ。
おそらくファクターと会わせて、自分たちの関係を後押しして欲しいと頼みたいのだろうと推測した。

その後はファクターの母親を相手にする事になるだろうが、ユリアの婚約を後押ししたことで「姉も手伝ってくれますので」なんて引っ張り出されたらたまったものじゃない。

勝手にどうぞと無視を決め込んでいたが、ユリアが部屋から出て行って数分の差で使用人が「旦那様がお呼びです」とハーシアを呼びにやってきた。

「お父様が?」
「はい。至急来てほしいと」
「何かしら」

もしやファクターが親を同伴して押しかけてきた?と在りもしない事を思って窓の外を見るが、アプローチにも馬車の旋回場にも馬車はない。

来客はないようだと安心したハーシアが父の部屋を訪れると束になった釣書を渡された。

「これは?」
「私の古い友人が仲介なんだが、ハーシアにどうかと思ってね」
「どうって…」
「あんなに楽しみにしていたデヴュタントにも行かなかった。相当な理由があると思ったんだが違うかい?」

――相当な理由ってほどでもないんだけど――

ぱらぱらと捲ってみると王都住まいではなく、地方に領地のある子爵家からの釣書だった。

「バイソン子爵家と言ってね。南の端に領地があるんだ。主な産業は水産業だが風光明媚な地で最近では道を整備して観光客を呼び込む事業も始めたようなんだ」

「へー。そうなんですねー」

乗り気ではない返事をすると父がコテンと首を傾げる。
てっきり王都に住まう友人と大喧嘩でもしてすっかり引き籠もりになったか、親が知らない大失敗をしたと思ってバツが悪くなり外に出なくなったとでも考えているようだった。

「会ってみるだけ会ってみないか?今、売り込みに王都に来ているそうだ」
「そうですね」
「年は35だからかなり離れているんだが…」

――若っ!――

父親は20歳も年齢差がある事を危惧しているようだが、ハーシアの中身は50に1つ手前。
35歳なんてお肌ぴちぴち、男盛りではないか。

――それに、私、中身はお父様より年上なんだけどな――

そこだけはハーシアの心にすきま風が吹き抜ける事実だ。


さらにページを捲ると子供の落書きのような絵が沢山出てきた。

「あぁ、領地の子供に描いてもらったらしいよ。彼のひととなりがそれだけでも解ろうというものだ」

中身の年齢が50に近いからだろうか。
目と耳は2つ。鼻は1つ、口も1つ。なのだが場所がとんでもないところにあったりして、思ったのは「可愛い」ということ。つい笑いが漏れてしまった。

それだけでも婚約云々は抜きにして会ってみたいなと思ったのだが「会います」と返事をした理由は30枚以上の絵姿の最後に「自画像」があり、見た瞬間に声を出し、腹を抱えて笑ってしまったからだった。

頭の上に耳があり、鼻が顔の大部分を占めていて申し訳ない程度に書き足されたような目と口。
体の線は単線で足と思われる線が1本多くて間違ったと気がついたのか、ぐしゃぐしゃと塗り潰したのが尻尾に見える。

――描き直そうと思わなかったのかしら――

その理由は直ぐに判る。
王都では大量に持ち込まれるので気にならない貴族が多いが、コウゾやミツマタなど紙の原料が育たない地域で紙は貴重品。書き直すための紙がなかったのだ。

なら子供たちに描かせねば良いのにと思う貴族は多いだろうが、バイソン子爵家では考えが違うのだろう。

ハーシアも領民は大切にして来た。
女だてらにと言われても、当主が遠征で留守だから仕方ないと言われたくなくて切り盛りしてきた経験がある。領民を大事にする当主に悪い人はいないはずと思いたい。

ハーシアはバイソン子爵家のプレデータに会う事になったのだった。
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