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第05話  嫌味には嫌味をお返し

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途中、雨にも降られミネルヴァーナがル・サブレン王国に到着をしたのはメレ・グレン王国を出立して118日目の事だった。

停戦の為の婚姻であり、歓迎されていないのはよく判る。
馬車を降りた瞬間からミネルヴァーナに突き刺さるのは嫌悪と侮蔑、そして軽蔑の視線だった。

「覚悟はしていたけれど…結構キツイわね」
「ミーちゃん。私が盾になりますからっ!」
「ふふっ。大丈夫よ。マリりんはそのままで。国でも似たような感じだったから」
「ミーちゃん。(うるっ)」

途中からマリーは同行できなくなる。

先導役についてミネルヴァーナは長い廊下を歩いた先、そこは謁見室。
目の前にある数段高い壇上にある豪奢な椅子にはル・サブレン王が鎮座していて、少し下がった位置の椅子には王妃。段を降りた位置には数人の男性が並んでいた。


「遠路はるばるよくぞ参られた」
「ル・サブレン王国、国王陛下にミネルヴァーナ・マルトン・メレ・グレン。挨拶申し上げます」
「よいよい。堅苦しいのはそなたも苦手であろう?」

国王の言葉に小さな失笑が王妃から漏れる。
ワガママでやりたい放題。マナーや所作を覚えるくらいなら男の落とし方を覚えた方がずっと有意義。そんな噂も流れるミネルヴァーナに対してのを国王が行った。

――あぁ、ここでも結局同じ扱いなのね――

悔しさで、カーテシーをした後の手がドレスを抓んで離れない。
が、ミネルヴァーナは真っ直ぐに顔を挙げて国王に微笑を返した。

「お心遣いありがとうございます。わたくしのような若輩者にもお心を配って頂ける格別のご配慮があるとは終ぞ思っても居りませんでしたので、間が空いてしまいました失礼をお許しくださいませ」


嫌味には嫌味で返す。

どうせ国には生きて帰って来るなと言われているし、この場で不敬だと言われるのならそこまでだ。ミネルヴァーナは腹を括り「気遣いなんて知っているとは思わなかったのでびっくりした」と回りくどく返した。


「ぐっ…そうか。いやいや聞くと見るでは大違いと申すがまさにその通りだな。今後はこのル・サブレンで心行くまで過ごすがよい」

「有難きお言葉。渡り鳥すら居心地がよいと聞くル・サブレン王国。堪能したいと思っております」

「ブアッハッハ。それなりに肝も据わっているとは面白い。ゆるりと楽しむがよい。アッハッハ」

今度は王妃が少し前のめりになり、立ち上がりそうになったが国王が声を上げて笑い飛ばした。
越冬するくらいしか使い道がない、ずっと過ごすには不向き。そんな意図も込めた言葉だった。

――意味わかったんだ。ま。いいか――

ミネルヴァーナは「王妃の動きには気が付かない」とまるで存在を認知していないかのように再度締めくくりのカーテシーを取った。


謁見室から出たミネルヴァーナはまた先導をされて控室に通された。
控室ではマリーがミネルヴァーナを待っていて、姿を見るなり「大丈夫でしたか?!」飛びついて来た。

人目もある場所で気安い呼び名が出来るはずもない。
到着して一息つく間もなく、旅装束ではないものの国王の前に出るには恥をかけと言わんばかりに着替える事も出来ないままの謁見。

ル・サブレン王国のやり方に聊か憤りも感じるが怒ったところでどうなるものでもない。

そんなミネルヴァーナにはまだ試練とばかりに次の面倒事が扉の向こうからやって来た。
筆頭公爵家ベルセール家の当主夫妻と夫となる男性、シルヴァモンドが入室してきたのである。


招かれざる客、いや妻だというのはミネルヴァーナが一番自覚をしている。
部屋に入って来る直前に従者が「ベルセール公爵様です」と告げたが、顔を見て馬車から下りた時、ひときわ厳しい視線を向けていた3人。先程の事で無くても見忘れる事も見間違う事もない。

挨拶もそこそこに「当家は貴殿を迎え入れたくて迎えた訳ではない」真っ先に当主の言葉が飛んで来た。

「貴女に当主夫人の心得を教える事も、妃としての振る舞いを要求する事もないわ」と当主夫人。

ミネルヴァーナとしても願ったり叶ったりだ。

「ありがとうございます。しなくていい事を先に教えて頂けるとは。その時間をもっと有意義な事に使えますもの。助かりますわ」

「あなたねっ!」

先ほどの王妃のように前のめりになったベルセール公爵夫人。
ミネルヴァーナは内心呆れてしまった。

――嫌味に嫌味で返されて腹を立てるなら言わなきゃいいのに――

教える事がないのなら、顔を確認しただけで良いだろうと考えるのはどちらも同じ。
若しくは「後はお若い2人で」と演出をしたいのか、腹を立ててまだ言わなきゃならない事がある!憤慨する夫人を連れて早々にベルセール公爵がシルヴァモンドに目配せをして出て行った。

――これだけを言うために来たの?暇なの?――

しばし、意表を突かれたようなミネルヴァーナだったが、本丸はコッチだったと直ぐに少しだけ後悔をした。
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