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第15話 お節介のし過ぎは干渉
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モース侯爵家のエルレアは夫を亡くし2人の子供を抱えた寡婦となった。
子供は2人とも男児で1人は成人後にモース侯爵家を継ぐ。もう1人も夫の母、つまり義母が持つ伯爵家を興す事になっており、夫の死後もモース侯爵家で義両親と共に暮らしていた。
才色兼備な令嬢と呼ばれた独身時代、エルレアを巡って決闘騒ぎすらあった美女でシルヴァモンドも思いを伝える事は出来なかったが、心でエルレアの事は慕っていた。
そのエルレアが何の用があって屋敷に来たのか。いや母親が何故呼んだのか。シルヴァモンドは解らないままに言われた通り母親とエルレアが1杯目の茶を飲み終えた席に顔を出した。
「お久しぶりです。お美しさは相変わらずですね」
「まぁ。シルヴァモンド様。お久しぶり。聞きましたわ。この度は…ご災難?いえ・・・失礼でしたわね。おめでたい事ですもの。心ばかりとなりますがお祝い申し上げますわ」
チクリとシルヴァモンドの胸に棘が刺さった。
――こんな女性だったのか?――
シルヴァモンドの知るエルレアは誰を身贔屓する事もなく中立で、令嬢達の諍いを言葉で宥め、派閥と呼ばれる集団をつくる令嬢が殆どなのに孤高とも言うのか。
誰に縋る事もなく凛として己の立場を貫いている。そんな女性だったのだ。
年を取ると夫人の中には他家の悪評を特に好んで周囲に「ここだけの話」を齎す。夫を亡くして義両親と暮らしてはいるが、同年代の女性の友人は滅多に屋敷に訪ねて来ないのもあって義母に感化されてしまったのだろうか。
シルヴァモンドは「憐れな事だ」と情けを含んだ目でエルレアを見た。
「あら?いい雰囲気じゃない。年寄りの出る番ではないわね」
「母上、何を言い出すんだ?」
勘違いをされてしまったと少しムキになって声を荒げたシルヴァモンドの腕を近寄って来たエルレアが掴んだ。
「シルヴァモンド様、先ずはお掛けになって?ね?」
客人でもあるエルレアに気を使わせてしまったとシルヴァモンドは「すまない」と小さく謝罪をした後、着席をしたのだが、直ぐに立ち上がってしまう事になってしまった。
母親の言葉は常軌を逸脱していて、正常な精神ではないと感じたからである。
「今日、彼女に来てもらったのは他でもないの。シルヴァ。貴方の子供を彼女に産んでもらおうと思って」
「は?何を言ってるんだ?狂ったのか?」
「お聞きなさい。メレ・グレン女の子供なんて我が家には要らないの。でもね?シルヴァ。貴方は第3王子。第2王子に御子が出来るかどうかなんて誰にも判らないでしょう?貴方の子供がこの国を統べる事になるかも知れないのよ?」
シルヴァモンドの首筋に嫌な汗が玉になって背中に流れていく。
まるで第2王子に何かあるような口ぶり。ハッとしてエルレアを見ればすました顔で2杯目の茶を飲んでいた。
「母上、殿下に何かあるかと思われる言葉は慎んでください。何処で誰が聞いて居るか判らないのですよ」
「だから庭に来たのよ?」
ニマっと笑う母親に心の中が騒めき立つ。
「彼女もそう言う事ならと引き受けてくれたの。ねぇ」
公爵夫人の問いかけに妖艶な笑みを浮かべて会釈で返すエルレア。シルヴァモンドは気分が悪くなった。
「出自もしっかりしていて血筋も申し分ない。貴方がもう少し男気を出していれば彼女がモース家に嫁ぐ前に婚約を申し入れても良かったくらいなのよ?」
「シルヴァモンド様。寡婦の務めには王子に閨を教える役目もあるのです。ですのでお気になさらず。御子については養育権なども放棄する覚悟でございますので」
確かに寡婦となった夫人が王子に閨事を教える事はあるが、それはもう子が産めぬように月の物が終わった高齢の夫人に限られる事で、妊娠の可能性のある夫人は寡婦の歴が長くても除外される。
母の言葉とエルレアの態度。既に手を回してあるのは明白だった。
「閨指導など必要ありません」
「シルヴァ。高貴なベルセール公爵家、そして建国は他国よりも長く続くル・サブレン王国の王家にメレ・グレンの血など不要なのです。王女を妻とせねばならないのはこの際仕方がないでしょう。ですが!ベルセール家が譲歩できるのはそこまでだという事です」
「だとしても異常だ。母上、モース夫人!余計なお節介、いや干渉はやめて頂きたいッ!」
シルヴァモンドは中座をして部屋に戻ったが、その後もエルレアは帰る気配もない。
そんなシルヴァモンドにあの若い執事が恐ろしい事を告げた。
3日後に控えた結婚式にもエルレアはベルセール家に割り当てられた席で参列をする事になった。と。
子供は2人とも男児で1人は成人後にモース侯爵家を継ぐ。もう1人も夫の母、つまり義母が持つ伯爵家を興す事になっており、夫の死後もモース侯爵家で義両親と共に暮らしていた。
才色兼備な令嬢と呼ばれた独身時代、エルレアを巡って決闘騒ぎすらあった美女でシルヴァモンドも思いを伝える事は出来なかったが、心でエルレアの事は慕っていた。
そのエルレアが何の用があって屋敷に来たのか。いや母親が何故呼んだのか。シルヴァモンドは解らないままに言われた通り母親とエルレアが1杯目の茶を飲み終えた席に顔を出した。
「お久しぶりです。お美しさは相変わらずですね」
「まぁ。シルヴァモンド様。お久しぶり。聞きましたわ。この度は…ご災難?いえ・・・失礼でしたわね。おめでたい事ですもの。心ばかりとなりますがお祝い申し上げますわ」
チクリとシルヴァモンドの胸に棘が刺さった。
――こんな女性だったのか?――
シルヴァモンドの知るエルレアは誰を身贔屓する事もなく中立で、令嬢達の諍いを言葉で宥め、派閥と呼ばれる集団をつくる令嬢が殆どなのに孤高とも言うのか。
誰に縋る事もなく凛として己の立場を貫いている。そんな女性だったのだ。
年を取ると夫人の中には他家の悪評を特に好んで周囲に「ここだけの話」を齎す。夫を亡くして義両親と暮らしてはいるが、同年代の女性の友人は滅多に屋敷に訪ねて来ないのもあって義母に感化されてしまったのだろうか。
シルヴァモンドは「憐れな事だ」と情けを含んだ目でエルレアを見た。
「あら?いい雰囲気じゃない。年寄りの出る番ではないわね」
「母上、何を言い出すんだ?」
勘違いをされてしまったと少しムキになって声を荒げたシルヴァモンドの腕を近寄って来たエルレアが掴んだ。
「シルヴァモンド様、先ずはお掛けになって?ね?」
客人でもあるエルレアに気を使わせてしまったとシルヴァモンドは「すまない」と小さく謝罪をした後、着席をしたのだが、直ぐに立ち上がってしまう事になってしまった。
母親の言葉は常軌を逸脱していて、正常な精神ではないと感じたからである。
「今日、彼女に来てもらったのは他でもないの。シルヴァ。貴方の子供を彼女に産んでもらおうと思って」
「は?何を言ってるんだ?狂ったのか?」
「お聞きなさい。メレ・グレン女の子供なんて我が家には要らないの。でもね?シルヴァ。貴方は第3王子。第2王子に御子が出来るかどうかなんて誰にも判らないでしょう?貴方の子供がこの国を統べる事になるかも知れないのよ?」
シルヴァモンドの首筋に嫌な汗が玉になって背中に流れていく。
まるで第2王子に何かあるような口ぶり。ハッとしてエルレアを見ればすました顔で2杯目の茶を飲んでいた。
「母上、殿下に何かあるかと思われる言葉は慎んでください。何処で誰が聞いて居るか判らないのですよ」
「だから庭に来たのよ?」
ニマっと笑う母親に心の中が騒めき立つ。
「彼女もそう言う事ならと引き受けてくれたの。ねぇ」
公爵夫人の問いかけに妖艶な笑みを浮かべて会釈で返すエルレア。シルヴァモンドは気分が悪くなった。
「出自もしっかりしていて血筋も申し分ない。貴方がもう少し男気を出していれば彼女がモース家に嫁ぐ前に婚約を申し入れても良かったくらいなのよ?」
「シルヴァモンド様。寡婦の務めには王子に閨を教える役目もあるのです。ですのでお気になさらず。御子については養育権なども放棄する覚悟でございますので」
確かに寡婦となった夫人が王子に閨事を教える事はあるが、それはもう子が産めぬように月の物が終わった高齢の夫人に限られる事で、妊娠の可能性のある夫人は寡婦の歴が長くても除外される。
母の言葉とエルレアの態度。既に手を回してあるのは明白だった。
「閨指導など必要ありません」
「シルヴァ。高貴なベルセール公爵家、そして建国は他国よりも長く続くル・サブレン王国の王家にメレ・グレンの血など不要なのです。王女を妻とせねばならないのはこの際仕方がないでしょう。ですが!ベルセール家が譲歩できるのはそこまでだという事です」
「だとしても異常だ。母上、モース夫人!余計なお節介、いや干渉はやめて頂きたいッ!」
シルヴァモンドは中座をして部屋に戻ったが、その後もエルレアは帰る気配もない。
そんなシルヴァモンドにあの若い執事が恐ろしい事を告げた。
3日後に控えた結婚式にもエルレアはベルセール家に割り当てられた席で参列をする事になった。と。
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