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第14話  ノモモ。甘いか酸っぱいか

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静かな食事はいつもの事。

カトラリーが時折皿に当たる音だけの静かな食卓を囲むのはベルセール公爵家の面々だった。

「別居は良いわね。この家をあの女狐に荒らされるのかと思うとゾッとするわ」
「うむ。確かにな。だが今届けている食材も与え過ぎじゃないのか?」

両親である公爵夫妻はミネルヴァーナの事を毛嫌いしていた。
結婚式を3日後に控えているが今もベルセール公爵家の中にはミネルヴァーナが使用する部屋は用意をされていない。

「兄上は報告書の虫だからね。ま、いい判断じゃないの?」

すこし小馬鹿にしたように声を出したのは次男のフェルディナンド。
シルヴァモンドが第3王子となり、今後は第2王子が即位する事で王弟となる。王弟は王族でありながら公爵家を1つ構える事になる。ただし立場としては王族なので貴族とは扱いが少し異なる。

公爵家であって公爵家ではない。
このベルセール公爵家を継ぐ事になるのは次男のフェルディナンドだった。

フェルディナンドにしてみれば、予想通りではあったが面倒な話でもある。幼い頃から両親はシルヴァモンドに継がせるために手を掛けてきたのでフェルディナンドは自由に出来た。

だから両親がそれぞれ権利だけを持っている伯爵家か子爵家を貰って独立するものだと思い、騎士になった。


「そういえばフェルは国境からの護衛についたんだったな。わがまま放題で手が付けられなかっただろう。不用品を押し付けられるなど本当に迷惑な話だ」

ベルセール公爵は吐き捨てるように誰に言うでもなくミネルヴァーナを貶した。

「さぁ。まぁ私には護衛も経験の1つとしか思わなかったので。個人的な事は報告書には書く欄もありませんから」

「はっはっは。そうだろう。そうだろう。文字にする価値すらない女だ。それでいい」

シルヴァモンドはフェルディナンドの物言いが気になった。
両親は頭からミネルヴァーナは悪女だと決めつけているので、どんな言葉も耳に都合よく聞こえている。

物言いが気になったのは、ここ数日届けられる報告がシルヴァモンドに迷いを持たせていた。


クーリン、チョアン、マーナイタ、そしてマリーの報告は流れる噂とは真逆。
かの日、あり得ないとゴミ箱に捨てた報告書を裏付けするものであり、マリーに至ってはミネルヴァーナに完全に傾倒しているとも思われる報告しか挙げて来ていない。

出国をする前に大量に買い込んだ、発注したと思われる品が国内に運び込まれた形跡もない。

同時にメレ・グレン王国に忍ばせている間者からはミネルヴァーナが出立しもうすぐ4カ月が過ぎようとしているが、王家がツケ買いする頻度は変わっていないとも報告されていた。

――どういう事なんだ?――

ちらりと弟のフェルディナンドを見たが、フェルディナンドは視線を合わせなかった。


フェルディナンドは約40日ほど国境から王都までミネルヴァーナの護衛を担当する部隊にいた。

「どうだった?」と聞いた時「まぁそれなりに?楽しかったよ」と返事を返してきた。曖昧過ぎる返事に護衛と言っても常に王女に張り付いている訳でもなく、先導班だったのかも知れないとそれ以上を聞く事はなかった。

ふと気がつけば甘いものは好まなかったフェルディナンドなのに食後に「ノモモをもう1皿」とデザートを食べるようになっていた。


「珍しいな。お前が果物を追加するなんて」
「そうかい?ものだろう?」

その言葉も文面通りにシルヴァモンドは受け取れなかった。

――なんだろう。何か引っかかるな――


運ばれてきたノモモ。皮を剥いで口の中に入れるまで熟れているか熟れていないかは判らない。赤く色づいたり柔らかくなったりもしないし、完熟で木から落ちる事もない。
当たり外れが激しいノモモは例え食べた時に吐き出すほど酸っぱいハズレでも怒り出す者はいない。そういう実なのだと判って食べる果物。

「ニュワッ!!しゅっぱ!!ハズレだっ!!」

1人騒いでワタワタするフェルディナンドの声だけがする家族の食卓に執事が来客を知らせて来た。


「モース侯爵家のエルレア様がご到着されました」

シルヴァモンドの胸がトゥクンと音を立てた。

「お通しして。直ぐに行くわ。シルヴァ。少し時間を置いて庭に来なさい」

公爵夫人はニマリと笑ってシルヴァモンドに言い残し、食事室を出て行った。

「兄上、どっちがいい?」

不意にフェルディナンドが両方の手にノモモをもって問うてきた。

「右だな」返事が早いか。フェルディナンドは右手のノモモをシルヴァモンドに放り投げて残った左手のノモモを皮のまま齧った。

「甘っ!大当たりだ」それだけ言うと残りをポンと口に放り込んで食事室を出て行った。

「なんなんだ?一体…」

ガリリとシルヴァモンドは受け取ったノモモを皮のまま齧った。

「フォグッ?!」

想像以上に熟れていないノモモは酸っぱさの塊だった。
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