この結婚、ケリつけさせて頂きます

cyaru

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第32話  出て来なさい!そこにいるんでしょ!

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「大丈夫か?すまない。大きな声を出してしまった」

寄り添おうとするシルヴァモンドだったが、マリーが体を寄せて邪魔をする。
小指は打ち付けてしまうとかなり痛い。

――爪は割れてないと思うんだけど――

部屋履きのスッポリ型スリッパに血は滲んでいないのが救い。フェルディナンドが何を救いたいかは知らないがミネルヴァーナの救いはその程度で良いのだ。

「お二人とも、喧嘩をするのなら出て行ってください。話がしたいのならお座りください」

大人しく着席する2人にミネルヴァーナはかの日感じた事を思い出した。

――やっぱりドM気質なのね。って事は公爵も…――

この先は危険な大人の想像になる。ミネルヴァーナは首を振って考えを打ち払ったが、フルフルと首を振る姿を見てシルヴァモンドとフェルディナンドは何故か頬を赤く染める。

「先ずですね。シルヴァモンド殿下が――」
「殿下なんて言わないでくれ!」
「お黙り!話の途中です!」
「ぁい…」

強めに言えば引き下がる。ミネルヴァーナの中でドMが確信により近くなる。

「エルレア様でしたかしら。おそらくはあの白いドレスで結婚式に参列くださった方だと思いますが、お好きになさってくださって結構です」

「そんな!私は愛人など持ったりしない!確かに酷い事を言った。だが!それは噂に惑わされてしまっただけなんだ。誰だって間違いの1つや2つあるだろう?反省をしてるんだよ」

「反省は猿でもタヌキでも躾ければそれなりにします。それに…殿下の間違いは1つや2つでは御座いませんでしょう?今だってそう。王族である事を忘れ護衛も着けずやって来る。それが国家にとってどれほどの事か。何のために第3王子に抜擢されたのです?」

「そ、それは…」

「スペアだからです!」

本当の事だが、言葉にされるとそれなりにキツイ「スペア」
音頭を取る頭に抜擢されたならいざ知らず、万が一の控え。解っていても辛いものがある。

「それから…公爵家の当主になるのなら軽はずみな発言はお控えなさって。仮にホイホイと話に乗る令嬢が第3王子の妃であったならどうなさるおつもり?国家転覆でも狙っていらっしゃるの?」

「そういう訳じゃないけど…でもっ!」

「でもではありません。当主になるのならもっとしっかり学びあそばせ。そもそもで!貴方たちは色恋に気を取られ過ぎです!」

言い切ったミネルヴァーナに2人は姿勢を正した。
先ずはフェルディナンドを向いたミネルヴァーナは腰に手を当てて胸を張った。

「自分自身も救えていないアナタが誰かを救うなど烏滸がましいのです」

そしてシルヴァモンドの方を向く。

「やり直そう?そこへ半年足らずで撤回するような言葉を口にするなど言語道断です」

続いてテーブルから離れ、玄関に向かうと閉じた扉に向かってミネルヴァーナは声を上げた。

「隠れてないで出て来なさい!こそこそと盗み聞きなど恥を知りなさい!」

国で虐げられている時に培い、磨き上げた察知能力。決して魔法や加護ではない。
食べられそうな野草を見つけて、こっそりと頂く。

そうしないとカイネルのような嫌がらせではなく他の異母兄弟姉妹は全て引き抜いてしまったり、池にしてしまったり。時に焼き払ってしまう事もあった。
何より第11王女でもあったミネルヴァーナには王族の醜聞を押し付けられていたので、実情を知られる事は不味いと考えられていたので広大な城の敷地の中でも奥まった場所を与えられていた。

誰かの気配を感じれば身を顰め、息を殺す。まるで諜報のような生き方をする中で人の気配を察知する能力はどんどん磨かれて行った。

だからこそ、この家が監視されているのも知っていた。
隠すよりも堂々としていれば変に勘繰られる事もない。一番面倒なのは秘密裏に行おうとすることがあればどうしても秘密を抱える事になり、人はその部分に勝手に着色してしまうので何もする事が出来なくなってしまうのだ。

ミネルヴァーナの言葉にゆっくりと扉が開く。

立っていたのはステファンだが、掃除を省いてくれたのか花は抱えていない。
褒めるのはそこだけなのが哀しい所。

「どちら様?」
「どちら様も何も…このル・サブレン王国の第1王子と言えば解ってくれるかな?」

そこにいた中でステファンの顔を知っているのはシルヴァモンドとフェルディナンドのみ。しかしシルヴァモンドは「どうして?」と困惑の表情。

シルヴァモンドの中でステファンはとこに臥せる王子であって自分の足でうろうろと歩き回れるような王子ではなかったはずである。

健康で問題ないのなら第3王子にされる必要など全くなかった。
シルヴァモンドだけが知らないようで焦りを隠せない。

「で、殿下…どうして?いや、ご病状は?!」

やっと声が出たシルヴァモンドに「病弱なんかじゃない」とフェルディナンドは呟いた。

「どう言う事なんだ?お前は知っていたのか?!こんな重要な事を!」

テーブルを挟んだ向かいに腰掛けるフェルディナンドの胸ぐらをつかみあげたシルヴァモンドだったがミネルヴァーナが見ている事に気が付くとその手を離した。

「フェルを叱らないでやってくれ。これも私の身を守るために仕方なかったんだ」

やはり図々しい人間は空気を読まない生き物である。
ステファンはズカズカと家の中に入ってくるとフェルディナンドの後ろに回り、その肩に手を置いた。

――あの、忘れてるようだけど、貴方たち、客なのよ?――

ミネルヴァーナはどうやってこの3人を叩き出そうか。
そればかりを考えてしまったのだった。
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